銀髪少女の力
誰も声を発しなかった。
驚きと恐怖からなる静寂の中で、光の中に浮かぶあの人物は確かにこう言った。
『≪月の無い闇夜の集会≫のリーダー』
誰も一言も話さないけれど、頭の中は大混乱だろう。
なぜ戦闘中のはずの敵が、それもリーダー格がこんな所にいるのか。
そして、ユーリ・ミノユイアが作ったシェルターをいとも簡単に破壊してきた攻撃力。
それが自分に向けられるのではないかという不安。
みんな、逃げ出したいけれど怖くて動けないといった状態なのだろう。
「我々≪月の無い闇夜の集会≫の目的は、空想世界に存在する全ての国家の統一である。そのために、空想世界最大の国家である≪自由同盟フルート≫、およびその国民である貴公らは、我々の支配下に入ってもらう」
今度は先程とは違い、聴衆の驚きはそこまで大きくなかった。
彼らの言う空想世界統一を目指す団体は、少なくないのだ。
ただし、彼らと他の団体との決定的な違いは、人数の少なさだ。
普通13人で空想世界統一なんて言い出せば、笑い者以外の何物でもないだろう。
でも、数千人のフルート同盟軍とユーリ・ミノユイアを圧倒したあの戦闘力を見せられた後では、笑うどころか恐怖を感じる。
「そして、我々にはもう一つの目的がある。 いや、違うな。これは俺個人の願望だが……」
そう前置きした後、黒衣の侵略者はとんでもないことを言い放った。
「セツナという人物を探している」
「くっ……」
空中でストリュートの猛攻に耐えるユーリは、悔しげに顔を歪ませた。
「くくっ。空想世界最強と言われるユーリ・ミノユイアが、まさかこの程度とは思いませんでしたよ。私で苦戦するようでは、我々のリーダーには到底敵いませんね」
瞬間移動を中断し、再びユーリに対峙しながらストリュートは言った。
「ああ、そういえば。あなたは≪先駆者≫だそうですね。俗に≪創世の日≫と呼ばれる、3年前のあの日以前からこの世界にいた人々。会うのはあなたが初めてですが、大した事はなかったですね」
肩をすくめて、失望したという言葉を体で表すストリュート。
小馬鹿にしているようだが、その動きに隙は無い。
ユーリは黙っている。
「そうそう。≪先駆者≫に関する、こんな噂を聞いたことがあります」
言葉を発しないユーリの様子を楽しんでいるかのように、ストリュートは次の言葉を紡いだ。
「≪先駆者≫は、常人よりはるかに強く、『死』を恐れる」
「......!」
ユーリの表情に変化があった。
その様子を見て、ストリュートは楽しくて仕方がないといった風に笑う。
「くははっ。その様子だと、どうやら真実のようですね。そんなに怖いですか? 現実世界が」
「......」
答えないユーリを見て、ストリュートは満足げに言った。
「くくっ。現実世界だってそこまで怖がるような場所ではないでしょう。あなたが何年前からここにいるのかは知りませんが、少なくとも数年前までは我々が暮らしていた世界です。ご安心ください。私が責任を持って、あなたを再び現実世界へ送り届けましょう」
そう言ってストリュートは再び笑う。
その時、叫び声を上げながら、一人の男がストリュートへ向かって飛んできた。
「うわぁぁぁあああああ!!!!」
「!?」
ストリュートは驚きながらも、瞬間移動でそれをかわす。
「ユーリ司令! 大丈夫ですか?」
「副司令……!!」
突然現れた自分の部下に、ユーリは驚きの色を隠せずにいた。
「いやあ、驚きました。今のスピードは尋常ではありませんでしたよ。我々のパーティーでも速い方に入るくらいです。ただの兵士ではないと思いましたが、なるほど、副司令ですか」
突然の事態にも、戸惑う様子もなくストリュートは言う。
「さて、"副"司令というくらいならば、実力はそこの彼女には及ばないのでしょう? 奇襲ならまだしも、正面から戦って私に勝てるとでも?」
「俺だって、≪創造主≫とはいかないまでも、この世界では上級者なんだ! お前こそ、無傷で帰れるなんて思わない事だな!」
「ほう。ならば、実力で示してもらいましょうか」
ストリュートが、狙いを副司令へと移す。
いまにも戦闘が始まりそうな雰囲気の中、ユーリが副司令に囁く。
「副司令。20秒だけ耐えてください。そうしたら、後はボクがなんとかします」
副司令は少し戸惑いながらも、
「了解です」
と承諾の返事をした。
「いきますよ!」
ストリュートがその言葉と同時に姿を消す。
次の瞬間、副司令の左斜め後ろから、レーザーが飛んできた。
レーザーは、副司令の身体を貫く直前で、突如現れた半透明の壁に遮られる。
「俺の得意技はこの防壁だ。防御だったら、ユーリ総司令にさえ引けを取らない」
その後も四方八方から次々と迫り来るレーザーを、自らの周りに展開する防壁で防いでいく。
その背後で、ユーリは目を瞑り、何かに集中し始める。
数秒後、ユーリの両腕が青白く輝き始めた。
そして、ユーリが手を開くと、そこに魔法陣が現れる。
「≪蒼銀の籠手≫!」
その言葉と同時に、ユーリの腕に纏っていた輝きが一瞬強くなり、銀色の装甲に変わる。
その光に気付いたストリュートは、副司令への攻撃の手を止めた。
