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六日目~暗闇の目~



空の色は赤と青の混ざる頃、時間で言うなら放課後にあたる午後4時。

校舎の一階、下駄箱の前。


結城は南棟を見た状態で意識を取り戻した。

夢の中では普段倒れていることが多かったのだが、自分の視界は高い。



「ここだと倒れるのには気分が悪いから、だと」



突然かけられた声に振り返ると、一ノ瀬がそこに立っていた。

少し後ろでは状況を把握するためか鳴滝、海部、宮内の三人が話をしている。



「悠斗くん……に、みんないるんだ」

「まぁ、そのあたりの話はあいつらがするっぽいけどな」


一ノ瀬が言い終わると、ちらっと海部が彼女の方を見つめて存在に気づき、

二人に話をしようと促したのか話を中断して二人の方に近づく。



「で、結局どうなってんの?」



以前の会話の後……一ノ瀬と結城は夢を“扱える”であろう以前の首謀者だった三人に上手く夢の操作が出来るかを頼んでいた。

だが、鳴滝の事件の際に宮内と海部の意思が余り反映されていないことから、あまり期待はできなかった。



「視界が悪くなく、互いに記憶に強く残っている夕方。

 障害物が多いから銃で撃たれても回避が可能な下駄箱付近、

 突然襲われるとも限らないからアイツを除く味方全員は最初から合流してる。」



海部は事実だけをつらつらと並べる、

わかっていることではあると思いながらも前提の条件は示しておきたいのだった




「でも……塚本の居場所がわからないのと、獣の使役だけは……なんとも……」

「要するに、いつも通りってこと?」

「まぁ、そういうことですね~」



結城が一言でまとめると宮内が頷く、それを見てから海部はグラウンドの方を向いて自分の手元にあるものを、

久しく見ていなかった斧を見つめる。


(……あの日以来、私だけがこの夢を見ていない。

単に騙しやすいから後回しにしたのか、それとも蚊帳の外にして弱らせるつもりなのか……)



自分でよくわかっている、頭に血が上りやすいことも、単純な言葉一つで騙されることも。

というよりも、ここの人間同士なら騙されるだろう、海部の思うとおりの関係なら。



(まぁ、推理なんてどうでもいい、今はとにかくアイツをとっ捕まえて話を聞く、それだけ考えていれば良い)



