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キミに逢えたら  作者: ちびすけ
出会い
5/51

4

「暑い。疲れた。帰りたい」


 只今わたくし、森の中を彷徨っています。




 見渡す限り、木。木。木。

 たまに毒々しい色をした巨大な花が咲いているのが見える。

 日本にあんな巨大な植物がいたら、絶対ニュースで騒がれる事間違い無し。

 少し先で咲いている巨大植物を眺めながら、私はゆるゆると首を振って溜息をついた。

 分かっている。ここが日本……いや、地球じゃないって事ぐらい。

「あぁ……家に帰りたい」

 あの時地面に描かれた紋様をはっきり見たわけじゃないけど、きっと、魔法陣の様なものだと思う。学生の頃、よく友達に貸してもらっていた漫画の中に、あんなのが描かれていたのを覚えてる。

 そして、目が覚めたら巨大な木の根元で、1人で寝ていた状態だった。零の姿も見当たらない。

 周りの景色を見た時、ふと、ある言葉が頭の中に浮かんだ。



 異世界トリップ───。



「あ、ありえない!! 異世界トリップなんて、女子高校生がなるもんでしょうがぁー!」

 それが、こちらの世界に来てからの、第一声の言葉である。

 でも待てよ? と、私は歩きながら考える。

 物語や小説、漫画なんかじゃ、主人公は何かしらの役割があったりする。

 又は、どっかの国の王族やら巫女だったり。

 私は頭のなかでこう考えた。



 主人公が異世界に召喚される→ 何故か危険な状態になっている→ そこへ颯爽と王子様達が現れて主人公を助ける→ 主人公が異世界の王子様や騎士なんかと恋愛したりする→ そして幾多の困難な状況を乗り越え最後はハッピーエンド。



 そんな事を考えながら、あの時零は“呼ばれている”と言っていたから。もしかしたら、「実は零ってお姫様だったりして?」と呟いてみて、あり得ない話ではないと思えてしまうのが彼女である。

 零って女の私から見ても可愛いし、本当はこっちの世界のお姫様だった───っていうオチでも頷ける。



 でも、私の場合は違う。えぇ、もうハッキリ違うと言い切れる。



 何故なら、私は巻き込まれたからだ。

「何でこんな事に…………明日の新聞記事に、『瑞輝透、瑞輝零。共に24歳女性。失踪した友人を探すために山の中に入り、現在行方不明』って書かれてたりして。ハハッ」

 余りの有り得なさに、乾いた笑いしか出て来ない。

 しかし、それを想像すると元の世界に帰りたくないかも。

「いやいやいやっ! 私は一刻も早く元の世界に帰らないといけないのよ! まだ会社でやり残している事が一杯あんだからぁっ!」

 周りには誰もいないが、拳を握りしめながら熱く語る。

 女子高生の時にこんな状況に陥っていたら、さすがにパニックになっていただろうし、親の元に帰りたいと泣き叫んでいたかもしれない。

 そして、もしもそんな状態の私に優しく接してくれる男性(男と限定)が現れたとする。

 元の世界に帰る方法をその人と探しながら、私はきっとその人を好きになって、親も元の世界も捨てて、その人とずっとこの世界で生きていきたいと思うかもしれない。



 ……まぁ、10代だったらそんな話の展開でもいいだろう。



 だけど、この歳にもなったらそんな事は言ってられないし。

 だって、私は働いていて、明日から又仕事があるのだから

 そう、私は社会人で、今では責任のある仕事を任されている立場にいるんだから。

 不可抗力だとはいえ、こんな所で油を売っている場合なんかじゃないのである。

「あともう少しで退社するから、引き継ぎやら後輩に教える事やらがいっぱい残ってるのに。しかも、明日は重要な仕事が入って……はぁ~っ。今はこんな事考えるのはやめよう。どうにもなんないし」

 明日、同僚やお局様が、私が行方不明になったって知ったら……うぅぅっ。なんて言われるんだろう。

 これでも無遅刻無欠勤でまじめな人として通っていたのに。

 絶対に帰ってやる。そして、帰ったら会社の皆さんに、ご迷惑をおかけしましたと謝らねば……。

 零のせいじゃない。零のせいじゃないのは分かっているんだよ、うん。

 でも……恨むぞ、零。





「誰もいないな」

 1時間程歩いているが、人はおろか動物も見当たらない。ちょっと心細くなってきた。

 もしや、無人島に着いたとか?

 ある意味それは嫌だ。帰れる可能性も無くなってしまうではないか!!

 どこまで行けば人に会えるのかは分からない。

 でも、このままジッとしててもしょうがないので、私は当てもなく歩き続けていた。

「それにしても、ここって今の季節は夏なのかな?」

 徐々に気温が高くなってきたのか、汗が首から胸の谷間を伝っていく感覚が気持ち悪い。

(あ、私これでも胸はそこそこあるんですよ? 着痩せをするだけでっ!!)

 ジャンパーを脱いで腰に巻き、長袖を肘の上までまくる。

「暑いーっ。喉渇いたぁーっ。シャワーに入りたぁー……って、な、なにこれっ!?」

 団扇代わりに扇いでいた左手を何気なく見たら、手の甲から手首の10cm上辺りまで、赤紫色の変な痣が出来ていた。

 こっちに来た時に何処かにぶつけたとか??

