5話
僕と稟堂は久良持さんがいる銭湯兼第5支部から離れて、駅へと向かっていた。
「本当に幸運を溜める方を優先して良いの?」
「だって、多分今の幸運状態だとバイトだって受からないだろ。それなら先に幸運を大きくしてからバイトなり探した方がまだマシだろ」
「それもそうだね」
稟堂も納得したので、僕たちはすぐ近くにあった広い公園で駅近くへとジャンプした。
新幹線が通っている高架下に僕たちは到着し、駅へと向かって歩き出す。
2015年に新装された金沢駅は僕が従来知っていた駅とは異なり、歴史を残しつつもほぼ変わってしまったのだった。
新幹線が通ることによって金沢から東京へ行きやすくなった分、金沢から若者が少しずついなくなっているのも避けられない現実である。僕も東京へと行きたかったが、フリーターになってしまい、家からも追い出されてしまった以上、諦めるしかないのだろう。
「駅以外のところに行かない? 例えばそこのデパートとかさ」
「ああ。あそこならまだ人がいるかもな」
足取りは自然とデパートへと向かい、そのまま入店した。
デパート内は特にこれと言った賑わいはなかった。それもそのはず、中高生の下校時間まであと30分ほどあるからである。チラホラと人はいるものの、中年の方ばかりである。それでも若い人はそれなりはいる。僕と同年代か、あるいは年上か……。
「とにかく、上に向かおう。お店を見るフリをして幸運が大きい人から少しずつ削り取って行くからさ」
稟堂の言葉を聞き、エスカレーターに乗るとすぐに左側を数人が素早く歩いていった。
「やったね、早速幸運ゲットしたよ」
小さな声で僕に囁いてくるので、ある程度また僕に幸運が溜まったのかと思うと少しだけ気分は高揚した。
そのまま彼女と共に7階にある映画館を目指しながら店内を見まわり、エスカレーターを乗りついで行った。
1時間近くすると7階にある映画館に到着する。映画館には制服を着た高校生の姿も見られる。僕たちも今現在は制服を着ているが、卒業式まで間もないのでこの制服とももうすぐ卒業するのだろう。
映画館の待合室にある椅子に僕たちは座り、話始める。
「どれくらい溜まった?」
「結構すれ違ったからね。サイコロ未満、アリ以上って感じだね。でも、最初のミジンコに比べればマシだよ。辛うじて幸運があるって言っても良かったくらいだからね」
腕を組んで笑っている稟堂を見ていると、半信半疑だったが彼女の言葉を信じてみることにした。
「ゆ、弓削レイセン!?」
ポップコーンと飲み物を抱えて稟堂の背後から僕の名前を呼ぶ声がしたので、目線を向けると、そこにいたのは小学生の女の子だった。
「誰? この子」
「いや、分からない……。でも、僕のこと知っているってことはどこかで会っているんだよな……。全然分からない」
「小学生と関わりがあったことなんてないでしょ?」
僕たちが話し合っていると、小学生女児は僕の方に近付いてくる。
「わたしのこと忘れたなんて言わせないからね! 二次試験のとき、あんたの後ろにいたじゃない!」
「二次試験のとき……?」
記憶を思い返しても彼女がいたことをどうしても出てこない。
「ちょっと待ってよ。あんた、小学生なのに何で大学の試験受けているの?」
「はァ!? ふざけないでよ! わたしは弓削レイセンと同じ18歳よ!」
僕たち二人は驚愕する。目の前にいるどう見ても小学生の女の子はなんと僕と同じ18歳だそうだ。
「しょ、証拠見せてよ! 私とかなり身長差あるじゃない! 服だってどうみても小学生が着てるものじゃん!」
稟堂は現実を受け止められず、困惑しながら話していた。
「わ、分かったよ! ほら、これ高校の学生証!」
財布から県内でも5本の指に入る進学校の学生証を見せてきた。その時に彼女の名前も一緒に分かった。
「夜明 冷明……? 変わった名前してるんだな」
