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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第一章 死者の謳歌と生者の行進
33/116

第三十二話「ああ、関係ねぇな。ただ面白くねぇだけだ」


「へーえ、モテるねぇルーベンスの奴」


 ついで扱いから気を取り直したスケットンは皮肉を込めてそう言った。

 ナナシが聞いていたら「僻みですか?」などと言いそうだし、ルーベンスが聞いていたら「冗談ではない!」と憤慨する事だろう。

 思いのほか二人の様子がするっと浮かんで来て、スケットンは妙な気持ちになった。


「あらやだ、うふふ。スケットン様が想像するような事はありませんわ」


 スケットンの皮肉を聞いたフランデレンは、殊更おかしそうに笑って言う。


「実は最近、うちのデュラハンが一体おかしくなってしまったんです。なので代わりを務めて貰おうと思っていたのですよ」


 言葉の意味が分からず、スケットンが「おかしく?」と聞き返す。

 するとフランデレンは頬に手を当て、


「ええ、主の死霊魔法(ネクロマンシー)で蘇っておきながら、祖国(ラバロンソ)のためになどと妄言を吐いて、主の命令に従う事を良しとしなかったのです。本当に困ったことですわ」


 と、ため息を吐いて言った。

 基本的に死霊術師(ネクロマンサー)によって生み出されたアンデッドは、主には絶対服従だ。それは意志を捻じ曲げられるのではなく、本来の意志や感情を持ったうえで、命令によって従わされるものなのである。

 もしも命令に従わなければどうなるか。それは主の施す死霊魔法(ネクロマンシー)によって変わるが、体を捩じ切られるような激痛を受ける事が多いようだ。


 そしてデュラハンと聞いてスケットンが真っ先に思い出したのは、この屋敷に到着する前に遭遇したあのデュラハンだった。

 酷くボロボロだったあのデュラハンは、脇に抱えた頭に陥没する程の打撃を受けていた。アンデッドとしてはあまりに奇妙なその傷に、最初は疑問ばかりが浮かんでいたが、フランデレンの話を聞いてスケットンは合点がいった。

 あれはフランデレンのモーニングスターによる攻撃を受けて出来たものだろう、と。


「私達アンデッドは主に忠誠を尽くす事こそが存在意義なのです。にも関わらず、あいつ(、、、)はそれが出来なかった出来損ないの愚か者です」


 フランデレンは吐き捨てるように言う。その言葉に込められているのは侮蔑の感情だ。


「それで少々躾をしていたのですが、逃げ出してしまったのです」

「……躾ねぇ。頭を殴りつけるなんてよ、随分とえげつないやり方だな? ご丁寧に追手までかけるなんて、始末する気満々じゃねぇか」

「あら、あのデュラハンをご存知でしたか? お恥ずかしいですわ」

「ただの暴力を躾と勘違いする方が恥ずかしいと思うぜ」

「躾の仕方は、家によって違いますから」


 悪びれずに言うフランデレンに、スケットンは嫌悪感を募らせる。

 あのデュラハンが主の命令に背き続けたという事は、フランデレンの様子を見ても真実だろう。

 そして激痛を受けてもなお背き続けるほどに、デュラハンの意志は強かったという事になる。


 何がデュラハンをそこまで駆り立てたのかは分からない。

 だがデュラハンがこの国(ラバロンソ)のために、と口にしたのならば、彼は心からの騎士であったのだろう。

 忠誠と信念を持った本物の騎士。

 それをフランデレンの主はアンデッドにした(、、)


(――――こいつ)


 スケットンは自分の感情がどんどん冷えていくのを感じた。

 そんなスケットンの心情など知らずフランデレンはにこりと微笑み、礼を言う。


「まぁ最終的に、どれだけ躾けても手がつけられないので始末しようと思っていたのですが……代わりにして下さったのですね、ありがとうございます」


 本当に助かった、と感謝しているような言い方だ。彼女にとって主を裏切ったデュラハンは仲間でも何でもないのだろう。


「あのデュラハンがナナシを狙った理由は何だ」

「ナナシ様は主にとって大事な方ですから、主の気配でも感じたのではありませんか?」

「そうか」


 スケットンの声は普段とは違い、淡々として静かで低い。それは怒りによるものだった。

 フランデレンの主によって、あのデュラハンは自分の意志を無視して使われた(、、、、)。そして捻じ曲げられようとした自分の意志を、必死で汲み上げ振り絞り、屋敷から逃げた。そして逃げた先でナナシを襲い――――スケットンに倒された。

 その事実がスケットンの頭を冷やし、空虚な胸の内に燻る炎をじりじりと燃やす。

 スケットンは他人から利用されるのが大嫌いだ。

 それと同じくらい他人が誰かに利用され(、、、、、、、、、、)()のを見るのも大嫌いだった。


 そう、スケットンは紛れもなく怒っていた。


「それだけ聞ければ十分だ」


 スケットンは【竜殺し】を構え直す。

 フランデレンは笑顔のまま僅かに沈黙し、空洞の目を細める。


「何を怒っているのですか?」


 フランデレンから向けられたのは「理解出来ない」という言葉だ。

 それはスケットン自身も感じているものだった。

 他人なんてどうでも良い。

 友人なんてものも必要ない。

 信用して裏切られるなんて馬鹿みたいで真っ平だ。

 それがスケットンの生き方で、彼が両親の死の真実から得た教訓だ。


 だが今、どうでも良い他人のために、スケットンは怒っていた。


「お前には俺が怒っているように見えるのか?」

「ええ、とても」


 静かに聞き返すスケットンを、フランデレンは不思議そうに見ながら頷く。


「何故あなたが怒るのです? あのデュラハンなんて、あなたには赤の他人。何の関係もない者でしょう?」

「ああ、関係ねぇな。ただ面白くねぇだけだ」


 スケットンは自分の怒りに理由をつける。

 面白くない、気に入らない。まるっと全部、腹が立つ。

 スケットンは【竜殺し】の切っ先をフランデレンに向ける。


「俺はな、他人を手前勝手に利用(、、、、、、、、、、)しようって奴が(、、、、、、、)、大っ嫌いなんだよ!」


 そして吼えると荒々しく床を蹴り、突進した。

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