「ほう。変身ですか。さすがですね……と言いたい所ですが、その行動は何とも理解し難い。変身は確かに高度な技ですが、それをしたところで戦闘力が上がるわけでもないでしょう。仲間に時間稼ぎをさせてまで、死装束を纏いたかったのですか?」
ストリュートが挑発的な口調で言う。
ユーリはその言葉を受け流しながら、副司令に言った。
「ありがとうございます。後はボク一人で十分です。あなたは下がっていてください」
「えっ……ですが……」
「近くに人がいると、全力が出しづらいんです」
「は、はぁ……」
遠回しに邪魔だと言われた副司令は、困惑しながらもその場を離れる。
再びユーリと対峙したストリュートは、嘲笑を含んだ口調で語りかけた。
「決死の覚悟で助けに来てくれた仲間を追い返すとは。あなたも酷い事をしますね」
「危険なので遠ざけただけです。さて……」
一旦言葉を切ると、鋭い目でストリュートを睨みつける。
「よくも散々虚仮にしてくれましたね。この借り、きっちり返させてもらいます」
「おお怖い。ですが、腕に装飾がついたくらいで何ができると言うんですか?」
その問いかけに答えることもなく、ユーリは右手を横に伸ばす。
「≪蒼光の槍≫!」
青白く輝く、槍の形をした光が現れ、ストリュートへ向かって飛んでいく。
「この程度ですか。確かに威力は高そうですが、当たらなければ意味がありません」
難なくかわすストリュート。
それを予期していたのか、ユーリは動じる様子もなく、横に伸ばしていた手を前に振りかざしながら叫ぶ。
「≪再生成≫!」
次の瞬間、ユーリの周りにたった今放った物と同じ青白い光が次々と現れ、横殴りの雨の様にストリュートに襲い掛かる。
「なっ!?」
突然激しくなった攻撃に驚きながらも、ユーリの後ろに瞬間移動するストリュート。
息をつく暇も与えず、ユーリはさらに追い打ちをかける。
「≪蒼天へ駆ける光≫!」
ユーリを中心にして12本の光の柱が地上から空へと昇っていき、その内の一本がストリュートに直撃する。
「ぐあっ!」
受けた衝撃に耐えながら、ストリュートは右手を前に突き出し叫んだ。
「≪ストライト≫!」
ストリュートの右手から、人の胴ほどの太さの光線が放たれ、それに寄り添うように4本の光線がユーリに向かっていく。
「≪摂理の障壁≫」
ユーリが左手を前にかざしながらそう叫ぶと、薄い光の膜が現れ、ストリュートの攻撃を弾く。
そして、ユーリは左手を引き、右手を前に出す。
「≪蒼光の格子≫!」
ユーリが叫ぶと、幾筋もの細いレーザーがストリュートに襲い掛かった。
「がっ!」
直撃を喰らったストリュートは、地上に落下して土煙を上げた。
「う……」
「散々ボクを虚仮にした割に、あっけないですね」
ユーリが近くに降り立ちながら言う。
「ハハ…… 手加減していたという訳ですか。あなたも意地が悪い」
「いえ、もし副司令が来なければ、貴方を倒す事はできませんでしたよ。貴方は確かに強いです」
「それは何とも光栄な……うぐっ! ハハ……痛すぎて得意の瞬間移動すら上手く想像できませんよ」
そう言うと、ストリュートはリラックスするかの様に息を吐き出す。
「はぁ…… さあ、とどめを刺してください。私は現実へ帰ります」
「……わかりました」
ユーリは静かに目を閉じ、右手を胸に当てると、その手を前に翳す。
「その強さと潔さに敬意を表します。……≪昇華の輝き≫」
ストリュートを中心に魔法陣が現れる。
ユーリが右手を空に振り上げると、ストリュートを光の柱が貫いた。
輝きの中でストリュートの身体は光の粒子となり四散する。
ユーリが手をゆっくりと降ろすと、光の柱は空に消えていった。
「はぁ……」
「総司令ー!」
決着がついたのを見た副司令が駆けてくる。
「副司令…… 今回はお礼を言わないといけませんね。貴方が来てくれなければ事はこんなに上手く運びませんでした」
「いえ、そんな……」
「ん? そういえば、同盟軍の指揮はどうしたんですか?」
「あっ、それは信頼できる人に任せてきたので大丈夫です!」
「そうですか。それではボク達も戻りましょう。状況がどうなっているか、気になります」
一瞬理解できなかった。
この場にいる人々の注目を集める、黒衣の人物が放った言葉。
『セツナという人物を探している』
なんで僕? なんで僕なの!?
いや、もしかしたら同じ名前の別の人かもしれない。
うん、きっとそうだ! この世界でセツナと名乗る人なんてたくさんいるはず!
「ちなみにセツナという名前は本名で、見た目は中学生から高校生くらい。性別は男だ」
僕じゃん! どう考えても僕じゃん!!
今まで静かにしていた人達も、ざわつき始める。
「ねぇ、あれ、セツナくんの事だよね……?」
神奈も困惑した顔でこっちを見てくる。
どうしよう…… 名乗り出たほうがいいのかな?
周りの人達のざわめきも大きくなる。
ええい、こうなったら!
決死の覚悟で名乗り出ようとした時、蒼白い光が辺りを埋め尽くした。
「≪蒼光の奔流≫!」
顔を上げると、さっきまでモニターの向こうで戦っていたユーリ・ミノユイアが、目の前で敵のリーダーに向けて極太の光線を放っていた。
まともな戦闘シーンを書いたのは初めてなので、わかりにくい所などあると思います。
アドバイス等いただけると嬉しいです!
(3/2)後書きと前書きが重複していたのを修正しました。