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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第四章 緊急連絡
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「……マジで?」

『マジだ。大体の人間は避難できているが、オレは不覚にも取り残された』

 パチパチという音は炎の音か。

 柏木は思ったよりも危険な状況かもしれない。

「で、柏木、今どこなんだ?」

『旧校舎って言えばわかるか?』

「あー、知ってる知ってる。部活でよく使われる建物だろ?」

 旧校舎。基本的にはほとんどの生徒は存在しか知らない、校舎から少し離れた場所に立っている建物だ。

 その建物で授業を行われることはない。しかし、部室として使われているし、地域の人たちに貸し出してもいたはずだ。

 帰宅部の俺には全く縁がなく、入ったこともない建物。それでも、存在だけは知っている。

 リンが不思議そうな表情でこちらを伺っているが、すまんもうちょっとだけ待ってくれ。

『そうだ。その旧校舎の二階の一番奥の部屋を使っていたんだが、気がついた頃には火の手が回っていた』

「他に脱出する経路はないのか?」

 俺の表情に気がついたのか、リンが近づいて俺の電話に耳を近づけている。

『残念だが、旧校舎の階段は建物のど真ん中に一つしか無くて、もうすでに通れそうにない』

「マジか……」

 どんな状況なのか、耳で聞いても頭が理解できていない。

「それで、消防車は?」

『旧校舎の周囲に教師がいるから、もう通報されているはずだ。だが、まだ時間かかりそうだ』

 呼ばれてすぐに到着したら、俺まで電話をかけてくるなんて事ないはずだ。

 柏木は火事だというのに随分冷静だ。だからといって、急に発狂して取り乱すような人間ではない。

 リンも何かを察したようで、俺に目線を送っている。

「二階なら飛び降りられないか?」

『いや、コンクリだし飛び降りたら大変なことになる。窓からアピールしてるが、生徒は取り乱してるし、すぐに助けてくれそうにない』

「で、なんで俺に電話かけてきたんだ?」

『まあなんだ。オレもそんな友人多くないし、助けてくれそうなヤツに電話してみた』

「分かった。助けに行く」

『消防車の到着を待……は?』

 俺は通話終了のボタンを押した。

「ねぇ、柏木がどうしたって? ……すごい汗だけど」

 すぐにリンが尋ねてきた。そんな汗をかいてたのか。

「旧校舎で火事が起きて、取り残されたって」

「……マジで?」

「マジだ」

 俺は立ち上がって、眠っている竜の方を見上げる。

 そして、歩き出そうとした瞬間、腕を掴まれて静止する。

「何だよ、リン」

 座ったままのリンは目を閉じて、ゆっくりと目を開けた。

「アンタ、何をするつもりなの?」

 そんな、決まってるだろ。

 きっと、リンも俺の答えをわかっているはずだ。それでいて聞いてきている。


 ――アイツと一緒に柏木を助けに行く。


 はっきりと伝える。

 無言の時が続いて、風が吹いてから、

「……本気?」

 リンが口を開く。

「ああ、本気だ。それに、街に竜がいることを知ってもらう絶好の機会だと思う」

 俺の答えにリンは怒りも笑いもせず、

「あの子に何ができると思うの?」

「なんだってできるはずだ」

「本当に? 飛べないし、仮に学校まで行けたとしてどうやって柏木を助けるっていうの?」

「アイツは飛べる。俺は知っている。学校まで行ったら、柏木を背中に乗せればいいだろう」

「じゃあ、学校にいる人達――いや、街の人たちが拒絶したら?」

「大丈夫だ。それに、もしそんなやつがいたら、俺がぶん殴ってやる」

 そう言って、拳を見せる。

 まあ、リンの脚に比べたら、全然鍛えられていないんだけど。

「……大した自信ね」

「全く、俺もそう思う」

 出来る限りのできることを述べたが、どれ一つ上手くいく確証がない。むしろ、上手くいかないことしかない。

 それでも、柏木が大変なことになってるんだ。わざわざ電話をかけてきてくれた。

 だから、出来る限りのことはしたかった。

 それに、大変な時だからこそ、竜がピンチに駆けつけたらとても格好いいだろう?

「ふふッ」

 リンは短く笑った。

 そして、俺の手を掴んだまま立ち上がる。

 その笑いはやはり怒りでも悲しみでもないが、喜んでいるというわけでもなさそうだ。。

「何がおかしいんだよ。時間がないんだ」

「本当にタマキはバカだね」

「ああ、俺はバカだよ。柏木の危機を利用して、竜をこの街に放とうって言うんだから」

 そんなこと、知ってた。

 アイツ……紫色の竜を見た時から、俺は大馬鹿野郎であるなんてこと知っていたさ。

「こんな真面目な話になるなんて夢にも思わなかった」

「全くだ。俺もそう思う」

 もしかしたら、夢なのかもしれない。

 気がついたら朝で、竜に出会ったこと、立田川と話したこと、全てが夢なのかもしれない。ちょっと怖いけど、いや、これが夢なはずはないんだ。

「無駄話してる時間はないんだ」

「そうね。いいわ……できるもんなら、あの子を叩き起こして説得してみせなさい」

「ああ!」

 数十センチの距離だが、俺とリンは眠っている竜へと駆け寄っていく。

 

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