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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第三章 流星群
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「……」

 あ、気まずい。

 リン以外の女子が隣にいる。という状況は今まで経験してこなかった。

 しかも、屋外で隣同士に座っている。さらにその女子は、俺の上着一枚しか身にまとっていないときたもんだ。

 横は人が一人座れるくらいのスペースを開けて入るが、二人きりという状況には変わりない。

 風が吹くと、立田川の髪が揺れる。その度に、心臓の鼓動が早くなる。気がした。

 さて、いざ二人きりになってしまったが、何から話し出そうか。

 全然思い浮かばずに、ずっと立田川の横顔を眺めているだけになってしまっている。

「どうしたの? 珠希くん」

「うぉ」

 立田川から声をかけてきた。

 心配そうにこちらの様子を伺っていた。

「いや……こうやって、女子と並んで話すなんて機会がなかったからさ。緊張しちゃって……それに――」

 しまった。

「……それに?」

「イヤナンデモナイデス」

「……?」

 首を傾げる立田川。良かった。

 立田川は裸を見られるのを慣れていると言っていたからといって、裸の女の子が横にいるのは気まずい。そんなことを直接立田川に言うわけにはいかまい。

「まあ、本当に気にしなくていい。あ、ほら、流れ星だ」

「え、えっ、どこ?」

 俺はとっさに空に浮かんだ光の筋を指差す。

 立田川は一生懸命探すが、次の瞬間には消えてしまっているのが流れ星だ。

「消えちゃったなー」

 一つ見つかったらすぐに次が流れてくるかと思ったら、そうでもなかった。

「ぷー」

「ほらほら、怒るなよ」

 頬を膨らませて抗議する立田川も可愛らしい。

 そんな立田川の背景になっている夜空に、また流れ星が浮かぶ。

「あ、また流れ星が」

「え、どこどこ?」

 見つけた瞬間にはもう消えてしまう。

「あー、消えちゃったなぁ」

「……ひどい」

「あ、ががががが」

 俺の口に立田川は両手の人指す指を突っ込んで引っ張った。

 イテテテテ。

 そんな口の内側から頬を引っ張らないで。

「……わたしは慣れたもん。男の子と一緒にいるのは」

 え、いつのタイミングの質問の答えだ?

 慣れたって、いつの間に?

 立田川は俺の口から指を外して、膝を抱えて空を見る。

「今度はわたしが見つけるもん」

 目を動かして、流れ星を探すが、今は微動だにせず瞬いている星しか夜空に存在していなかった。

「立田川って、面白いな」

「えっ」

 星を見ていた視線が、俺の方に向く。

「なんというか、純粋で子どもっぽくて」

「……ば、バカにしてる?」

「そんなこと無い。俺はもっと、立田川と仲良くなりたいと思ったよ」

「そ、そう……?」

 あれ、うつむいちゃった。

 もしかして気に障るような事を言ってしまったのだろうか。

「……あのね、わたし怖かったの?」

「怖かった?」

「竜の姿を見られて、気が付かれて、恐れられるのが怖かった。だから、わたしはみんなのことを避けてたの」

「そう、だったのか」

 だから立田川は一人で孤立しているように見えていたし、実際そうだった。

 周りを気にしているようなそんな性格も、立田川は怖かったのか。

 竜がここにいることが知られることが。

「俺は、怖がる必要なんてないと思うぞ」

「え?」

「だってさ、ここは竜が住む街なんだぞ! そんな街に、本当に竜がいて何が悪い」

「……」

 立田川はびっくりしたという表情のまま、俺を見つめる。

「まあ、怖がる人はいるだろう」

「……そう」

 とても残念そうで、落胆している。

 俺が言いたいのはそうじゃない。

「……でも、喜ぶ人の方が多いと、俺は思う。嫌がる人なんて無視して、慣れちゃえばいい。立田川が怖くったって、慣れちゃえばいいんだよ。すぐに色々慣れているんだろ?」

 何をとは具体的には言わないでおくが。

「そう、かな?」

「ああ、それに俺はアイツが……竜がここに閉じこもっているのはもったいないって思うんだ。立田川は?」

 と、尋ねてみると、目を閉じて考え始めた。

 あまり長くはない沈黙の後、

「……もうちょっと、時間が欲しいかな」

「そっか」

 なら答えを急ぐ必要は無いだろう。ゆっくり、考えていけばいい。

「あ、珠希くん、流れ星」

「お、本当だ」

「ぶぅ……」

 あ、意表をついたつもりだったな。

 残念だが、立田川が見つけた流れ星は俺も見つけることができてしまった。

 どうか、この時間がずっと続けばいいのに。

 一瞬でも、俺はそう考えてしまった。

 楽しい。立田川が横にいて、こうやって何でもない話をするのがとても楽しい。

「あ、また」

「え、どこだ?」

 立田川が指差す方向には、俺が気がついた時には夜空しかなかった。

「やった」

 と、立田川は小さくガッツポーズをして、笑っていた。

「珠希くんに勝った」

「えー、勝負だったの?」

「ふふッ」

「ははは」

 あー、やっぱり楽しい。

 隣にいる女子が違うだけで、人間が違うだけで、こうも楽しさが違うものか。

 リンに見つかったら、なんて言われるだろうか。

 何度もお願いされたのに無視してここに来てしまって。蹴られるだけじゃ済まないんだろうな……もしかしたら、リンもここまで来てしまうかもしれない。

 でも、どうして今日、リンはここに来ないようにと言ったのだろうか。立田川が関係するのだろうか?

 今の俺には答えが見つかりそうにない。

「あ、そうだ」

「何?」

「星が流れてるんだし、願い事はしないのか?」

 せっかくならそういうことをしてもバチは当たらないだろう。

「うーん……星に願っても、叶わないから」

「夢、ねーな」

「うん、そう思う」

 確かにそうだ。

 わかってる。星に願った程度じゃ、何一つ願いが叶わないってことくらい。

 でも、いいじゃないか。わかった上で、口に出して願い事を言う。

 だから、俺は立ち上がって、一歩前に出る。

 大きく息を吸って、タイミングよく星が燃えた。

 俺は願う。


 ――アイツと立田川が幸せになれますように。


 と。


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