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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第三章 流星群
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 ***


 この数日間、毎日欠かすこと無くアイツに会いに行った。

 様子としては毎日特に変化することはなく、待っていてくれていたり、丸くなっていたりとまちまちではあったが。

 リンはいたりいなかったりだったが、リンには部活動がある。

 毎日抜け出す訳にはいかないだろうし、仕方ないだろう。

 それでも、アイツに会いに行く方を優先している節はあった。リンと立田川の家の敷地で会い、一緒に帰る時に陸上部だと思われるヤツが学校から出てくるのを目撃した。

 陸上部が活動していたのに、リンはその活動に参加していなかったことになる。

 それでいいのかと心配には思ったが、リンの問題だろうから俺から特に口出しするという事はしなかった。



 そんなこんなであっという間に週末になってしまった。

 ついでに言えば、その間に俺とアイツとの流星群を見るという約束はバレなかった……はずだ。

 現在、時刻は夕方の六時半を回っている。現在地は自宅。

 休日はほとんどの時間をパソコンでインターネットサーフィンをしているのだが、今そのパソコンの電源は落ちている。

 服装は半袖のティーシャツに長ジーパン。両方ともかなりの安物だ。

 ベッドの上に用意しておいた大きめのリュックの口を開ける。

 財布に携帯電話、携帯食料が入っていることを確認する。

 そしてクローゼットから薄手の上着を取り出す。あそこは山ではあるので、夜になると寒いかもしれないからな。あって損はないだろう。

 これだけだったらリュックはいらないのではないだろうか。

 実際、上着を入れてもリュックにはまだまだ余裕がある。だからといって、星を見るための道具は持ち合わせていないため、これで荷物はおしまいだ。

「……」

 いらないだろう。

 リュックの中身をひっくり返して、上着以外全てポケットいうポケットに突っ込んだ。上着は腰に巻いてしまえば邪魔にならないだろう。

 準備はそんなものかと外を見てみればこの時間でも少し明るい。夕方というには暗すぎるが、夜というのはまだ明るい。

 空は快晴で、まさに星見日和といったところか。

 この辺りは住宅街で街の灯りが眩しすぎて星が綺麗には見えないが、アイツのところは畑ばっかりの場所にあるやま山なので綺麗に見えるだろう。

 それにアイツのとこまで行く頃には日が落ちきって、星がよく見えることだろう。

 窓から見える空には大きなまん丸の月が浮かんでいる。そうか、今日は満月なのか。

「さて、そろそろ行くか」

 リンにバレないように家を出ないといけない。

 今日はずっとリンは家にいるだろう。部活があったならば、元気な「いってきます」の挨拶が、俺の家まで聞こえてくるからだ。

 どんな時でもリンは元気なのだ。

 中学の時でさえ、よく顔を合わせてよく知っている。いや、知りすぎている。

 だから、お互いに気軽な冗談を言い合えている。と俺は思う。

 リンはどう思っているのかは、わからない。気になるかならないかで言えば、気になる。

 ただそんなことを考えても、リンに直接聞けもしないしな。気にするだけ無駄なことだ。

 そっと玄関を開ければリンに俺が夜で歩いたことは気が付かれないだろうが、後で「どこ行った?」と問い詰められるかもしれない。

 それだけ俺とリンは知りすぎている、のかもしれない。



 そっと家を出て、いつも通っている学校の前まで歩いてきた。

 休日でも、薄暗くなっても、高校の部活というのは活動をしていることを知る。

 夜に足を踏み入れてる学校は、グラウンドを照らし、そこから多くの声が聞こえてくる。

 校門は開いており、出入りは簡単にできそうであった。

 なんとなく足を早めて校門を通り過ぎよう。ゆっくり歩いていると出会いたくない人間と遭遇しそうな気がした。

 カキーンという金属の軽快な音が耳に届くと同時に、校門から見覚えのある新聞部員の姿が出てくることに気づく。

「げっ」

 という声はソイツには聞こえなかっただろうが、その新聞部員は俺の姿を見つけるやいなや、楽しいものを見つけたと言わんばかりな表情に変わった。

「よう、柏木」

「やぁ、荒谷」

 お互いに軽い挨拶をしあうが、どこかぎこちなさがあったし、両者ともそれに気が付いてるだろう。

「新聞部員が、こんな時間にどこへ取材へ?」

「帰宅部員が、こんな時間にどこへデートへ?」

 質問に質問を被せてきた柏木。しかも、随分と具体的じゃないか。

「……」

「……」

 二人してすれ違う直前で立ち止まる。

「違うんだなぁ、取材とは」

「そうだったかぁ、俺も違うなぁ」

 そんなゆるいが、腹の中は隠すような返答。

「というか、柏木。休日にカメラを持って取材以外って何をしてんだ?」

「部活として、正式な依頼でな」

「ほう」

 正式な依頼ってなんだろう。

「学校の屋上で流星群の写真を撮るように、学校から指示されてだな」

「じゃあ、教師が撮ればいいんじゃないか?」

「いや、それが星を鮮明に撮れるカメラを持ってるのがオレだけだったもんでな」

 柏木は首から下げているカメラを大切そうになでている。

「なら、そのカメラだけを貸す――」

「バカヤロー!!」

 怒鳴られた。

「カメラはオレの魂だ。その魂を他人に貸せるわけ無いだろ……だったら、オレが撮る」

「さいですか」

 こいつ馬鹿だろ。カメラ馬鹿。

「で、写真取るのになんで学校から出てきてんだよ」

「買い出しだよ。腹減ったからな、ちょっとコンビニまで」

「そういうことか」

 カメラをわざわざ持ってるのは、それだけ大切ってことなんだな。

「で、荒谷、お前はどこに行こうとしてんだ?」

 まあ、逃れられないよね。

「えっとな……」

 竜に会いに行く……なんて言ったら、コイツは全部ほっぽりだして俺についてくるだろうしな。

 だからといって、どう答えても次の登校日に根掘り葉掘り聞かれそうで、面倒だ。

「まさか、本当に成鐘と流星群デートでもするのか? いやー、それならついていくわけにはいかないなぁ」

「ちげーよ!」

「そっか、つまらん」

 大きなため息を付いてあからさまにつまらなさそうだった。

「まあ、流星群を見に行くのは本当だ。街の灯りがない田園の方まで行ってみようって」

「そっか……すまん」

 肩をポンと叩く柏木。何だコイツは。

「っと、ヤバい、もうコンビニ行かないと流星群、始まってしまう。じゃあな、荒谷。お前も急いだほうがいいぞ」

「おう、またな」

 お互いに手を振ってすれ違う。

「あ」

 という柏木の声が聞こえて一度立ち止まって振り返る。

「何だよ柏木」

「あまりお前には関係ないだろうけど、満月の日には竜を見ないらしいぞ。だから今日は竜の取材がなくて暇だったんだ」

「へー」

 感情を殺して答えたが、内心バクバクだった。竜と会ってることがバレたんじゃないかと。

 そのまま学校から離れていく柏木の姿を見つめながら、アイツの言葉に引っ掛かりを感じた。

 今日は満月で、竜を見ない?

 アイツと流星群を見るのが目的だっただけに、強い不安に襲われる。

 だが、行ってみないとわからない。

 柏木の姿が見えなくなってから、俺も立田川の家の方向へと再び進み始める。


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