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私達が暴れ出してから十五分くらい経つ頃には、その場に立っている盗賊は二人くらいに減っていた。
「く、くっそぉーっ!」
息を切らした盗賊の一人が、手にしていた剣を大きく振りかぶって襲い掛かって来る。
それをヒョイとかわし、剣を掴んでいる右手だけを蹴り付けて剣を蹴り飛ばすと、それを零がすかさず遠くへと蹴り飛ばした。
丸腰になった男の間合いに素早く入り込み、肘を腹の中心に叩き込む。
衝撃で息を吐き出し、腹に手を当て前屈みになった相手の膝裏に蹴りを入れて転がすと、右拳を相手の鳩尾にめり込ませる。呆気なく落ちた。
最後に残った盗賊は、自分達より弱そうな子供に仲間達がバッタバタと倒されて行くさまを見せられ、呆然としている。
そんな盗賊の背後から、零が思い切り右足を振り上げ――股間を攻撃された盗賊は悶絶しながら地面にのたうち回っている。
意外とえげつない攻撃が平気で出来るのが、零である。
全ての盗賊が地面に倒れている頃には、漸くトーニャ達も追い付いた。
トーニャが手綱を引いて馬を止めて御者台から降りると、荷台にいたロズウェルドは顔を真っ青にさせながらも、何とか荷台から降りようとしているが……フラフラし過ぎていて降りると言うより落ちそうだ。
ミシェルはまだ寝ているようである。
トーニャは辺りを見回した後に、縛られている人達の縄を解きながら私達を見て口を開く。
「一見弱そうに見える割に、そこそこ戦えるようだな」
「まぁ、小さな頃から格闘技をして過ごしていたしね。このくらいなら、余裕だ――」
余裕だよ、と言おうとしたんだけど、トーニャの後ろからユラ~リと出て来た人物を見て口を噤んでしまった。
「何が余裕なのかな……トオル?」
男にしては少し高い声で、に~っこりと微笑みながら額に青筋を何本も浮かばせた美人さんが見える。
私はそんなロズウェルドを見てヘラリと笑って、片手を上げる。
「……あ、ロズウェルドさん。もうお加減はよろしくて?」
引き攣り笑いでそう言ってみたんだけど、額の青筋がまた2本増えた。なぜだ。
美人が怒ると怖いと巷でよく耳にするが、それは本当だった。
微笑まれているのに、薄ら寒く感じる。
それに、目が笑ってない!
側から離れてはいけないという事を速攻で破り、なお且つ、止めに入ったロズウェルドを無視した事に、かなぁ~りご立腹のようだ。
私はその場をなんとか笑って誤魔化そうと試みてみたが、そうはいかなかった。
たらたらと冷や汗を流す私に、ロズウェルドはニッコリ笑ってこう言った。
「もう二度と勝手な真似はしないと反省するまで、許しません」
女性のように細くてしなやかな手を、私の頭と何故かヴィンスさんから貰った腕輪に当てる。
そして――。
「汝の魔力を封じる事を、ロズウェルド・オルデイロの名によって命じる」
ロズウェルドがそう言うと、私の体は淡い黄緑色の光に包み込まれる。
眩しい光に目を閉じた一瞬の間に、目を開けると何故か見える光景が地面に近い。
「え?」
呆然としていると、腕を組んで怒っていますといった顔をするロズウェルドにこう言われた。。
「今日明日は、このままの姿で過ごせ」
私はロズウェルドの言葉に愕然とした。
明日までこの姿?
「ひ、酷いよ! こんな姿じゃ仕事が出来ない!!」
チビになった私はロズウェルドの足に縋り付いて、今まで馬車酔いで死にそうになっていた顔を睨みつける。
それに、今魔力を封じるって言ってなかった? チビになって、更に魔力まで封じられちゃったら……私ってお荷物でしか無いじゃん!!
元に戻せー! とロズウェルドをポカポカ殴る。
しかし悲しいかな。虚弱体質で軟弱者のロズウェルドは、その見た目に反して背が高かった。
ちびな私が腕を振りあげてポカポカ殴り付けるも、彼の太股辺りしか殴れなかった。
それに、今の私の攻撃など、さほど威力も無いだろう。
ロズウェルドは私の両脇に手を差し込み、自分の顔の高さにまで私を一気に持ち上げる。
「うひゃぁ!?」
急な事に驚く。
持ち上げられた状態のままなので、プランプランと足が揺れていた。
何とも心許無い状態である。
「これは、トオルが俺の言葉を無視した事によるお仕置き。だから、全然酷くもなんともない」
「うぅぅ……それは悪かったよ、謝る。でも、魔力を封じる事は無いじゃん」
「トオルは魔力があると、直ぐに転移魔法を使いそうだからな」
逃げないようにする為の保険だ、とも言われてしまった。
ガクリと項垂れながら、私はもう一度だけ謝った。確かに、約束破ったの私だし。
それより、今は「お仕置き」なるものが流行っているのだろうか?
ロズウェルドにしろ、デュレインさんにしろ、よくよく「お仕置き」と言う言葉を使いたがる。
この年になってお仕置きって……ちょっとショックなんだけど。
「そう言えばさ、ロズウェルドって他人の魔力を封じる事とか出来たんだ?」
ふと、疑問に思った事を聞いてみる。
ロズウェルドは私を地面に降ろすと、私の左腕を持ちあげて、腕輪に触れた。
「トオルが腕に嵌めている、この腕輪を使って魔力を封じただけ。この腕輪の中心部分には、オルクード家の家紋が施されている。分かるか?」
腕輪の中心に指を指されて、そこをよくよく見ると。
「薔薇?」
腕輪の中心に、交差した二輪の薔薇が彫られている。
『オルクード家』と言えば、他人の魔力を抑えたり封じたり増量させたりなど出来る特殊な家で、彼の家が作りだした『封環』を使えば、オルクード家の者でなくても相手の魔力を封じる事が出来るみたいだ。
それでも、オルクード家に認められた者しかそれを使う事は出来ないらしいけど。
「ふぅ~ん。……あれ? じゃあ、ロズウェルドはヴィンスさんと知り合いなの? だからこの腕輪を使って魔力を封じる事が出来たとか?」
「俺とヴィンスは友人でもある。まぁ、友人だから使えたと言う訳でもない」
「じゃあ、何で?」
「そりゃあ、俺が――あっ」
「俺が?」
急に言葉を切って、焦った表情をするロズウェルドに首を傾げながら続きを待っていると――。
「あ、あのぉ~……」
とっても弱々しい声で話し掛けられた。
誰だろうと後ろを振り向いてみると。
そこには、ミノムシから人間に戻ったピンク色の髪を持った少年が立っていた。




