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13番目の街まで

作者: 三枝 四葉

果てしなく長い道のりが続いていた。


右手に持ってる大きな鞄の中には、お気に入りの服とか詰めている。

大袈裟かもしれないけど、今までの僕の大冒険の物語も詰めている。

ほんとにちょっとしたアクセサリーも鞄のリングに付けてたりして、

遠い街まで目指して、僕はただ歩いていた。一人だけで歩いていた――。



真っ直ぐな道にバス停が一つ。白いベンチも一つあった。

ベンチに座って、バスを待ってみる事にしよう。


暫くすると、北の方から一つのバスがやって来た。

それに乗って、行きたい場所まで運んで貰おう。

此処から遠い街まで運んで貰おう。


バスの窓の向こう側は、色々な街のあらゆる視点からの場面を映し出している。

目的の場所に着くまで座っているだけの僕は、座っているだけじゃ退屈だから、

バスの見せてくれる街の場面を簡単に纏めてみる事にした。




※ ※ ※



1番目は“はじまりの街”。

何も無いと思いきや、意外と何も無い場所でもなかった。

山ばかりに囲まれていると思いきや、家々が僕の住んでいる家を囲んでいた。

此処から僕は、遠い街へ向かう為にバスに乗って旅立つ。



2番目は“道路だけの街”。

こう書くと、どういう事なのかと疑問に思うかもしれない。

ざっくりと云えば、家一つも無く、道路だけしかない。

360度振り向けば、其処に道路だけがある街。

山と山の間にある道路は、色々な場所へ向える様に複雑に造られていた。



3番目は“音楽の街”。

バスの窓の向こうに見える音楽の街は、一人の青年がハーモニカを吹いている。

街の通りをゆっくり進むバスは、青年のハーモニカではなく、道路の譜面に合わせてガタガタと鳴く。

青年の吹いているハーモニカはそれ程上手い方じゃないけど、どこか楽しそうに吹いていた。


何気に僕は、その音を気に入った。

どんな楽器でも良いから、いつか弾けたら良いなぁ。



僕を乗せているバスは途中、一回りして次の街に入った。


其処は、4番目の“友達の街”。

街のど真ん中にある煉瓦橋の上から、二人の子供の姿が目に入った。

二人は仲良く手を繋いで、僕を乗せているバスを見送っていた。

僕は二人を羨ましそうに眺めていた。


そうか。途中でバスが一回りしたのは、友達の"輪"を意味してたのかもしれない。そうじゃないかもしれない。

ただ、あの二人がこれからもずっと仲良く居られそうな、そんな気がする。



5番目は“車の街”。

小さな車や大きな車が沢山並べられていた。

お洒落なカタチをした車も並べられていた。

一人の男は車を決めたのか、笑顔で新しい車に乗って、街を後にしようとしていた。

これから男の人とその車の物語が始まるのだろう。


良いなぁ。僕も小さな車で良いから、一台欲しいなぁ。

バスの通る路線以外の場所へ、何処までだって行けるのに。



青い空がずっと続いてた筈なのに、灰色に変わって突然、雨が降り始める。


此処は、6番目の“雨の降る街”。

バスの窓を雨が叩き続ける。そっちへ入れさせてくれよ、と言わんばかりに。

濡れるのが怖いから、僕は静かになるのをただ待った。

そんな僕が酷いなとちょっと感じたりして、ゴメンねと心の中で呟いてたのは、

僕以外に知る事も無い。



7番目の“星の見える街”に辿り着くと、雨が止む。

空はインディゴ色に変わって、幾つもの小さな光が輝き始めた。

星の輝きに心奪われて、遠く離れていて点に見える星と星を繋げて、

有りそうで無さそうな、恥ずかしい星座の名前を付けたりした。



またバスはガタガタと鳴きながら、僕の向かう先まで走り続けている。


僕の向かう先って何処だったっけ?

