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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第一章 立田川流子
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 この街に昔から言い伝えられているという竜の住む話だ。

 今でも竜が住んでいると噂をされているが、当然の事ながら誰も見たことはない。

 そんな竜が、今まさに俺の目の前にいるのだ。

 どこかの山の頂上に、その竜が。

 四つの足がずっしりと地面を踏みしめ、紫色に見える鱗が太陽の光を反射をしている。

 三メートルほどの高さがある胴体、背から大きな羽が生えている。

 その奥には長い尻尾がゆらゆらと揺れていて、俺が顔を少しあげると、長い首を縮こませた竜の顔が正面に存在している。

「グオオオォォォォォォ――!!」

 その竜が顔を天に向けて雄叫びをあげる。

 声が何となり、辺りに衝撃となって襲いかかる。

 俺はその衝撃に耐えながらもグッと踏ん張り、じっと耐える。

 ああ、竜は本当にいるんだ。

 胸が高まるのを感じる。

 竜の住む街と言われ、俺はこの街で生まれ育ってきた。

 住宅街が広がり、そこから離れると畑が広がる田園地帯へと変わる。

 都会でも田舎でもない中途半端な街。

 小さい頃は本当に竜が住んでいると信じていたが、そんなものは噂にすぎないと気付かされたのはいつのことだろうか。

 でも、その竜が目の前にいるんだ!


 ――おい。


 おや、誰かの声が頭の中に響くぞ……。

 目の前の風景が揺れている。徐々に揺れが強くなってくる。


 ――おい。


 あ、まただ。

 今度は身体が大きく揺れる。

 竜の姿が大きく歪んで……あれ、おかしいぞ?

 少しずつ、視界がぼやけて……。


   *


「おい!」

「って、うわぁ!!」

 後頭部に大きな衝撃を受けた。

 それと同時に『意識が覚醒する』。

 ん、意識が覚醒?

 ああ、俺は寝ていて夢を見ていたのか。

 それにしても、せっかくいい夢を見ていたのにそれを邪魔をするだなんてけしからん。

 どんな夢を見ていたかなんてもう思い出せないけれども。

「誰だ!」

 椅子を引いて、後ろを向く。

 そこにはセーラー服を身にまとい、丸めた教科書をポンポンと叩いている女子がいた。

 白いセーラー服で赤いスカーフのよく見るデザインである。

 ちなみに男子は学ランだ。

 辺りに視線を動かすと、机を動かしているくっつけ、弁当を広げながら談笑するグループがいくつもあり随分と賑やかな教室だった。時計は、短い針が少しだけ右にズレている。

 そうか、俺は今学校にいて、現在昼休みか。

 この席は教室中央の後ろから二番目だ。

 どうやら俺は寝ぼけていたようだ。

 で、目の前の女子は黒髪で長いポニーテールを揺らしている。

「誰じゃないわよ。ほら、早くどきなさい」

「なんだよ、俺の睡眠を邪魔しやがって……」

「いや、あんたね」

 あ、眉間にしわが寄っている。

 怒りの表情がにじみ出てるなぁ。

 そんな感じで俺に気安く話しかけてくる女子。

 名前は、

「リン」

 成鐘なるかね りん、幼馴染だ。

「何よ」

「呼んだだけ」

 あ、ヤバい。

「コノヤロー!」

 直後、リンは教科書を持つ手を振りかぶって、

「いってー!」

 俺の額にクリーンヒットして、教室中にパコーンという小気味いい音が鳴り響くのだった。

 くそ、二回も叩きやがって。

 幼馴染もリンの住んでいる家は、俺の家の正面にある。いわゆる、お向かいさんなわけだ。

 親同士は今でも仲が良い。

 俺とリンは小学校までは一緒で、中学はリンが私立に進学したため別々になった。

 まあ、朝はよく顔を合わせて挨拶やたまに近況の報告はしあっていたが。交流という交流はほとんどなかった。

「だから、早くどきなさいって!」

 小学校まではそんな暴力的な性格じゃなかったはずなんだけどなぁ。

 で、高校に入学したらばったり鉢合わせ、一緒になっていたのだ。

 この高校はそこまでレベルが高いわけではないんだけど、もしかしてリンってあまり頭が良くなかったりするのだろうか?

 まあ、そんなこんなですごくフレンドリーに教科書で俺の額を殴打する仲である。

 現在、六月。梅雨のジメジメした時期の話だ。

「なんでどかなきゃいけなんだよ」

「いや、ね」

 あれ、なんで呆れてるんだ?

「そこ、私の席なんだけど」

「……は? 昼休みになってから寝てたんだから、俺の席じゃないのか?」

「いやいやいつまで寝ぼけてんのよバカ。あんた、そんなファンシーな筆箱持ってるわけ?」

「……?」

 えーと?

 言われるがままに、机から頭を覗かせていた筆箱を取り出してみる。

 その筆箱はピンク色で可愛らしいキャラクターのそれだった。

 うん、俺のじゃない。

「えっと」

 ついでにさ、俺が枕にしていた柔らかい白い布。広げてみるとティーシャツ。通称体操着。

 あ、思い出したぞ。

 昼休みになって、友人に誘われてリンの席を借りたんだ。

 で、飯食って眠くなったから眠ってしまって今に至るわけだ。

 机のままだと固いから、無意識のまま体操着と取り出してたのか。

「あー、スマ――」

「こんの、バカァ!!」

「え、ふんぬぉ!?」

 リンの裏回し蹴りが俺の首をかいて、椅子ごと吹き飛んだ。

 あー、ゆっくり宙を浮いているぞ、死ぬ瞬間ってスローモーションに……なるわけもなく、ガシャンと床に落ちる。

 さて、自己紹介をもう一度。

 俺の名前は荒谷あらや 珠希たまき

 高校一年、梅雨に足を踏み入れた六月。そんな時期の話である。

 

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