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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第二章 屍竜の守る村
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第三十七話「魔剣、ガジガジされていますよスケットンさん」


「何だこりゃ」


 自分の腕を見て、スケットンはぎょっとした。骨がやや溶けて、まるで皮膚のように爛れている腕が出てくれば、それは驚くだろう。

 焼けた様な、という言葉が正しい。それに付随した熱さや痛みもまたスケットンは感じていた。

 ナナシは驚くスケットンをよそに、爛れた患部に魔力回復薬(マジックポーション)をざばっとかけた。


「何しやがる!」

「治療ですよ」


 睨むスケットンに、ナナシはさらっと答える。

 彼女の言う通り、魔力回復薬(マジックポーション)をかけると白い煙は納まり、爛れた骨がじわりと修復されていく。

 確かに治療になっているようだ。スケットンは目を丸くしたあと、思い出したように頷いた。


「ああ、そういう事か」

「そういう事です。スケットンさん、アンデッドですからね」


 だから魔力回復薬(マジックポーション)で治ったのだと言うナナシに、ルーベンスは不思議そうに首を傾げた。


「アンデッドと魔力回復薬(マジックポーション)に何の関係があるんだ?」

「それは……っと、それより先に、彼を治療してしまいましょう」


 ルーンベンスへの返答を後回しにして、ナナシは倒れた少年を見た。

 その体から立ち上る白い煙に、ナナシは魔力回復薬(マジックポーション)を軽く振る。


「それ、傷薬よりそっち(、、、)の方がいいんじゃね?」

「ですね」


 スケットンの言葉にナナシは小さく頷く。


――――その時、不意にに少年が身体を起こした。


「あん? 何だ、動けるのか?」


 小さく呟いたナナシの目の前で、少年はゆっくりと体を起こす。

 動けるくらいは大丈夫なのかとスケットンが思っているが、どうにも様子がおかしい。

 少年は相変わらず、体中から白い煙を上げている。肌もあちこち爛れているのが見えた。だがそれにも関わらず、少年は痛みを感じていないようだ。

 見れば、その目もどこかうつろで、焦点が定まっていない。少年の顔を見て、スケットンが「面倒くせぇ」と呟いた。


「気を付けろ、様子が変だぞ」


 スケットンが注意をする傍らで、少年はゆらり、ゆらりと体を揺らす。まるで糸にでも操られているかのような不安定な動きだ。

 少年は少しの間、何かを探すように体を揺らし、やがてナナシとルーベンスの方を見て止まる。


 その次の瞬間、少年は人間らしからぬ速度でナナシとルーベンスに飛び掛かった。


「おっと」

「うわ!」


 二人は咄嗟に飛びのいた事で、少年の攻撃を躱す。そして少年を見れば、不安定な様子と同様に、異様さが増していた。

 口から覗く尖った歯、赤く光る眼、そして刃物のように伸びた爪。

 ただの人ではない、そう思ったルーベンスの額から、たらりと汗が流れた。 


「これは……」

「吸血鬼でしょうか。あの爛れた跡も、あの男が持っていた聖水によるものでしょう」


 ナナシが冷静に説明している間にも、少年は二人に跳び掛かって来る。

 理性があるとは思えない、獣のような動きである。

 だが不思議な事に、少年が狙うのはナナシとルーベンスだけだった。その目は一度たりともスケットンを見ない。


「何故、我々ばかりを狙うんだ?」

「吸血する事で傷を回復しようとしているのだと思いますよ」


 回復薬(ポーション)と一緒ですね、とナナシは言う。


「血ってそんな効果あんの?」

「どちらかと言うと、血中に混ざる魔力でしょうか」

「へーえ。そいつは大変だ。まっせいぜい頑張ってくれたまえよ」


 スケットンはどさっと腰を下ろすと、ひらひら手を振り、すっかり観戦モードだ。ルーベンスの目がつり上がる。


「他人事だな!?」

「だって俺様に害はねーしー?」


 他人の不幸は蜜の味。などとでも言いそうな勢いで、スケットンはケラケラ笑う。

 だがそれも長続きしなかった。


「魔剣、ガジガジされていますよスケットンさん。魔剣の魔力って美味しいんですか?」


 何てナナシに言われて、スケットンは自分の魔剣【竜殺し】を見る。そこでは抜かれたままの剣身に食いつく少年の姿が合った。


「何しやがる!」


 スケットンは少年の頭を掴むと、魔剣から引き剥がし、投げ飛ばす。見た目通り、少年はとても軽かった。投げ飛ばされた少年は、木の幹に体を打ちつけ、がくりと頭を垂れた。


「俺の【竜殺し】ちゃんを食べるなんてふてぇ野郎だ」

「魔剣って基本的に魔力いっぱいですからねぇ。そっちの方が美味しそうに見えたんでしょうか」

「……私達は魔剣よりまずそうなのか」


 スケットンは一転して不機嫌に、ナナシは相変わらず呑気そうに、そしてルーベンスは若干微妙そうにそう言って少年を見たのだった。

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