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僕は、桃音は、優子は (終)

「よっしゃ……完成っと……」


 天井に向けて背伸びをし、僕はいつもながらの、間抜けな顔であくびをする。

 寒い寒い冬が過ぎ、ちょっと浮ついた春も終わり、夏が少しだけ顔を出いているこの時期。

 色々な思い出が詰まった季節。

 悲しかったり悩んだり、喜んだりふざけあったり、まるで昨日のことのように脳裏に浮かぶ。

 もう戻ることはできないけれど、戻ろうとも思わない。

 だって僕は、何一つ後悔などしていないのだから。

 コンコンと僕の扉をノックする音。すっかり部屋は変わってしまったけれど、あの時と同じだ。小ざっぱりとした部屋の中に、軽やかな音が響き渡る。

 まるで僕の孤独な心を癒してくれる、そんなメロディーだ。

 フローリングされた床を歩き、扉を開く。 


「おはよう。どうした?」


 風が吹いたような気がした。優しく僕の頬を撫でるような、そんな風だ。


「おはようございます。透さん、学校に行ってきますね」


 制服姿の彼女。長く美しい髪の毛は今でも健在だ。思わず見惚れてしまうこの瞳。赤く輝く三日月のようで、けれども青く輝くインディゴライトのようでもあり。そんな妖しさと美しさを兼ね備えた、あいつのような瞳。


「どうかしましたか?」

「いや……ちょっと昔を思い出して」

「さては透さん、私に桃音さんを重ねましたね?」

「そんな感じ」


 ため息交じりに笑う彼女――いや、優子の顔は、やはりあいつそのものだった。


「桃音さーん! なんだか透さんが厭らしい目で私を見てきます!」

「ば、バカ――」


 口を塞ごうとしたけれど、遅かった。


「ちょっと透君……どういうつもり……?」

「今日のお前も、最高に美人だなって。そういう話をしていたんだよ」

「嘘をつくな」


 スリッパで僕の足を踏みつける桃音。こいつはこいつで、変わらないな。


「ほら優子。こんなアホな男は放っておいて、学校に行きなよ。後処理はあたしがやっておくから、うん」

「あ、後処理……? なんだか穏やかではないな……」


 エプロン姿を見るのは、これでもう何度目か分からない。しかし、いつ見ても慣れないものだ。家庭的な桃音を前にすると、今でも心臓が少し、撥ねついてしまう。


「じゃあ、そういうことで。私は失礼します」


 くるりと背を向ける優子に、一言だけ。


「まだまだお前、白いワンピース着れそうだな」

「……セクハラですか?」

「どうしてそうなる」

「透さんの発言は、九割方そういう変態チックな発言なので」

「残りの一割はなんだよ、じゃあ」

「そうですね――」


 わざわざこちらに向き直し、優子は言う。


「私や桃音さんの自慢、ですかね」


 これだから憎めない。この屈託のない笑顔を前にすれば、憎しみなんて生まれるわけがない。


「そうかよ。ほら、遅刻するぞ。さっさと行ってこい」

「言われなくてもそうします」


 クールな表情で立ち去る優子の後ろ姿、それをしばらく見送って。


「幸せだな」と、僕は言った。

「そうだね。幸せすぎて、怖いぐらい」

「結局……あのとき言ったことが、本当になっちまったもんな。人生ってのはよく分からん」

「うわ。年寄り臭い」

「うるせえ」

「それより、あれは順調なの?」


 桃音の高い鼻を横目にして、僕は頬をポリポリと掻く。


「完成したよ。正直……今から仕事行くのが面倒なぐらい、疲れた」

「徹夜でそんなことするからだよ。でも、仕事にはちゃんと行ってもらうからね」

「分かってる。まあ、優子が帰ってきたら、三人で見ようか」

「そうね。それじゃあ、透君も、お仕事頑張ってね。はい」


 そう言って、桃音はお弁当を僕に手渡す。


「ピンク……なあ、もう少しどうにかなんねえの? この弁当箱」

「ならないものはならない、そういうことよ」

「はいはい。じゃあ行ってくるよ」

「ちょっと待った」


 家を出ていこうとした僕を止める。


「あんたパジャマのままなんですけど……それで仕事は、ねえ」

「あ、まじだ。いやあ……僕ってば、ついうっかり」


 こつんとゲンコツを頭に乗せると、桃音はそれをパシッと薙ぎ払う。


「可愛くないから」

「だよな」

「分かってるならやめなよ……」


 手早くスーツに着替え、まあ、色々と小言を言われたけれど、僕は今日も笑顔で家を出る。


「行ってくる」

「ネクタイ曲がってる。もう……仕方ないな……」


 桃音は慣れた手つきで僕のネクタイを直す。僕はふと、思い出した。昔の桃音は甘い匂いがしたけれど、今の桃音は――いや、やっぱり甘い、匂いがするな。

 笑顔で手を振る桃音を一瞥し、僕は歩く。

 徹夜で書き上げた小説を、今晩は三人で読んでみよう。別に小説家でもなんでもない僕が書いたものだ。あまり見れたものではないかもしれない。

 けれど――確かにあの時のことを、思い出せるはず。何を感じて何を思って何をしたのか。それを少しずつ紐解きながら、今晩ぐらいは、昔を思い出してみようじゃないか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。先日、この物語を読み返してみたら、自分で書いておきながら大変読みにくいことに気付きました。誰の発言? どこで話してるの? という具合に、はい。反省します。セリフ回しにこだわり過ぎて地の文が適当になってしまいました。とにもかくにも、ありがとうございました! そしてごめんなさい!

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