「弓削レイセンって名前も大概だろ。それよりも、何で弓削レイセンは大学、受かったのか? わたしの前で必死に参考書見てたじゃないか」
「大学落ちたよ」
言葉を理解した瞬間、夜明は僕を見て嘲笑う。
「だ、大学落ちたのか!!? あんな地方の大学に!!!? 嘘だろお前、あんなところ、余裕で受かるだろ!」
「余裕で受かるのに、何であんたは一般で受けてんのよ。余裕なら推薦で入学したら良かったんじゃないの」
稟堂の核心を突く一言で夜明は固まる。
「じゃ、僕たち行くよ。夜明は大学生活楽しめよ」
「え? ちょ、待て! お前たち映画を見るんじゃないのか?!」
「見ないよ」
夜明は困り果てて、泣きそうな顔をしながら映画の出入口と僕たちと交互に見ていたが、僕たちが動き出すとすぐに目線を僕たちに向けていた。
「あ、あの! 2時間くらいしたらまた映画館に来てくれよ! 話したいことがあるから!」
僕たちは彼女の言葉を聞いていたが、エスカレーターを使わず、エレベーターを使って下りて行った。
「どう見ても小学生だったけど、学生証と顔が一緒だったし、信じられないけど私たちと同じ歳なのかもね……。しかも、言い方から考えると大学受かってるしね」
僕は何も言わなかった。特に話す言葉も思いつかなかったからだが、稟堂は僕が気を悪くしたと思ったのか、僕に寂しげな視線を向けていた。
珍しく誰も乗り込んでくることはなく、1階に到着するとすぐ近くにあった出入口から駅の方へと歩いて行った。
しばらく駅の中を幸運を削り取ると言うわけでもなくただ散策をしていたが、暗くなってきたので一旦久良持さんの元へと戻ることにした。
久良持さんがいる第5支部、別名、久良持湯の中へと入って行く人がチラホラ見えた。意外と繁盛しているのかもしれない。
僕たちも入って行くと、番台にいた久良持さんはロビーに設置されているテレビを見ながら笑っていた。
「おっ、おかえり~。幸運はサイコロくらいの大きさになったかい?」
「ただいまです。まだサイコロまではいかないですが、それなりには大きくなりました」
「どれどれ……お、まあ、さっきよりかは大きくなってるね」
久良持さんの瞳は稟堂と違い、相変わらず黒い瞳であった。何故稟堂だけ金色に輝くのだろうか。遺伝だと彼女は言っているが、本当なのかは分からない。
「今日は風呂に入りなよ。外、寒かっただろう?」
「良いんですか?」
「良いよ。君たちはもう住人だからね」
着替えを取ってこようと言っているとまた一人新たな客が出入口を開けて入ってくる。
「ううう、寒いいい。風呂湧いてるー?」
聞き覚えのある声だった。つい数時間前に聞いた声だ。
「湧いてるよ。あ、そうそう。新入りがいるよ」
「新入り? 誰か知らないけどさ。聞いてよ。久々に会ったヤツがいるんだけどさ」
話ながら入ってくる人物は僕と稟堂を見て硬直する。
「ゆ、弓削レイセン!? 何でここにいるんだ!!」
「彼が新入り……って、あれ。夜明ちゃん知ってるの?」
「実はさっき、映画館で会いまして」
稟堂が軽く久良持さんに説明すると、久良持さんはニヤついていた。
「へえ。これも幸運の力なのかもしんないね。それじゃ、自己紹介は省いても良いみたいだね。ところで、レイセンくんと夜明ちゃんは一体いつ出会っていたんだい?」
「僕は知らなくて、彼女が一方的に知っていただけです。大学の二次試験で僕の後ろにいたらしいのですが、全然気付かなくて」
「て、て言うか!! 何で映画館に来なかったんだよ! ずっと待っていたんだぞ!!」
「聞こえていなくてさ」
夜明は僕に何度も文句を言っていたが、何を言っても小学生の悪口にしか聞こえなかった。
つづく
書いていて思いましたが、ほぼほぼ運命ドミネイションと一緒ですね。個人的に映画館のくだりはいらなかったと思いますね。