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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第一章 死者の謳歌と生者の行進
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第二話「そういや、俺が死んでからどのくらい経ってんの」


 いつまでも洞窟の中にいるのは何なので、スケットンとナナシは外に出た。

 魔物も出たが、スケットンが一刀両断に倒してしまう。死んでも俺は最強だなどと、鼻歌混じりに敵を倒すスケットンは、頼もしいというよりはシュールであった。

 洞窟の外の空は青く晴れて澄んでおり、周りの木々にはスリジエが薄桃色の花を咲かせている。

 どうやら今は春らしい。

 スケットンが死んだのも春の終わりだったので、不思議と時間が経っていないように感じた。


「そういや、俺が死んでからどのくらい経ってんの」

「三十年ちょいくらいでしょうか」

「意外と経ってねぇのな。生身のままだったら俺は五十二か。ナイスミドルになってたはずなのに残念だ」

「この国の平均寿命は六十前後ですから、あと八年もすれば今と同じですよ」


 ナナシはさらりとそう言った。

 確かに。確かにそうだが、そう言われると微妙に納得いかないものがあるとスケットンは思う。

 複雑な心境でスケットンは自分の体を見た。

 骨だ。やっぱり骨である。

 骨の体に、ボロボロの服とマントを羽織ったその様は浮浪者のようだ。

 唯一まともに残っているのは腰からぶら下がった剣である。【竜殺し】なんて異名を持った魔剣で、スケットンの一番の宝である。

 この剣には竜の息の根を断つ魔力が込められている。その魔力の影響か、三十年経ったにも関わらず錆一つないのはさすが魔剣と言ったところだ。

 そんなスケットンの剣を見ながら、ナナシは言う。


「ところでスケットンさん。そろそろあなたの武器を見せて頂けませんか?」

「やだよ、回収するんだろ」


 奪われてなるものかとスケットンは剣を隠す。

 ナナシは首を振ると、


「いえ、ちょっと触らせて頂けたらと」


 と言った。

 剣なんて触ってどうするのかとスケットンは思った。だが、回収ではなく触るだけなら別に構わない。

 自分の剣を奪われるのが嫌なだけで、見せびらかすのはスケットンもやぶさかではない。


「まぁ、触るだけなら」


 そう言ってスケットンは【竜殺し】を抜いてナナシに見せた。

 すらりとした剣身が太陽の光を受けて輝く。わずかに光って見えるのは剣に宿る魔力だろう。


「きれいですね」

「そうだろうそうだろう」


 自慢の剣を褒められてスケットンは機嫌を良くした。ナナシが触りやすいように、高さを合わせてやるくらい、上機嫌だ。

 ナナシはそろそろと指で剣身を触れる。


 その時突然【竜殺し】に宿る魔力が、ぶわり、と噴き出すように広がった。


「は!?」


 スケットンは目を剥いた。もっとも剥けるだけの目なんてなくて、そこは空洞ではあるのだが。

 何事かと驚くスケットンの目の前で【竜殺し】の魔力がナナシに吸収されていく。

 噴き出た魔力がナナシに吸い込まれると【竜殺し】の異変は収まった。

 ナナシは「うっぷ」と気持ち悪そうな顔をしている。

 スケットンはナナシと【竜殺し】を交互に見た後、ナナシに詰め寄った。


「おまっ俺の剣に何しやがった!」

「触りました」

「触ったな! じゃなくて!」

「ご安心を、剣は今まで通り無事ですよ」


 ナナシはにこりと笑って言う。

 そう言われスケットンは【竜殺し】を見た。錆一つない剣身。そしてその周りはわずかに光っている。

 確かにナナシが言う通り、見せる前と同じだ。特に変化は見られない。


「……本当に大丈夫なんだろうな」

「大丈夫ですよ。私は魔力の中にある、過去の戦いの記憶を拝借しただけですから」

「過去の戦いの記憶って何だよ」

「剣の振い方とか、竜の弱点とか、そんな感じの」

「何それ?」

「何それと仰いましても、先代の勇者の記憶を受け継いで戦うのが勇者というものでしょう?」

「そうなの?」


 そんな話は聞いた事がなかったのでスケットンは首を傾げた。

 スケットンが勇者と呼ばれていた頃、誰からもそんな話は聞いた事がない。

 まぁもっともスケットンは他人に教えなんて請わなかったし、教えてくれる親切な知り合いもいなかったからなのだが。


「つまり、俺の戦い方がお前の中に入ったってわけ? やだ、やらしー」

「はぁ、何がやらしいのかサッパリですが、そうですよ」

「つーかよ、触るだけで良いなら別に武器を回収する必要はなくね? お前装備できねーし?」

「私の次の勇者が使うかもしれませんし、そこはほら有効活用ですよ」

「俺の【竜殺し】はそんじょそこらの使い手じゃ満足しねーよ」


 スケットンはフン、と鼻を鳴らした。

 魔剣と言う奴は誰でも扱えるものではない。まるで意思があるかのように、魔剣は自分で使い手を選ぶのだ。

 その魔剣を選んだ使い手以外が扱おうとしても、振えないどころか持ち上がらない。非常に重くなるのだ。

 だがそれならまだいい。魔剣によっては持ち上げられないどころか、そのまま命を奪おうとまでする。そういう危険な代物なのだ。

 だから三十年も放っておかれてもスケットンの魔剣は誰にも盗まれなかった。


「それにお前じゃ持てねーし」

「そうですか? 意外とイケるかもしれませんよ。魔剣何度か回収していますし」

「へー? だけど【竜殺し】はぜってー持てねーぜ」

「じゃあ、持ってみていいですか?」

「どーぞどーぞ。腕折っても知らねーぞ」


 スケットンは鼻で笑いながらナナシに剣を差し出す。

 だが本当に腕が折れては流石に困るので、持って直ぐに落とせるくらいの位置にである。変な所で気にする男だ。

 ナナシはスケットンの剣を手に持った。


 持てた。


「持てました」

「何で!?」


 本日二度目ではあるが、スケットンが空洞の目を剥いた。

 持てている。何故だか知らないがナナシは【竜殺し】を持つ事が出来ている。

 ひょいひょいと【竜殺し】を軽々扱うナナシを見て、スケットンは絶句した。

 

 ナゼ。

  

 それしか浮かばない。

 スケットンは骨の両手で顔を覆った後、


「この浮気者!」


 などと【竜殺し】に向かって拗ねたように言った。

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