名前が無いなんて事がある筈も無い。


ポケットに仕舞える位の小さな地図を開いて確認してみる。

向かう先を思い出して、ホッと一息ついた。


未だ未だこれから、バスは最終地点の向かう先まで走り続ける。

僕はバスの席から全く動かず、大人しくしている。


13番目の街の降りるバス停まで――。




※ ※ ※



気付いたら、何故か空は水色に明るくなった。

ずっと窓の向こう側を見てたから、うっかり寝ていたというつもりは無い。


窓の向こう側は、8番目の“学園の街”。

歩道に沿って、制服や体操服を身に纏った学生たちが歩いている。


一人の女子は、紙パックのミルクティーを飲みながら。

その隣に居るもう一人の男子は、彼女と歩幅を合わせて歩いている。


他の学生たちはお喋りしながら、学び舎へ向かって歩いていた。

当然、僕の乗っているバスまで聞こえやしなかったけど、

きっと話題のゲームや、アニメや、漫画の話とか、学生だから勉強の話……しないかな。

でも二人は喋っているから、何か話しているんだろう。

そんな時代も僕にもあったっけなぁと、しみじみと感傷に浸っていた。



9番目は“レストランとカフェの街”。

先程の街の学生たちの姿が見える。

大きなビル、洋風のお洒落な建物があって、遠くにはプリズムの建物が見える。

皆、窓際の席に座って、デザート食べてたり、コーヒーを飲んだりしている。

或いは本を読んでたり、課題のレポートを書いてたり、ノートパソコンやタブレットと睨めっこしている。

僕も窓際が好きだから、あなたがよく見えるし、プリズムの建物の中もよく見える。



10番目は“工業の街”。

幾つもの工場が並んでいて、何かの機械を作っていそう。

建物の中から、ツナギを着た作業員の男の人が何人か出て来て、重そうな鉄の棒やタイヤの材料を運んでいた。

少し見覚えのあるメーカーがあったから、他の知らないメーカーは、

きっと同じ様に、日常でよく使われるものを作っているに違いない。



バスは長い長い街道を進み続けて、カエルの様な大きな橋を渡ったりして、

僕はそれを“カエルやま大橋”とか呼んだりした。


そして目的地まで後、もう少しで着きそうだ。

ポケットから財布を取り出して、中身の小銭を数えてみたりする。

そしてバスの天井からぶら下がっている、電光板の運賃表の数字と睨めっこする。

何とか小銭が足りそうだと分かれば、二度目のホッと一息。



11番目は“水の街”。

車道の両脇に見える水路は、目で追っていくと、少しずつ拡がりを見せて行く。

また次の拡がりを見せると、水は路の先へ流れる様に、また流れる様に進んで行く。

所々、噴水の様なオブジェクトが目に入るが、また水路が両脇にある車道へ入る。

更にまたカーブが多く、バスも流れる様に進んでいた。


そして、広大な海の様な場所に出たかと思いきや、森の山道に入って行き、水路は途切れてしまった……。

そのまま山道の奥へ進むと、凄く長そうなトンネルが見える。

トンネルの中へ吸い込まれる様に、バスは更に進み続けた――。



トンネルの向こう側は、12番目の“雪の降る街”。

そういえば、その昔、何処かの旅館で雪女の様な白い影の見えた出来事を、祖父から聞いた事があった。

正体は結局、銅像だったそうで、これ以上語ってもがっかりする話だ。でも何故か、今は笑える。

雪はしんしんと降っている街で、雪女らしき人は見えないが、

あちらこちらの家で屋根に積もった雪を落とそうとする人の姿が見える。




※ ※ ※



人は皆、行きたい場所に向かっている。

進んでない様な気がしても、気がするだけで、

後ろを振り返ってみれば、確かに進み続けている。



終点。

しかしそれは僕にとっての終点。バスは未だこの後も暫く進み続ける。

僕は床に置いていた鞄を手にして、ポケットから財布を取り出す。

運賃の回収ボックスに小銭を数枚入れて、運転手に軽くお辞儀して、

長らく乗っていたバスを後にする。


13番目は“おわりの街”。

物語の終着地点で、僕の行きたかった場所。

どんな物語でも終わりは必ず来る。

でも同時に、新しい“はじまり”が見えて、物語はまた増えていく。



一つや二つだけじゃない物語がまた増えていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観に大変惹かれました。文章の繊細さも好きです。 [一言] Twitterのリツイート募集投稿から来ました。ありがとうございました。
2017/08/01 02:05 退会済み
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