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flavor   作者: 蒼空
2/2

1.

初投稿という事で、いろいろおかしな点があってもご容赦を。


指摘してもらえれば私自身の向上にも繋がりますので、どうぞ遠慮なくお願いします。

僕、高瀬悠斗と彼、鷹崎順也の出会いは五年前−高校の入寮時に遡る。


何故地元の公立高校ではなく、親元離れたこの高校を選んだのか。今となっては定かではないし、そもそも当時の中学三年生の僕に確固たるなんらかの目的があったのか些か疑問である。


ただあくまでも想像で補完するならば、自分の意志を通す訳でもなく、水の流れのように周りに合わせ続けてきた自分自身に対する少々回りくどい反抗心の顕れのようにも思える。それまでずっと、親や友達にいい子、いい奴に見えるよう振る舞ってきた反動が変な形で顕れたのかもしれない。


ともかく、早春のある晴れた昼下がりに僕と彼は初対面を遂げたのだ。


当たり障りの無い挨拶を交わした後、少し話してみれば彼と僕とはどうやら同じ寮−目の前に建つレトロな外観の建物だ。−に入るらしい。後ろでは互いの親同士でも挨拶しあっている。


親に車を出してくれた事への礼を言った後、僕達二人はとりあえず寮に入ることにした。


玄関ではこの寮の先輩が出迎えてくれた。僕達に寮長だと名乗る彼が握手の手を差し出してきたので、慌ててこちらも名乗りその手を握り返す。


玄関脇の靴箱はネームプレートの入っていない空いてる場所を使うよう言われたので、それに従い適当な場所を陣取った。


「じゃあ部屋に案内するからついておいで。」


寮長に連れられてたどり着いた一室、どうやら僕と彼は相部屋だったらしい。扉横のネームプレートに並ぶ二人の名前を眺め、二人の到着のタイミングの良さに変に感心してしまった。


「二人の送ってきた段ボールは分けて積んであるから、あとは協力して部屋の整頓頑張ってな。」


寮長が去ってから部屋の中をざっと見渡してみると、12畳程の部屋に、間に机を二つ挟んでベッドが二つ。残りのスペースも上手い事利用して、二人分の棚やクローゼットが配置されている。


世間一般の寮の部屋の相場なんてもちろん知らないが、まあこんなものではないだろうか。二人で目を合わせて、それがアイコンタクトになったかのように、それぞれの荷物を整理し始めた。



大体終えた所で午後五時半、夕食まではまだ時間がありそうだ。改めて僕達は自己紹介を交わすことにした。


「じゃあ改めて、僕は高瀬悠斗。出身はここ、T県で隣のI市から来てるんだ。」


「俺は鷹崎順也。この市を挟んで反対側のM市から来てる。よろしくな。」


ここで彼、順也が差し出してきた握手に応じ、ふと嗅ぎ慣れない香りに鼻をひくつかせた。


「もしかして鷹崎君、香水使ってる?」


「あっ、香水の香り苦手なタイプだった?」


「いや、嗅いだ事ないけどいい香りだなって。」


そう言うと心なしか順也の目が輝いたように見えた。


「おっ、サンキューな。このブランド好きでお年玉はたいてこのモデル買ったんだけどさ、そう言ってもらえて嬉しいよ。」


香水の事などほとんど知らないが、彼の挙げたブランド名だけは知っていた。お年玉をはたいたと言うぐらいだから、イメージに違わず高級なのだろう。


新高校生という身の丈ではあるけども、何故か彼には非常に合っているように思えた。


「それにしても本好きなんだな。しかも外国文学っぽいの。」


そういう彼の目線の先には、先程棚に並べた十数冊の文庫本があった。


「うん、外国のミステリー小説とか好きでさ。もちろんマンガとかだって読んでるよ?」


次々とマンガのタイトルを挙げていく僕に、順也は何故か苦笑に似た表情を浮かべた。


「悠斗ってなんか面白いよな。今時礼儀正しいし、大人びてるかと思えばちゃんと歳相応な部分もあるしさ。」


「そ…そう?」


少し釈然としないながらも一応は褒め言葉として受け取っておく。


「……鷹崎君は、見ての通り音楽好きって事なのかな?」


順也の使用している棚にちらっと目を向ければ、50音順に規則正しく配列された−このCDの配置にさえ彼は小一時間程時間を掛けていたぐらいだ。−数十枚のCDが見てとれた。


「呼び方は順也で構わないよ?……そうだな、小遣いの半分以上を音楽関係に使うぐらいには好きかな。」


よく見れば古今東西、様々なジャンルのCDが置いてある様にも見える。もっとも僕の知らないような名前ばかりなので詳しい事は判らない。


「これを見る限り何でも聴いてるみたいだね、僕は聞いた事ない名前ばっかりだけど。」


「まあ、雑食って事なんじゃん?悠斗が本を沢山読むのと同じように、俺は音楽を沢山聴いてる。趣味は違えど情熱の深さは変わらず、ってね。」


少々おどけたように言う順也の姿に、自然と僕は笑いを誘われた。


今までにないタイプの順也との出会いに、この時点から僕はある種の興奮で胸を高鳴らせるのと同時に、彼自身に眩しさのようなものも感じていた。言ってしまえば、周りに合わせて”個”を極力押し殺してきた僕とは正反対な在り方を示してくれた彼への憧憬というべきか。




気付いたら僕は、自発的に手を差し出していた。


「改めてこれからよろしくね、順也。」


「こちらこそよろしくな、悠斗。」


一瞬キョトンとした順也だったけど、すぐに人好きのする笑顔を浮かべて握手に応じてくれた。


これが僕と順也の三年間の始まりとも言える瞬間だった。

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