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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第三章 魔王の器と傭兵の矜持
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第九十話「こいつら実は結構気が合うだろ」


 周囲のアンデッドの大半が、体が崩れて砂となった頃。

 それらを確認していたバルトロメオたちがスケットンとナナシの所へやって来た。

 彼らは縛られたデュラハンを見てぎょっとして、事情を聞いて今度は目を丸くする。


「……本当にそのヘタクソなカーネリア弁男を連れて行くのか?」


 アルフライラが胡散臭そうに目を細める。


「正気か? 妾にはどう考えても悪手じゃと思えるが」


 アルフライラのガロに対する感情は辛辣だ。

 だが彼女のその反応は正しいもので、スケットンとナナシの返答こそが異質なのである。

 本人の言動からしてもガロは敵であり、彼らの主であろうシャフリヤールの部下だ。にも関わらず、勇者二人は何の信憑性もない状態でガロの提案を呑んだのである。

 悪手であるとアルフライラは言ったがその通りで、これにはバルトロメオも苦い笑いを浮かべていた。


「まぁお前らが良いってんなら何も言わねぇけどよ。手綱だけはしっかり握っといてくれよ?」

「妾は物申したい気持ちじゃがの」


 アルフライラは腕を組みガロを睨む。

 するとガロは縛られたまま器用に肩をすくめてみせた。


「えぇー、せっかく話がまとまったんやから、水差さんでくれるかオバハン」

「オバ!? 妾のどこかオバハンじゃ!? スケットン、この失礼な男を本当に連れて行くのか!?」


 少々涙目になりながらアルフライラはガロを指差し、スケットンに訴える。

 見た目はともかく、実年齢を考えればあながち間違ってもいないであろう呼び方ではあるが、ゴーレムとは言えど女性は女性である。面と向かっては可哀想だろう――なんて思ったが、スケットンもよく他人を「ババア」や「ジジイ」なんて呼んでいるので、言葉にはしなかった。

 その代わりにフンと鼻を鳴らし、


「仕方ねぇだろお前の方が年上なんだからよ。威厳って奴を見せてやれ」


 なんてアドバイスをする。スケットンの言葉にアルフライラはハッとした顔になった。


「そ、そうじゃな。妾の方が年上じゃ……って、ちがーう! そこじゃないわ!」

「まぁそれはともかくとして」


 そんな一連の会話をナナシが綺麗にぶった切った。

 話が停滞しているので、なんて理由だろうが、空気を読まない一刀両断である。

 さすがにアルフライラもショックを受けた顔をして蹲り「どうせ妾なんて……妾なんてオバサンなんじゃ……」なんてぶつぶつ呟きながら地面に「の」の字を描き始める。

 スケットンも流石に気の毒にはなったが、とりあえずは静かになったので放って置いて、話を進める事にした。


「連れて行くのは良いとして、途中で暴れられるのだけは厄介だな」

「そうですね。戦力的には増えずとも特に問題がないので、まぁ、縛ったままで良いのでは?」

「あー、まぁ、そうだなぁ」


 暴れられるよりはマシかとスケットンが頷くと、ガロは不満そうに声を上げた。


「えぇ……それ俺がただの足手まといのデカブツになる奴やん。置物やん」

「自分で歩いてくれるだけ有難いですね」

「良かったな、足は役に立つぞ」

「しばくで」


 兜の隙間から光る赤い目が半分に狭まる。

 スケットンは「ケッ」と悪態を吐いた。


「放置したら暴れるデカブツになるだけだろ。それとも他に何か手でもあるのか?」

「ある」


 ガロの言葉にスケットンとナナシは意外そうな顔になる。


「あるのかよ」

「まー、裏ワザみたいなもんやけどな。死霊魔法(ネクロマンシー)を上書きすればええんよ」

「え」


 ガロの話を聞いたナナシがピシリと固まる。

 それから何ともぎこちない動作で人差し指をピンと立てた。


「上書きって、あれですか。魔法に介入して組み直すアレですか」

「それそれ! いや~さすが魔法使いな勇者サン! 話が早いなぁ!」


 調子よく言うガロからスケットンがナナシの方へ目を移すと、何とも形容し難い表情をしていた。


「お前すげぇ顔してんぞ」


 ストレートに突っ込むと、ナナシは「いや、その、かなり面倒なアレが……」と言葉を濁した。

 そもそも魔法とは、術者の内にある魔力に対する発現への交渉(ネゴシエイト)、詠唱による現象化への誘導(プロセス)、そして発動のための呪文(スペル)と言った過程を経て成るものである。

