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立田川の家の門から出た俺は空を見上げた。
今もわずかながら星が最期の時を迎えながら、満月が一帯を照らしてくれている。
月光のお陰で、足元も完全に真っ暗ではないのが救いだった。ただ、携帯電話の灯りがないと心もとないのは変わりない。
夜も遅いので足早に田園を抜けて、夜の学校の横を通る。
校舎の方へ顔を向けると、灯りは全て消されていて、窓から薄ら輝いている緑色の非常灯が気味悪い。
校門までやってきたけど、締め切られているようだ。
柏木が屋上で流星群を撮るって言ってたけどまだいるのだろうか。
締め切られてるってことは、もう帰ってしまったのだろうか。
と、立ち止まっていると、
「ちょっと、アンタ!?」
声かけられた。しかも、そこの声は今一番聞きたくない声だった。
「げッ……」
恐る恐る、その声の主の方向へ向く。その方向は今から俺が帰る方向だ。
そこに立っているのはよく見知った女子。
白い半袖のティーシャツにデニム生地のハーフパンツという動きやすくラフな格好をしている。髪の毛は降ろしていて、腰よりちょっと短いロングヘアが揺れている。
「リンじゃねーか! どうしたんだ、こんな時間に」
そう、幼馴染の姿だった。ムッとした顔で、腰に手を当てている。荷物は無い。
「それは私のセリフよ! アンタこそどこに……もしかして流子の家に言ったんじゃないわよね?」
なんでそんな問い詰められないといけないんだろう。いや、当たり前か。
週末は絶対に行くなってリンに言われていたのに、俺の方向から戻ってきたのだ。
疑われるのも無理はないし、実際に行った。素直に吐いたらここで死ぬ。
「そんな、行くわけ無いだろ? 俺はただ……」
「ただ?」
ヤバい、誤魔化せない。
わざわざこの辺まで来る用事が思い当たらない。
いや待てよ、今日は流星群の日じゃないか。
「ただ、星を見るために山に登ってきた」
「ふぅん」
何だそのあしらい方は! 確かに苦し紛れだったことには代わりはないが、俺だって言い返してやる。
「で、そんなリンはこれからどこに?」
「うッ」
リンもか!
「わ、私は、えっと……そう、星を見に、流星群だしね」
目が泳いでるし、ちょっとずつ顔を背けている。
「……」
「……」
俺もそれ以上突っ込まれたくないので、自然と顔を背けてしまう。
そんな沈黙が続き、互いに指を指して、
「ダウトだな」
「ダウトね」
お互いに嘘を認めあった。
さすが幼馴染同士というべきか、嘘が下手同士というか。
ちょっと嘘をついているくらいだったらすぐに分かってしまう。
「で、タマキはどこに行ってたの?」
「あー、えー……」
ジトーっとした目で見られているし、嘘は一瞬でバレる。
本当のことを言っても嘘を言っても多分許されない。
「アイツ――竜のところに行った。会いに行った」
「マジで?」
「マジでゲフッ」
蹴られますよねー。
「……あのさ、週末は絶対ダメって言ったよね? 何度もお願いしたよね」
「はい」
「で、何のつもりなの?」
「言い訳させてくれ……会いに行ったはいいけど、アイツはいなかった。リンはアイツがいないから行くなって言ったんだよな」
俺は蹴られた腹を抑えながらリンに言い訳をする。
「へ? ああ、まあ、そうね」
だが、リンはなぜか動揺しているようだった。
「で、アンタ。あの子がいなくてどうしたの?」
……どうしたって。
全裸の立田川に会いました。なんて答えられるわけがない。今度こそ死ぬ。
嘘にならない程度に誤魔化そう。
バレそうだが。
「いないから、しかたなく帰った」
「……本当に?」
ジトーとしていたリンの顔、眉間に皺が寄る。
腕を組んだまま、つま先は地面をリズミカルに叩いている。
「本当だとも」
「……………………そう」
何かいいたげではあったものの、組んでいた腕を解いて短く返答してきた。
「まあ、それ以上は時間の無駄だね。いいわ」
何が時間の無駄なんだよ」
「ってことで、私はこれで――」
「オイ待て」
すれ違って、山の方へと向かうリンの腕をとっさにつかむ。
煙に巻こうったってそうはいかない。
「あによ?」
「あによ……じゃねぇよ。俺から聞くだけ聞いて、お前はどこに行くつもりなんだよ」
俺の行き先だけ聞いて消えるつもりだったな。
「どこだっていいじゃない」
「……まあ、そうだけど」
リンの口調はそっけなく、もう聞くなという意味が含まれていそうだった。
そうなると、強くは追求しにくい。
だが、リンが俺の来た方向へと行くならば、目的地は決まっているようなもんだ。
だから俺は腕を放して、ポケットから携帯食料を出し、リンの手に置いた。
「良かったら食ってくれよ。山登ったら、腹減るだろう?」
「……ありがとう」
リンはその携帯食料をハーフパンツの尻ポケットに入れた。
「夜暗いし、女子一人何だから気をつけろよ」
「……余計なお世話よ。私には足があるから十分よ」
そう言って、空を蹴るリン。やっぱりリンはそうでないとな。
リンはフッと歯を見せるように口を緩めて、
「でも、感謝はしとく。ありがと」
と添えるのだった。
「ああ。じゃあ、またな」
「ええ、また学校で」
そして、お互いに背を向けて、それぞれの道を進み出す。
照れたような口調のリンはどこか新鮮で、なんというか多分しばらくは見れないんだろうな。なんてことを考えながら自分の家へと戻った。
ちなみに、ベッドで横になり目を閉じたら立田川の姿が浮かんできてしまい、寝付くことができなかった。
意識が無くなったのは外が明るくなってから、戻ったのは空が暗くなり始めた時間だった。
流石にアイツの所に行くことはできず、貴重な休日は一日潰れてしまうのであった。




