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骨勇者スケットンの受難  作者: 石動なつめ
第一章 死者の謳歌と生者の行進
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第十五話「あれは確か、封印石ですねぇ」


 琥珀砦の町ベルンシュタインを出発したスケットン達は、オルビド平原へとやって来た。

 十年前に魔王の軍勢と人間側が戦った場所だ。遠くから見ても分かるくらいにアンデッドがひしめき合っている。


「何これ、祭りでもやってんの?」


 まさしく、うようよ、という言葉が相応しいほどに、オルビド平原はアンデッドでいっぱいだった。

 スケットンはそれを見て「うへぇ」と嫌そうに顔をしかめる。その顔からは町にいた時につけていた仮面が外されている。外でならば素顔でも大丈夫だろう、と言う事だ。

 ナナシは『仮面がない方が落ち着くな』などと思いながら言う。


「アンデッドカーニバルって笑えないですよね。ブラッディカーニバルみたいで」

「どっちも血祭りだよな」


 笑えない冗談である。

 そんな事を言いながら、スケットンとナナシはオルビト平原に足を踏み入れた。

 こんな光景を見ても躊躇いがないあたり、さすが勇者と言ったところだろう。

 二人がオルビド平原に足を踏み入れた途端に、近くのアンデッドが一斉にスケットン達の方を向いた。


「うはははは、すーげぇ。一斉にこっち見たぞ」


 笑いながらスケットンは魔剣【竜殺し】を抜く。周囲の空気がどんよりとしているせいか【竜殺し】に宿る魔力の淡い輝きが際立って見えた。

 まずは手始めに、と準備運動でもするような雰囲気で一振り。【竜殺し】の魔力が衝撃波のような斬撃を生み、周囲のアンデッド達を吹き飛ばした。

 その間にナナシが『炎帝の矢(イグニス)』の詠唱を終える。呪文(スペル)に呼応して出現した一本の炎の矢は、自由自在に周囲を走り、アンデッド達を屠った。


「しかしすげぇ量だなぁ。オルビドの戦いってのはそんなに規模がでかかったのか」

「総力戦だったそうですよ。酷い戦いであったと聞いています」


 勇者博物館で読んだ事ですが、と前置きして、ナナシは『炎帝の矢(イグニス)』を操りながら話を始める。

 オルビドの戦いとは、恐らくはこの国が始まって以来、最も大きく、長い戦い――――消耗戦であった。

 戦力は拮抗し、実力も拮抗していたため、なかなか勝敗が決まらない。そして始まった以上、お互いに退くにも退けず、勇者が魔王を倒すまで、延々とその戦いは続いた。

 結果としては確かに人間側が勝った。けれど勝ち負けなどという言葉では言い表せないくらいに全てが疲弊し、多くの命が消えた。

 最後には敵も味方もなく、何の為に戦っているのかさえ、分からなくなっていた者が多かったとナナシは言う。


「このアンデッド達もその時に死んだ奴って事か」

「ええ。人間、魔族、魔物と入り混じっていますね」

「死んだら敵も味方ねぇもんだな……と!」


 話ながらスケットンは【竜殺し】を振るう。

 スケットンでさえも、このアンデッド達には多少なりとも同情した。しかし、だからと言って、手加減をするかと言えば答えは否である。

 彼らは望まずして死んだものだ。だが、同時に望んでアンデッドになったわけでもない。

 ならば輪廻転生の輪に入れるまで、何度も、何度でも倒し尽くすのが彼らへの弔いだ。例え輪廻転生に必要な世界樹を引っこ抜かれたせいで、何度繰り返す事になっても。

 スケットン達は平原の真ん中を突っ切りながらアンデッドを倒し続ける。体力を温存するために会話も減り、淡々と倒していく中で、ふっとスケットンはある事が気になった。


「……でも、何か変だな」


 戦いながらスケットはぽつりと呟く。その頭に浮かぶのは、ナナシが語ってくれたオルビド平原で起きた戦いについてだ。

 以前にナナシは、勇者(スケットン)の強さのために、この国の騎士団が弱体化したと話していた。 

 だがその話からすれば、オルビド平原での戦いの話が微妙に食い違うのだ。


勇者(おれ)のせいで弱体化したってんなら、実力が拮抗してたっつーのは変じゃねぇか?」


 スケットンが死んだのは三十年前である。

 そしてオルビド平原で起きた戦いは今から十年前の事だ。

 その間に、勇者がナナシに引き継がれるまで、二人の勇者が存在している。

 騎士団の弱体化がいつから始まったのかは分からないが、いつ始まったとしても(、、、、、、、、、、)、辻褄が合わないのだ。


「弱体化したってんなら、魔王の軍勢と戦っても、実力が拮抗するはずもなく押されるんじゃねぇか?」


 スケットンはちらりとナナシを見る。彼女は今も魔法でアンデッドを屠っている最中だ。

 もちろんスケットンにもナナシが嘘を吐いているようには見えなかった。だが、どうにも腑に落ちない。


 そんな事を考えながらスケットンが戦っている間に、ちょうどオルビド平原の中央付近へと辿り着いた。


「ん? 何だありゃあ」


 スケットンがふと見ると、平原のど真ん中に、魔力を放つ大きな石がある事に気が付いた

 トランプで言うところのダイヤの形をしたそれには、よくよく見ればアンデッドが群がっている。

 普通はアンデッドは生者に群がるものなので、スケットンは不思議に思い、石を指差しナナシに聞いた。


「おい、ナナシよ、ありゃ一体何だ?」

「え? ああ……あれは確か、封印石ですねぇ」


 封印石とは魔法の一種で、文字通り何かを封印するために作られたものである。

 スケットンに言われて封印石の存在に気付いたナナシは、手を額にかざして目を凝らす。


「……何かあの封印石、半分砕けてますけど。アンデッドに齧られでもしたんですかね?」

「不味そうなもん食ってるな。まぁそれはいいとして……封印石ってあれだろ、ヤバイ奴を封じ込めておく……」

「「あ」」


 スケットンとナナシの声がハモった。

 そう、封印石とは、大抵何かヤバイ(、、、)ものを封印するために使われる。

 そんなものが半分砕けている。つまりは封印が解けかけているのだ。

 大変よろしくない状況である事に気付いた二人は、一瞬「見なかった事にしたい」と思った。

 その時、その封印石の方から、


「にゃああああああ! だぁれぇかあああああああ! たぁすけてええええええ!」


 などと、甲高い悲鳴が聞こえてきた。

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