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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第三章 流星群
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 立田川の家の門から出た俺は空を見上げた。

 今もわずかながら星が最期の時を迎えながら、満月が一帯を照らしてくれている。

 月光のお陰で、足元も完全に真っ暗ではないのが救いだった。ただ、携帯電話の灯りがないと心もとないのは変わりない。

 夜も遅いので足早に田園を抜けて、夜の学校の横を通る。

 校舎の方へ顔を向けると、灯りは全て消されていて、窓から薄ら輝いている緑色の非常灯が気味悪い。

 校門までやってきたけど、締め切られているようだ。

 柏木が屋上で流星群を撮るって言ってたけどまだいるのだろうか。

 締め切られてるってことは、もう帰ってしまったのだろうか。

 と、立ち止まっていると、

「ちょっと、アンタ!?」

 声かけられた。しかも、そこの声は今一番聞きたくない声だった。

「げッ……」

 恐る恐る、その声の主の方向へ向く。その方向は今から俺が帰る方向だ。

 そこに立っているのはよく見知った女子。

 白い半袖のティーシャツにデニム生地のハーフパンツという動きやすくラフな格好をしている。髪の毛は降ろしていて、腰よりちょっと短いロングヘアが揺れている。

「リンじゃねーか! どうしたんだ、こんな時間に」

 そう、幼馴染の姿だった。ムッとした顔で、腰に手を当てている。荷物は無い。

「それは私のセリフよ! アンタこそどこに……もしかして流子の家に言ったんじゃないわよね?」

 なんでそんな問い詰められないといけないんだろう。いや、当たり前か。

 週末は絶対に行くなってリンに言われていたのに、俺の方向から戻ってきたのだ。

 疑われるのも無理はないし、実際に行った。素直に吐いたらここで死ぬ。

「そんな、行くわけ無いだろ? 俺はただ……」

「ただ?」

 ヤバい、誤魔化せない。

 わざわざこの辺まで来る用事が思い当たらない。

 いや待てよ、今日は流星群の日じゃないか。

「ただ、星を見るために山に登ってきた」

「ふぅん」

 何だそのあしらい方は! 確かに苦し紛れだったことには代わりはないが、俺だって言い返してやる。

「で、そんなリンはこれからどこに?」

「うッ」

 リンもか!

「わ、私は、えっと……そう、星を見に、流星群だしね」

 目が泳いでるし、ちょっとずつ顔を背けている。

「……」

「……」

 俺もそれ以上突っ込まれたくないので、自然と顔を背けてしまう。

 そんな沈黙が続き、互いに指を指して、

「ダウトだな」

「ダウトね」

 お互いに嘘を認めあった。

 さすが幼馴染同士というべきか、嘘が下手同士というか。

 ちょっと嘘をついているくらいだったらすぐに分かってしまう。

「で、タマキはどこに行ってたの?」

「あー、えー……」

 ジトーっとした目で見られているし、嘘は一瞬でバレる。

 本当のことを言っても嘘を言っても多分許されない。

「アイツ――竜のところに行った。会いに行った」

「マジで?」

「マジでゲフッ」

 蹴られますよねー。

「……あのさ、週末は絶対ダメって言ったよね? 何度もお願いしたよね」

「はい」

「で、何のつもりなの?」

「言い訳させてくれ……会いに行ったはいいけど、アイツはいなかった。リンはアイツがいないから行くなって言ったんだよな」

 俺は蹴られた腹を抑えながらリンに言い訳をする。

「へ? ああ、まあ、そうね」

 だが、リンはなぜか動揺しているようだった。

「で、アンタ。あの子がいなくてどうしたの?」

 ……どうしたって。

 全裸の立田川に会いました。なんて答えられるわけがない。今度こそ死ぬ。

 嘘にならない程度に誤魔化そう。

 バレそうだが。

「いないから、しかたなく帰った」

「……本当に?」

 ジトーとしていたリンの顔、眉間に皺が寄る。

 腕を組んだまま、つま先は地面をリズミカルに叩いている。

「本当だとも」

「……………………そう」

 何かいいたげではあったものの、組んでいた腕を解いて短く返答してきた。

「まあ、それ以上は時間の無駄だね。いいわ」

 何が時間の無駄なんだよ」

「ってことで、私はこれで――」

「オイ待て」

 すれ違って、山の方へと向かうリンの腕をとっさにつかむ。

 煙に巻こうったってそうはいかない。

「あによ?」

「あによ……じゃねぇよ。俺から聞くだけ聞いて、お前はどこに行くつもりなんだよ」

 俺の行き先だけ聞いて消えるつもりだったな。

「どこだっていいじゃない」

「……まあ、そうだけど」

 リンの口調はそっけなく、もう聞くなという意味が含まれていそうだった。

 そうなると、強くは追求しにくい。

 だが、リンが俺の来た方向へと行くならば、目的地は決まっているようなもんだ。

 だから俺は腕を放して、ポケットから携帯食料を出し、リンの手に置いた。

「良かったら食ってくれよ。山登ったら、腹減るだろう?」

「……ありがとう」

 リンはその携帯食料をハーフパンツの尻ポケットに入れた。

「夜暗いし、女子一人何だから気をつけろよ」

「……余計なお世話よ。私には足があるから十分よ」

 そう言って、空を蹴るリン。やっぱりリンはそうでないとな。

 リンはフッと歯を見せるように口を緩めて、

「でも、感謝はしとく。ありがと」

 と添えるのだった。

「ああ。じゃあ、またな」

「ええ、また学校で」

 そして、お互いに背を向けて、それぞれの道を進み出す。

 照れたような口調のリンはどこか新鮮で、なんというか多分しばらくは見れないんだろうな。なんてことを考えながら自分の家へと戻った。



 ちなみに、ベッドで横になり目を閉じたら立田川の姿が浮かんできてしまい、寝付くことができなかった。

 意識が無くなったのは外が明るくなってから、戻ったのは空が暗くなり始めた時間だった。

 流石にアイツの所に行くことはできず、貴重な休日は一日潰れてしまうのであった。


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