 世界樹のところでナナシとシェヘラザードがやってみせたように複数人で協力して発動させるものもあるが、今回ガロが言っているのはそれとは別だ。他人の魔法を自分の魔法に書き換えて奪う(、、)という話なのだ。 魔法を満たしている術者の魔力を自らの魔力に上書きし、魔法を構成する詠唱を視覚化し、部分的に入れ替えるのである。

 可能か不可能かと言えば可能だし、難しいものでもあるが、実際に成功例は幾つも記録に残っている。

 だがそれは難解なパズルのようなもので、相当の根気と集中力を必要とする。ナナシの表情からも分かる通り大変「面倒」な作業なのである。


「そもそも私、死霊魔法(ネクロマンシー)は使えないので、書き換えるにしても知識が……。出来ればシェヘラザードさんとか……あ! そうだ、アルフライラさんは如何ですか?」


 ナナシが思いついたようにポンと手を和わせ、アルフライラの方を見る。

 相変わらず地面に「の」の字を書いていじけていたアルフライラは、突然振られた話に目を丸くして――そしてちょっと嬉しそうな、得意そうな表情になって、


「妾か? ま、まぁ出来るには出来るが……」

「オバハンは嫌や」

「ぐぬう!」


 任せろと請け負おうとすると、即座にガロに却下された。

 アルフライラは目を吊り上げてガロを睨む。握りしめた拳がぶるぶると震えている。

 だがガロはどこ吹く風で、


「だってどーせこき使われるんなら、若い女の子の方がええもん」


 なんて言い放ったものだから、スケットンが「すけべ親父か」とツッコミを入れた。

 まぁナナシはこき使ったりはしないだろうが、などと思いながらスケットンがナナシを見ると、彼女は「わぁ……」なんて若干白い目でガロを見ていた。スケットンの言葉の風評被害である。

 だがガロとアルフライラはツッコミや視線などお構いなしに、ぎゃあぎゃあと元気に口喧嘩を続けていた。


「誰がオバハンじゃ! 年上の魅力が分からん青臭いガキなんぞ、こっちから願い下げじゃ!」

「だ、誰が青臭いガキや! これでも酒飲める年齢はとうに過ぎてんやぞ!」

「ほー!? 心は少年とは言い得て妙じゃの!」

「ああん!?」


 エスカレートする言葉の殴り合いに、スケットンは半眼になる。


「こいつら実は結構気が合うだろ」


 スケットンがそう言うと、ナナシだけではなくバルトロメオたちまでしっかりと頷いた。

 再び話が進まなくなったので、二人を眺めながらナナシが口を開く。


「本人の意思はともかくとして、死霊魔法(ネクロマンシー)の知識があれば成功率も上がるので、お任せし方が良いとは思うのですが」

「ああ、絶対に成功するってわけじゃねぇのな」

「ええ。他人の魔法に手を加える事になるので、まぁ、成功して六割くらいですかね」

「半分越えてりゃ上等だろ。ちなみに失敗すると?」

死霊魔法(ネクロマンシー)の失敗例は分かりませんが、他の魔法ならそうですね、対象が溶けるとかありますよ」

「溶ける」

「はい」


 ナナシはしかと頷いた。

 スケットンはすい、とガロの方へ視線を動かす。

 気がつけばガロとアルフライラの喧嘩は一時中断されており、二人は無言でスケットンたちの方を見ていた。


「溶けます」


 ナナシはもう一度ゆっくり、そしてはっきりと告げる。

 絶句。

 まさしくその言葉通りのガロに、アルフライラはやや同情めいた眼差しを向け、


「どんまい」


 なんて励ました。

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