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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第二章 屍竜の守る村
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第四十三話「これはまた珍妙な客が来たのう」


 トビアスの案内でスケットンが辿り着いたのは、オルパスの村の最奥だった。

 そこへ足を踏み入れる前に、スケットンはぎょっとして足を止た。

 何故ならば向かっている方向に、白い煙が充満していたからだ。

 スケットンは一瞬「すわ、山火事か」とも思ったが、それにしては煙が白すぎる。しかも煙に火事特有の焦げ臭さは全くなく、むしろ爽やかな良い香りがした。


「香か」

「はい、そうです」


 スケットンの言葉にトビアスは頷いた。

 そう、これは香だ。だがこんな村の奥で、何も見えないくらいに大量な香を焚く理由が、スケットンにはどうにも思いつかなかった。

 何かの儀式か、はたまた何かの魔法を使っている最中なのか。スケットンの目にはそれが何とも異様な光景に映った。


「じっさまってのは、この奥にいるのか?」

「はい」

「フン。竜のくせに香なんて、ずいぶんとお貴族様(、、、、)らしい趣味じゃねぇか」

「あははは、いえ、これはそういうものではなくて……」


 トビアスが説明をしようとした時、急に煙がぶわり、と揺れた。

 二人は反射的に香の方へと顔を向ける。だが、厚い煙の向こうからは、戦いの音や人の声などはしない。

 スケットンは魔剣【竜殺し】の柄に手を当てて、ちらりとトビアスを見た。


「じっさまとやらのくしゃみか?」

「いえ、違うと思います。じっさまがくしゃみをする時はもっとすごいです」


 もっとすごいらしい。

 どんなくしゃみなんだとスケットンはツッコミを入れたかったが、さすがにこの状況では止めておいた。

 その代わりに【竜殺し】をするりと抜いて、警戒の色を強める。


「お前、俺様みてぇに強くねぇんだから、気をつけろよ」

「はい」


 そうして二人は香の中へと入っていった。




 

 ――――のだが。


 そうして気合を入れて香の中へと入っていったスケットンとトビアスは、その直後に肩透かしを食らった。

 何故なら、倒すべき対象がすでに倒されていたからだ。


「何だよ、こりゃ……」

「うわわ……」


 スケットンが仮面の下で空洞の目を細め、トビアスは狼狽えながらそれ(、、)を見た。

 二人の視線の先。そこには、スケットンがオルパスまでの道中に遭遇した傭兵や商人達が倒れていた。

 傭兵達は、香が最も濃い場所を中心に、扇のように広がって倒れている。どう襲って掛かったのかがはっきりと分かる倒れ方だ。ある意味こいつは見事だな、とスケットンは思った。


「うーむ、今日は妙に身体の調子が良いのう」


 すると、傭兵達が倒れた中心地から、腹に響くしわがれた重低音が聞こえてきた。

 スケットンはそれ(、、)が誰のものなのか直ぐに分かった。生身の人間の声ではない。

 空気を震わしながら聞こえるその声は、間違いなくオルパスを守る竜のじっさま、とやらのものだろう。


「じっさま! トビアスです! ご無事でしたか!」

「おお、トビアスか。うむ、大事ないぞ。お前はどうじゃ? 村はどうなっておる?」


 声を張り上げたトビアスに、姿が見えないままじっさまは柔らかく話しかける。


「僕は大丈夫です。ですが、ティエリお嬢様がまた(、、)暴走して……」

また(、、)か。ティエリは正義感が強い子じゃが、人を信じすぎる所があるからのう」


 困った奴じゃ、というじっさまの声は、言葉とは裏腹に優しい。


「…………で? あんたを襲って来たのはこれで全部ってわけか?」

「む? うむ、もしかしたら一人二人は逃がしたかもしれぬが、わしを襲ってきた奴らには()をつけたので、行動は分かる。村の中にはおらぬよ」


 そこでじっさまは、初めてスケットンに気が付いたようだ。「誰なのか」と多少の疑問は持ったようだが、トビアスが一緒にいるので、敵ではないと判断したらしい。

 村の中に敵はいないとのじっさまの断言に、スケットンは「やれやれ」と息を吐いた。


「なら、さっさとこいつら縛り上げて、ナナシ達の所に戻るか」


 やる気を出した所でくじかれたような形になったスケットンは、何とも微妙な声でそう言うと、トビアスに「縄はあるか?」と尋ねる。

 トビアスは頷くと「直ぐに持ってきます!」と走って行った。


「あー、くっそ。何か損した気分だぜ」


 スケットンはぶちぶち言いながら、倒れた傭兵や商人達から武器を取り上げ始める。目が覚めた時に暴れられても迷惑だからだ。

 ぽいぽいと、まるで山菜でも取っているような手さばきで、スケットンは武器を取り上げていく。

 そうしていると、戦いの影響か、それとも炊く香が無くなってきたからか、だんだんと煙も薄れ始めた。

 そんな中、スケットンの様子を見ていたじっさまは、何とも面白そうに笑う。


「ほっほ。何じゃ、よう見れば、これはまた珍妙な客が来たのう」

「ぁあん? だ・れ・が珍妙だ、誰が! ふざけんじゃねぇぞ、このじじ……い?」


 ムッとして言い返しながらスケットンは振り返り、そしてピシリと固まった。しかも仮面の下でポカンと口を開けて、である。仮面が取れていたら、大層間抜けな顔を晒していただろう。

 だが、そんな事などスケットンはどうでも良かった。

 そんな事など、それこそ些細な事だと言えるものが、そこにいたからだ。


「ほっほっほ。ふざけてはおらんよ、何、ここで同じ境遇の者に会うとは思わなんだのでな」


 香が晴れ、周囲の様子がはっきりと見えるようになった、その場所。

 腐り、変色した巨躯。近づくほどに強さを増す、香で誤魔化せないほどの腐臭。

 アンデッドの中のアンデッドである『(キング)』または『女王(クイーン)』の通り名を持つ者に引けを取らぬ貫録を持った、恐怖と畏怖の象徴。


「うむうむ。スケルトンの客人とは、長生きはしてみるものじゃのう」


――――ドラゴンゾンビだった。


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