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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第一章 死者の謳歌と生者の行進
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第十七話「あたしは魔王様の四天王の一人、シェヘラザードよ!」


 周辺のアンデッドを倒し終えたスケットンとナナシは、封印石の近くへとやって来た。

 戦いのごたごたで完全に割れてしまっている。

 効力を失い、ただの岩と化したそれの前には、先ほど叫んでいた猫耳娘が立っていた。

 悲壮な姿はどこへやら、猫耳娘は腰に手を当て、高らかに笑った。 


「にゃーはっはっは! 封印が解けたのならこっちのものよ!」


 キンキンとした甲高い大声がオルビド平原に響く。

 スケットンは耳を押さえてうるさそうに目を細めた。


「かしましい奴だな、少しは静かに出来んのか」

「にゃ!? ほほほ褒めても何も出ないわよ!」


 かしましい、つまりは騒々しいと言う意味でスケットンは言ったのだが、猫耳娘は何と解釈したのか、違うように受け取ったらしい。急に頬を染めると、照れたように耳と尻尾をパタパタと動かした。まるで本当に猫のようである。

 大変可愛らしいのだが、スケットンには興味がないようで、ため息を吐いて言う。


「万に一つも褒めてねぇよ。それよりも、お前は一体何なんだよ」

「あっそうだった! 聞いて驚くがいい。あたしは魔王様の四天王の一人、シェヘラザードよ!」


 猫耳娘ことシェヘラザードは胸を張って名乗った。

 四天王シェヘラザードとは、稀代の魔法使いと呼ばれた魔王配下の四天王の一人だ。

 強大な魔力を内に秘め、古今東西の魔法に精通し、あらゆる叡智を手にした魔族――――と数多の書物に記載されている。

 しかしスケットンには目の前の少女が四天王だとは思えなかった。

 スケットンはなかなか、いや、かなり疑わしい眼差しを向けながらナナシに言う。


「おい、四天王だとか言い出したぞ。どうすんだよコレ」

「勇者博物館に展示されていた資料では、もう少し神秘的な雰囲気だったと記憶してるのですが……」

 

 二人はシェヘラザードに背を向けて、こそこそと話し始めた。

 どうやら疑わしく思っているのはスケットンだけではないらしい。


「何こそこそしてんのよ」

「いや別に」

「……まぁいいわ。助けてくれたんだから、一応はお礼を言わないとね。ありがと、死ぬかと思ったわ!」


 シェヘラザードはにっこり笑ってウィンクをした。 

 四天王云々は置いておいても、お礼がちゃんと言える辺り悪い人ではないらしい。

 ナナシはつられて笑顔になって、


「いえ、ご無事で何よりです」 


 と言った。スケットンは「もっと感謝しろ」と言おうとして、ふと浮かんできた疑問を口にする。


「そういや、封印って死ぬのとは違うんだよな?」

「ええ。封印というものは、何らかの理由で命を奪えない相手に対して行うものですから」


 スケットンの言葉にナナシは頷く。

 基本的に封印とは、その名の通り封じ込めるためのものだ。

 ゆえに命は奪わない。奪えない。どうにもならない相手に対し、結論の先延ばしをする魔法なのだ。


「封印されると歳は取らねぇの?」

「封印が解けたら天寿を全うしていた、とは聞いた事がないので、恐らく。昔の魔王も封印されてから百年後に蘇ったとかありますから」

「それアレだよな。魔王に合わせて勇者も未来に送られるとかされたらすげぇ嫌」


 顔をしかめてスケットンは言う。

 ナナシは「それは思いつきませんでした」と目を丸くした。


「できたらある意味便利そうですけどね、参加するか否かは希望制ならなお良いです」

「好き好んで未来を救いたいお人好しがどこにいるんだよ」

「私は意外とアリですけど。やる事あって良いですよね」

「お前、馬鹿じゃねーの。良いように使われるだけだぞ。やりたい事くらい自分で探せよ。勇者だろ? 立場利用して好きに遊べよ」

「遊ぶ、ですか……」


 スケットンの言葉にナナシがあごに手を当てて考え込む。そこまで悩む事なのかとスケットンは思った。


「ねぇ、ちょっと。あたしの事を忘れないでよ、寂しいじゃない」


 話し込むスケットンとナナシの肩をシェヘラザードが叩く。

 振り向くと、彼女はむう、と拗ねたように口を尖らせていた。


「何だ、まだいたのか」

「いるわよ!」

「失礼しました、スコンと忘れてました」

「揃って失礼よね、あんた達……」


 シェヘラザードは半眼になって、呆れたように言った。

 そしてふとナナシの顔を見て首を傾げる。


「あれ? あんた、どこかで会った事ない?」

「あるかもしれませんがないかもしれません」

「どっちよ」


 シェヘラザードは訳が分からない、といった様子で首を傾げる。

 それを聞いていたスケットンが、


「こいつ記憶喪失なんだよ」


 と補足すると、シェヘラザードは納得して頷いた。


「へぇそうなんだ……。えっと、あんた――――あ、そう言えば、あんた達の名前を聞いてなかったわ。名乗りなさいよ」

「いちいち上から目線の奴だな」

「それをスケットンさんが言いますか。ええと、私は勇者のナナシと言います。こちらは、同じく勇者のスケットンさんです」

「歴代最強の、が抜けてるじぇねぇか」

「歴代最強のスケ()トンさんです」

「てめぇ……」


 スケットンがナナシを軽く睨んでいると、シェヘラザードは「勇者?」ときょとんとした顔になる。

 そして俯くと、しばらく勇者、勇者と繰り返す。

 やがてその体がぶるぶる震えだした。


「おい、ブチスラみたいに震えてんぞ。通訳しろ、通訳」

「彼女はブチスラじゃないですからちょっと……」


 スケットンの無茶振りにナナシが肩をすくめていると、シェヘラザードが勢いよく二人を指差した。

 そして顔を上げ、キッと睨んだ。


「あんた達があたしを封印したのね!」

「人違いです」


 ナナシが即座に否定したが、シェヘラザードは聞く耳を持たない。

 それどころかより怒りのボルテージが上がって行く。


「うるさい! あたしを封印したのも勇者よ! ならあんた達がやったって同じ事じゃない! そうでしょ!?」

「違ぇわ。どんな理屈だよ」


 同じではないが、同じことだとシェヘラザードは言い切る。

 その目の端にはキラリとした涙が浮かんでいた。


「うるさいうるさーい! 中途半端に封印が解けてから、あたしがどれだけ寂しかったと思うの!? アンデッドしかいないのよ!? お腹も空くし、喉も乾くし、魔法も使えないし、さんざんよ! あんた達もあたしと同じように封印して、一人ぼっちにしてあげるんだから!」


 要約すると寂しかったらしい。

 半ば八つ当たりのように怒鳴るシェヘラザードを見ながらスケットンは言った。 


「おいナナシ、ぼっち仲間だぞ」

「ぼっち言わんでください!」


 ナナシが両手で顔を覆って嘆く。

 その間にシェヘラザードは、シャラン、と腕のリングを鳴らして高らかに言い放つ。


「いくわよ、闇遊戯(デスルーレット)おおおお!」

「封印するって割に変な事言い出したぞ」

「あれ、闇の上級魔法ですよ。確か魔法の効果の一つに、確率は低いですけど即死があったはずです」

「ぼっちにしてやるって言うレベルじゃねぇんだけど」


 スケットンはひくっと顔を引きつらせると【竜殺し】を抜く。

 唐突に、そして理不尽に始まったシェヘラザードとの戦いに、二人は戦闘態勢を取った。

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