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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第一章 死者の謳歌と生者の行進
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第五話「よう、御同輩。いや、あんた達の方が先輩か?」

 

 現れたゾンビの数は四体。今にも崩れ落ちそうなほどに腐敗した身体を引き摺り、ゆっくり、ゆっくりとスケットンの方へ向かって来る。 


「よう、御同輩。いや、あんた達の方が先輩か? まぁいいや、はじめましてー」


 スケットンはゾンビに向かってヒラヒラと手を振る。

 反応はない。ゾンビ達はスケットンに真っ直ぐに向かってきているものの、変化はみられず、ただ呻くだけだ。


(意識はねーな)


 ゾンビの様子を確認し、スケットンは一人頷く。

 この世界のアンデッドには二種類のタイプが存在する。


 一つは自然とアンデッドになった者。

 この世界には『輪廻転生』と呼ばれる概念が存在する。人でも魔族でも魔物でも、この世界に生を受けたものは命を落とした後、この地に再び生を受ける、というものだ。言わば魂の循環である。

 その循環の途中に、何らかの不都合があって、輪廻転生の輪から外れてしまった魂が行き場を失くし、元の肉体に戻った姿。それがアンデッドだ。

 自然とアンデッドになった者に理性はない。ただ生きたいと、生きたかったと『生』に執着する化け物となってしまうのだ。


 二つ目は死霊術師(ネクロマンサー)によってアンデッドとして生み出された者。

 死霊術師(ネクロマンサー)とは、アンデッドを使役し、意のままに操る事を得意とした魔法使いの事だ。彼らは意図的にアンデッドを作り出す事が出来る。

 対象の死の直前、もしくは死んだ直後の肉体に死霊魔法(ネクロマンシー)を施し、輪廻転生の輪から強制的に呼び戻し、アンデッドとして生み出すのだ。

 その際の副作用で、死霊術師(ネクロマンサー)の作り出したアンデッドは意識を保つ事が出来る。

 そしてそういった面を利用して、裏の商売も行われていた。


 スケットンが意識の有無を確認したのは、後者を危惧したからである。

 もしも反応があれば近くに死霊術師(ネクロマンサー)が存在する事になる。

 こんな山奥でゾンビを放っているような奴ならば、そいつは碌な相手ではないからだ。


「さて、それならサッサと終わらせてもらおうかね」


 そう言うとスケットンは【竜殺し】を鞘ごと持って構えを取る。

 アンデッドを倒す方法は二つ。

 一つ目はは聖なる力が込められた武器で攻撃する事。これはいわゆる聖剣や聖水といった類のものだ。

 二つ目は頭を破壊する事。アンデッドとなったものはその魂が頭部に繋ぎとめられているため、その繋がりを断って倒す、というものである。


 この内、スケットンが出来るのは二つ目だ。聖剣や聖水なんてものはスケットンは持ってはいない。

 万が一持っていたとしても、どう考えても今のスケットンには天敵以外の何物でもない。

 もっとも生前もそう言った聖なる何ちゃらの類のものは縁がなかったわけだが。


「恨むなよ!」


 スケットンはそう言って地面を蹴ると、目の前のゾンビに向かって【竜殺し】を振りかぶる。

 幸いにもこの四体のゾンビは動きが鈍い。【竜殺し】を抜けずとも、力任せに叩きつければ倒せる。


――――と、スケットンは思っていた。


 しかし。

 当った瞬間に聞こえてきたのは、ポコン、という何とも間抜けな音だった。


「はい?」


 スケットンが思わず真顔になって首を傾げた。そして音がした方をマジマジと見る。

 音の正体はスケットンがゾンビに叩きつけた【竜殺し】である。

 力任せに叩きつけたはずの【竜殺し】はゾンビの頭上で軽く跳ねている。ちなみにゾンビに特に変化はない。

 スケットンは何があったのか理解出来なくて、もう一度ゾンビから距離を取って【竜殺し】を叩きつけた。


 ポコンという音が鳴った。


 鳴ってしまった。

 付け加えるとゾンビは無傷である。


「うっそだろぉ!?」


 スケットンは力の限り叫んだ。

 何故かは分からないがゾンビにダメージが与えられていない。


「何で!? 何でダメージゼロ!? ゾンビなのに硬いわけ!? 違うよな、どう見ても硬くなさそうだもんな!? 何で!?」


 混乱するスケットンの問い掛けに、もちろんゾンビは答えない。

 ただ呻き声を上げながらスケットンに近づいてくるだけだ。心なしか近づく速度が上がった気がする。

 スケットンはじりじりと後ずさりながら【竜殺し】とゾンビを何度も何度も見比べる。

 鞘だからダメージが与えられなかったというレベルではない。鞘だろうが何だろうが、力まかせに叩きつければそれは鈍器と言う武器なのだ。

 生前のスケットンもそれなりに腕力はあった方であるし、ゾンビを斬らずに倒した経験もあった。

 にも関わらずこれである。


「おいおいおいおい、マジか……」


 スケットンは後ずさる。

 だらだらと流れるはずのない冷や汗まで流れてきたように感じる。 

 後ずさるスケットンに狙いを定め、ゾンビ達は近づいてくる。

 

(ヤバイ) 


 その時スケットンは明確にピンチというものを理解した。

 二度は味わいたくない経験である。

 スケットンはじりじりと後ずさり、やがてゾンビに背を向けた。

 そして。


「ちくしょおおおおお! 覚えてやがれえええええ!」


 そして人生で初めて『敗走』というものを選択したのだった。

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