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建物の外に出た竜が俺に背中を見せて、姿勢を低くしている。
もしや、乗れっていうのか?
どう見てもそれだ。
リンの方をちらっと見ると、何も言わずに頷く。
「そっか……じゃあ」
俺は走って……竜の目の前で止まる。
「すまん、飛び乗れそうにない……」
リンほど運動神経が良くないので、姿勢を低くしてもらっても飛び乗れない。
後ろを見ると、リンは肩をすくめていたし、竜もこっちを見てため息をついた……ように見えた。
その直後、竜が首を俺の方まで伸ばして、
「わ、わわッ!?」
俺の胴体を咥えて持ち上げる。
気が付いた瞬間には空中に放り出されていて、
「痛ッ……」
竜の身体に激突する。
大きな身体だが、背中の上はあまり広くなさそうだ。
眠っていて寝返りを打ったら落ちてしまう程の幅しかない。
竜の肩から一対の大きな翼が生えていて、首の先には後頭部が見える。
「俺……竜に乗ってるのか」
状況を確認していると、リンがゆっくり寄ってきた。
「さあ、先に行って」
「グゥ……」
「え、リンも一緒じゃないの?」
竜も俺も同じような反応をする。
てっきり、リンも乗って一緒に学校まで行くものだと思っていた。
「だって、初めて人乗せた飛行だし……私も乗って重量オーバーでしたってなったら墜落しちゃうでしょ?」
え、初めてなの?
俺も乗ったら実は重量オーバーでしたってなったら落ちるの?
「だから、私は走っていくから。さあ、行きなさい!」
その直後、リンは俺たちから離れていく。
本当に走っていくつもりだ。
俺が引き止める言葉を言う前に、姿がどんどん小さくなっていく。
取り残された俺は、待っている竜に対して、
「じゃあ、行くか!」
背中をポンポンと叩く。
すると、竜は両翼を大きく羽ばたかせる。
「うおッ」
その羽ばたきの風圧を感じるとともに、フワッとした浮遊感を身体全体で感じた。
それは周りの景色が確かに証明している。
徐々にアイツのいつもいる石の建物が、少し遠くに見える山の木々が遠くなっていく。
巨体を浮かせるための羽ばたく力は強く、翼の後ろにいたら吹き飛ばされてしまいそうだ。
だから、俺は少し前に進んで翼の間、首の付根をつかむ。そうすれば、風で落とされることがないし、コイツと会話もできるだろう。
あっという間に、落ちたら無事でない高度になる。
遠くには街が一望できる。山の近くは畑だらけで、学校を境に住宅街が広がっていて、住宅街から離れた場所に線路がある。俺の住んでいる街はこうなっていたのか。
俺は最も近い場所で竜を感じていた。
竜の住む街と言われているこの場所には本当に竜がいて、こうして空を飛んでいる!
「グゥ……」
水平に見える景色が全て空になるほどの高度に達した時、竜は心配そうにこちらを向いた。首が長いからこそ、できることだ。
「大丈夫、ちゃんといるよ」
首の付根からそう言うと、竜はコクリと頷いてから正面を見る。
学校と思われる場所から、煙がモクモクと上がっていた。真っ黒な煙が。
夕方に足を踏み入れて、オレンジ色の中に異質の存在がそこにあった。サイレンのような赤い光はここからでは確認できない。急がないと、柏木が危ないだろう。
「さあ、進もう! 柏木を助けて、ついでにお前がこの街に住んでいることを証明してやるんだ!」
高度が上がっていく。高く、高く、高く……飛んでいく。
もう街が豆粒みたいだ。
こんな景色はもう二度と見れないかもしれない……いや、竜と一緒ならまた見れるか。
「行くぞ!」
「グオオオオオオォォォォォォ!!」
街全体に届きそうな、咆哮だった。
彼女が羽ばたくと、今度はゆっくり降下しながら煙の上がっている方向へと進んでいく。ここからなら、そう時間はかからないはずだ。
待ってろよ、柏木。
お前が探している竜と一緒に、現場に向かうんだ。
「お前、やれば飛べるじゃないか」
人を乗せた飛行に慣れていないのか、進む速度はゆっくりにも感じるが。
「そういえば、この前――お前がいなかった時に立田川に会ったんだ」
せっかくだから、僅かな時間でも会話できればと思い、竜に話しかける。
立田川の名前を聞いた瞬間に、ガクンと一瞬落ちる感覚がした。
「お前は立田川が生まれた時からずっと一緒みたいだから知ってるだろうけどさ、すごく内気でさ、人と話すのが苦手なのかと思ってた。でも、ちゃんと話せばしっかりしてるし、面白いし……その、可愛かった」
本人に面と向かって言えないから、その代わりというわけではないが、竜に思っていることを伝える。
「俺さ、中学の時から立田川と同じクラスでさ、なのに初めて話せたのがつい最近なんだ。しかも、初めて会話した時はめっちゃ嫌がられた」
なんで、
「毎年、同じ時期に休むからなんでだろう。疑問に思ってたんだ。聞けば答えてくれるかと思ったんだ。でも、すごく嫌がられた。ショックだったし、リンにとても怒られた」
俺はそんなことを今、
「単純な興味だったのかもしれない。その時はそう思ってた。ただ、この前の流星群の時、立田川とたくさん会話して、今までにないくらい楽しかった。ずっと抱いていた疑問がどうでも良くなるくらいに。それでさ、俺考えたんだ」
この竜に言ってるんだろう。本当なら、本人言うべきなのに。
「もしかしたら、中学の時から立田川のことが」
――好きだったのかもしれない。
「グッ……!?」
俺がその言葉を言った瞬間、一気に高度が落ちた。