考えを払うように刃を持ち上げて、振り下ろす。

久しぶりの感覚だが彼女の手は違和感を感じない、夢の特性なのだろうと思いながらもそれが逆に妙に思えた。



視線をグラウンドに戻す、本来ここは夕日が直接差し込んで眩しいのだが雲がそれを隠しており、視界は遠くまで見える。

途中に見える購買部の建物、その前と校舎の前を四足で走る獣のような何かが横切る。


海部は武器を構えて数歩前に出る、その様子に気がついた結城が彼女に声をかける。



「どうしたの、海部さん」

「いや、何かが購買のところから出てきたんだが……」



前方を向いたまま影の出てきた方を見つめる、結城もそれが気になって剣を抜きながら彼女の前に出た、瞬間。

鮮血が辺りを染め、結城は左手で顔を抑えてその場に蹲った。


「結城!」



海部が駆け寄って彼女の様子を見ると、左手からは血が溢れていた。



「大丈夫か?動けるか?」

「大丈夫だけど……目が完全に……」


左手で目を押さえたまま心配そうな相手に普段どおりの口調で伝える。

他の部員も二人に駆け寄り様子を見る。




「結城……」

「そんなに心配しないでって……痛いのは痛いけど……」


一ノ瀬は身体を守るように手甲を構えながら前方の様子を伺っていた。

人も影の姿も無い、あるのは普段どおりの学校の風景だけだ。



「……誰も居ねぇ、というよりかこっからは見えねぇ、物陰に隠れながら撃ったんだろ」

「とりあえず隠れろ!」


海部が全員に叫んで下駄箱の陰に進むように促す。

一ノ瀬だけがギリギリまで様子を見ながら、影に入る。



「そういえば、海部さんさっき何か見えたって言ってたよね?」

「あぁ……でも私が見た影の大きさは明らかに背丈が四速歩行の獣だった、人が両手をつけば同じくらいだろうが」

「それはないって……普通に考えれば獣に陽動させたんだろうけど」



結城に尋ねられて、下駄箱にもたれた海部は考えたそのままを相手に伝える。

最後の言葉に宮内は左右に首を振る。



「でも、どうしよう、怪我してるし、塚本は何処にいるかわからないし……」

「もういっそグラウンドに向かってみるっていうのは?」

「オレはそれでもいいと思うけどよ……そうだ、ちょっと剣構えろ」



鳴滝が途方にくれたように俯いたが、そうするよりも動きたい結城は咄嗟に思いついた言葉を出す。

その言葉に一ノ瀬は考えながら何かを思いついたのか結城に指示をした。

突然の申し出に戸惑うように結城は剣の刃を上に向けると、

彼は鉄甲を取り、自身の服から腕を半分だけ抜いて中から袖を持ち、それを切る。



「え、ちょっと!」

「これでも結び付けてろ、見苦しくて仕方ねぇ」



乱暴な口調で布を渡すと、相手を見ないまま鉄甲を嵌める。

結城は渋るものの好意を無駄にするのもなんだと思いそのまま左目に布を当てて後ろで結ぶ



「でも、いいのかな?突然攻撃されたりするかもしれないし……」

「まぁ、狙われたら狙われたで手がかりにはなるし、私は乗ってみていいかも

 相手が相手なんだし、誰も無傷で見つけるなんてのは不可能なんじゃない?」



未だに迷う鳴滝だが宮内が頷くと、槍をぐっと握り締めそこで言葉を止める。



「まぁ、待っててもアッチが痺れを切らす気も……」



海部は沈黙になると気まずくてかなわない、と思いながら口を開く途中、背後で鉄の鳴り響く音。



「噂をすれば……ってやつか」

「なんにせよ不利なのは最初から変わらないし……」



海部がため息を吐きながら、結城も剣を抜き、二人は下駄箱の影から出る準備をする。

鳴滝も戸惑いながらもその後ろで刃を上に向けた。


その間も、鉄のガンガンという音は鳴り響いている。



「あ、お前、無理すんなよ?」

「できたらね」


一ノ瀬が声をかけるのを結城は笑いながら返す。



「次にコレが鳴り終わったら出るぞ、連射できても流石にそれくらいの(あいだ)はあるだろ」



前向きな言葉に、全員は頷く。彼の言葉には人を前に進ませる何かがあった。

それにこの部員達は少なからず助けられてきたのは事実だった。



ガンッ!と強い音の後に一瞬の静寂。

それを合図に一ノ瀬と結城が即座に立ち上がってグラウンド側に走り出す。



下駄箱の向こう側の景色を見る、そこに居ると思っていた塚本は居ない。

彼らを狙ってのことか、それとも囮なのか、数匹の狼が彼らを待ち構えていた。


「うぜぇ!」


一ノ瀬はそれだけ言いながら、既に向かってきていた一匹を地面に叩きつけて、結城に叫ぶ。



「お前は塚本を探せ!んの方が早いだろ!」

「もう探してる!」



一瞬だけ後ろを振り向く、彼の後ろで宮内たちも背後から襲いかかっていた獣と戦っている。

大丈夫であってほしいと思いながら、剣を自身の体の前に構えて回りの建物に視線を走らせる。



本棟の二階、購買の上、階段、そしてグラウンドに視線が戻ったのと同時に

右手の銃をこちらに向けた塚本と目が合った。



光を宿していない目に戸惑いを感じる、感情を感じないその闇は感じたことの無い感覚を呼び起こす。



(目……死んでる?感情が読めない……なんか怖いっていうか……何これ……)



剣の向こう、ゆっくりと近づいてくる相手をただ違和感と共に迎える。



「ねぇ、驚いた?こんなことになって」

「まぁ、色々と困惑はしてるけどね、アンタまでこんな真似するなんて思わなかったから」



笑顔を浮かべながらも、そこに余裕はない。

その銃弾が後ろで戦う人間に向かう可能性はゼロではない。



「それと、隠れんぼはもうお終いだとありがたいんだけど」

「うん、最初は真っ向勝負でもいいかなと思ったんだけど……戦力的に不利だから体力だけでも削れたらな~って」

「どこが不利よ?」



冗談めいた口調で二人は続けるが、間に流れる緊張はいつ戦闘になろうとおかしくは無い。


「にしても、さっきはやられたわ、突然すぎて一瞬痛みすらなかったし」

「ありがとう、そう言ってくれるとここまでやって良かったって思えるよ」



結城は先ほど一ノ瀬に貰った布地を軽く触りながら言うが塚本の言葉の雰囲気は変わらない。

何処までも、普段の口調で続ける相手に調子が狂いそうだった。

にじみ出る異変とのそのギャップが、彼女の心に違和感として届く。



「……それにしても、何でアンタはこんなことしでかしたわけ?

 前の海部さんみたいに、『話してもわかるわけ無い』なんて理由なわけ?」

「違う、海部さんは話し合いを放棄した、私は話し合いよりも確実な方法を選んだの

 わかりあうために、必要な手段だって、そう思った」

「わかりあうため……ね」



首を左右に振りながらはっきりとした物言いに迷いは感じられない、自分の意思でそう願ったのは確実だと思うほどに。

いや、それとも、そこまで作られた幻なのではないか、そう思いたい結城の心はまだ潰えない。



後ろから足音が聞こえる、彼らの戦いは一旦終わったのだろう。

確認するまでもない、と思っていると一ノ瀬が結城の左側に立って言う。


「……塚本」

「悠斗くん、京くんこれで前の続きが出来るね?」



楽しそうに笑いながら塚本は両手を上げて銃口を向ける。



「ねぇ、どうしてこんなことになったの?僕らは力になれないの?」

「力になれる?って……そればっかり」



彼の少し後ろから声を張った鳴滝の言葉に塚本の目つきが変わる。



「コレが終わったらそんなこともいえなくなるとは思うけど、ね」

「そっちの態度も、何処までいけるかわからないけど?」

「……」



宮内は結城のもう反対側で笑みを浮かべながら左手で下にした刃を持ち上げた、

海部もその後ろで相手をじっと見ちめながら言葉を黙って聞きながら斧の刃を上げる。



「それじゃあ、見せてあげる、私の力……」



塚本は笑みを浮かべて銃口を上げると同時に辺り一体に小さな黒い影が舞い始めた。




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