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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第一章 死者の謳歌と生者の行進
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第六話「実は今、この国はアンデッドだらけなんですよ」

 その翌日の事。うららかな春の日差しが差し込むお昼過ぎ。

 ナナシはベルンシュタインを出て少しの所にある『活路の泉』という所でスケットンを待っていた。

 『活路の泉』とはごくごく僅かではあるが、魔力と体力を回復する効果のある湧水で出来た泉の事である。

 各地に存在するこの泉は、効力こそ細やかではあるものの、駆け出しの冒険者や旅人達にとっては有難い休憩場所となっていた。


「スケットンさん遅いですねぇ……なんて言ってたら、あ、きたきた。おーい、スケットンさーん!」


 きょろきょろと辺りを見回していたナナシは、遠くにスケットンの姿を見つけて手を振った。

 スケットンはナナシに気が付くと、走って近づいてくる。


「あれ、何かやけにボロボロのような」


 首を傾げるナナシの目の前に、あっという間にスケットンがやって来る。

 頭から足の先まで酷くボロボロだ。

 もともとボロボロの姿ではあったものの、今は輪を掛けてボロボロである。

 ナナシの所へとやって来たスケットンは、ひいひい言いながら座り込み、ナナシを恨めしそうに見上げて怒鳴った。


「何で山の中にアンデッドがわんさかいるんだよ!?」

「あ、遭遇しちゃいましたか」

「しちゃったよ! 何だよあの量、昔はあんなにいなかったぞ!」


 琥珀砦の町ベルンシュタイ付近の山で遭遇したゾンビから逃走したスケットンだったが、あの後、スケルトンやゴーストなど大量のアンデッドと遭遇していた。

 その全てに何のダメージも与えられなかったスケットンは、命からがら逃げて来たのだ。


「死ぬかと思ったじゃねぇか!」

「すでに一度死んでらっしゃるじゃありませんか。たぶん頭を破壊されなければ大丈夫ですよ」

「あ、そういやそうか」


 言われてみれば、とスケットンは納得したような顔になる。

 そう言えばスケットンはすでにアンデッドなのだ。聖なる武器に気を付けるか、もしくは頭部を守りさえすれば比較的大丈夫である。

 ついつい肉体があった時の感覚で動いてしまっていたスケットンだったが、もしかしたら逃げなくても良かったかもしれない。

 まぁ幾ら大丈夫だと言っても、アンデッドに群がられるのは良い気分はしないので、逃げて正解だったとはスケットンも思うが。


「というかさ、どうなってんの? この国大丈夫なわけ?」 

「いや、実は今、この国はアンデッドだらけなんですよ。あちこちで大量発生してるんです」

「どんな悪夢だよ」


 スケットンは「うへぇ」と口をへの字に曲げた。

 それならばベルンシュタインの門番が、あそこまで頑なにアンデッドの侵入を拒んだ事にも頷ける。


「つーか、先に説明してくれよ」

「説明しようとしたらスケットンさん歩いて行っちゃうから」

「追いかけて止めろよ」

「魔剣でぶった斬るって言ったじゃないですか」


 ナナシがむう、と口を尖らせた。

 確かに言ったし、その覚えもある。スケットンは自分の言葉を思い出して肩をすくめた。


「……で、何でアンデッドだらけなんだよ」

「ええとですね……今この国では世界樹引っこ抜き事件というものが頻発しておりまして」

「ずいぶん楽しそうな名前だな」

「誰かが仮に名づけたら、言いやすいからって定着しちゃいまして」

「へー。で、その引っこ抜き事件と何の関係があるんだよ?」

「スケットンさんは世界樹については?」

「樹」

「樹ですが」


 スケットンの物言いに、ブチスラが小さく揺れた。

 何だか馬鹿にされたようにスケットンは思った。

 このやろう、とブチスラを睨んでいると、ナナシが説明を続ける。


「世界樹とは魂の循環を司っているんですよ。この国って土葬がメインじゃないですか」

「ああ」

「土に還った命は世界樹を通って輪廻転生の輪に入るんですよ」


 ナナシは手でジェスチャーを加えながら話す。

 先ほども言ったが、この世界には輪廻転生と言う概念が存在する。その輪廻転生の輪に至るまでには世界樹と呼ばれる樹を通過する必要があるのだ。

 世界樹とは、文字通り世界から生み出される魔力を受けて育つ樹の事で、世界各地に存在する。

 死んだ命が土に還り、その魂は世界樹を通じて浄化され、新たな命へと宿る。

 それがこの世界の輪廻転生という概念である。


「でも、各地で世界樹が引っこ抜かれる事によって、行き場を失った魂が大量に発生してしまいまったんです」


 行き場を失った魂は元の肉体へ戻る。しかし魂が死体に宿っても、蘇ったりはしない。

 一度切れた魂と肉体の繋がりは直らないのだ。それがアンデッドの大量発生の原因になったとナナシは言う。

 ナナシの話を聞いたスケットンは、そう言えば自分はどうなのだろうと思った。


「そういや俺は死霊術師(ネクロマンサー)にでも復活させられたのかねぇ」

「どうでしょう、スケットンさんって洞窟で起きた時からしか覚えていないんですよね」

「ああ。刺されたと思ったら同じ場所で目が覚めてたよ」

「ですよねぇ……こんなに時間が経ってから死霊魔法(ネクロマンシー)が効力を持つなんて初めて聞きました」

「へぇ。それはやっぱアレか、俺が勇者で最強だからか」

「その最強の勇者様は何でボロボロなんですか?」


 そう言われ、スケットンは言葉に詰まった。

 あまり指摘されたくない話題だったからだ。しかし幾ら黙っていてもナナシは目も話も逸らしてくれない。

 仕方なくスケットンは答えた。 


「……いや、何か剣が使えなくてよぉ。剣どころか鞘で殴ってもダメージがゼロなんだよ。最近のゾンビすげぇな」


 スケットンがふて腐れた様に言うとナナシが目を丸くする。


「でも私に見せてくれた時は使えてましたよね?」

「だよなぁ、持てたし使えてたよなぁ」


 何でだろうなぁとスケットンは腕を組んで考える。

 しかし、やはり幾ら考えても思い当たる節が無い。

 スケットンが『もしかしたら俺って最強じゃないのかも』などと弱気な考えになり始めていると、そこでナナシはポンと手を打ち鳴らした。


「……あ、もしかして」

「何だ?」


 何かを思いついたらしいナナシにスケットンは首を傾げる。

 そしてナナシは人差し指を立てるとスケットンに


「スケットンさん、ちょっとこれから山へ行きませんか」


 と提案をした。

 スケットンは首を傾げる。せっかく抜けて来た山に何故また戻らなければならないのか理解出来なかったからだ。


「何しに行くんだよ」

「ちょっとアンデッド退治に。ほら、私達、勇者ですからね!」

「はい?」


 スケットンはポカンとした顔で、にっこりと笑うナナシを見上げるのだった。


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