「……でもよく見たら、元々あった痣が濃くなって広がったような?」

 私は生まれた時から手の甲に小さな痣があった。

 痣と言っても、色も薄いし小さから、回りの皆からは、よく空手の練習で出来た傷跡だと思われていた。

 それが今では、元々あった痣を中心に範囲が広がっているのだ。プラス、色の濃さ付きで。

 ジーッと腕を観察する。腫れてはいないし、触ってみても痛くない。という事は、打撲跡でもないらしい。

「どーなってんの?」

 摩訶不思議な現象が自分の体に起こってしまい、呆然としながら自分の腕を見ていた。

 だけど、

「……………………ま、いっか」

 もうアレコレ考えるのは止める事にした。

 異世界に来た事によって起きた体の反応かもしれない。だとしたら、ただの痣が変わったとしても、不思議ではないと思う事にしたのだ。

 しかしこの“痣”。私は『異世界だから』という理由で軽く片付けてしまったが、本当はとてつもない秘密が隠されていた。

 その秘密を知る事になるのは、まだ少し先の話である。






「何だろう? 何かの音が聞こえる」

 更に歩き続ける事30分。

 流石にヘバリ気味になって来た足を根性で動かしていたら、不意にドドドドドッ……っていうような音が遠くの方から聞こえてきた。

 この音って、もしかして滝の音? っていう事は……。

「水があるっ!!!」

 音のする方を目指して走り出した。

 喉の渇きが限界になっていた。体の汗も流したい。ベタベタして気持ちが悪いのだ。

「みずぅ~♪ みずぅ~♪ お水が私をまっているぅ~♪♪」

 即席で作った歌を口ずさみながら、少し背の高い茂みを掻きわけつつ先を進む。

 200Mくらい進んだら、太陽の光が水に反射して、キラキラと光っているのが茂みの間から見えた。

 音もかなり近くなって来たし後もう少しだ。

 苦戦しながらも何とか進み、茂みの中から1歩出ると───。

「うっわぁ~」

 目の前に、巨大な虹がかかっていた。

 滝からでる水しぶきに、太陽の光が反射しているからだろう。

 凄く幻想的な光景だった。

「こんなの初めて見た……あ、写メでも撮っておこうか…………ん?」

 携帯の写メでこの景色を撮っておこうと思って、ショルダーバックの中にしまっている携帯を取り出そうとした時、すぐ隣りから何かが落ちる様な音が聞こえて動きを止める。

 なんだろう?

 不思議に思って首を右に動かしてみたら、すぐ隣りに人が立っていた。

「うお゛っ!」

 驚いて1歩後退る。

 景色に見とれ過ぎて、全く気付かなかった。

 ドキドキしている心臓を落ち着かせるために、1度深呼吸をする。

 もう1度顔を向けると、そこにはまだ14~5歳くらいの可愛い女の子がいた。

 透き通るかのような白い肌。見開く瞳は綺麗なエメラルドブルー。水浴びをしていたのか、腰まである金髪は濡れている。

 髪の毛を拭いている途中だったのだろうか? 髪の毛に手を当てたまま固まっていた。

 よく見ると、足元にはタオルが落ちているし。

 さっきの音は、このタオルが落ちた音だったのかな?

 いまだに固まっている少女の足元にあるタオルを取ってあげようと、1歩前に出たとたん───。



『×××ー!!』



 少女が絶叫した。

 いや、ね? キャーって叫ぶ気持ちはわかるよ?

 だけど声が以上にデカくて耳が痛い。

「な、なんだって言うのよ」

 少し涙目になりながら少女を見ると、少女は体を丸めて蹲っていた。

「え……ちょっと、具合が悪いの!?」

 心配になって声を掛けると、少女の肩がビクッと震えた。

 ……なんで??

 彼女と同じ目線になるようにしゃがむ。

 そうしたら、何を喋っているのか分からないが、時々首を振りながら小さい声で何かを話している。



 もしや───。



 白い肌を真赤に染め、潤んだ瞳でこちらを見つめる少女を茫然と見ていた私は、ふと、ある考えが頭によぎる。



 もしやこれは───。



 手を伸ばすと、少女はヒッ!! と悲鳴を上げた。

 ハハハハハと乾いた声が出た。

「……髪、切るんじゃなかった」

 少女がどうして怯えているのか分かった私は、溜息を吐いてから少女の右手を掴む。

 驚いた少女がもう1度叫び声を上げる前に、その手を素早く自分の胸に当てる。



 ……むにぃっ。



 胸を触らせたら、少女の大きな瞳が更に大きくなった。

 私の事を男と思っていたのだろう。多分っていうか、絶対。

 よくよく見ると、少女は体の線が透けて見える様な物しか身に着けていない。

 そりゃあ、そんな姿を男に見られたと思ったら、悲鳴ぐらい上げるわね。

 直ぐにピンときたが、誤解を解きたくても言葉が通じないので、私は已むを得ず自分の胸を少女に触らせる事によって、私が『女』である事を教えたのだ。

 こんな事になるなら、最近まで伸ばしていた髪を切るんじゃなかったと後悔した。

 だって、もう少ししたら実家の道場で師範代として働く事になっていたから、長いと邪魔になる髪を先週切ったばかりだったのだ。

 ついでに、馨とダブらないように明るいブラウン系の色に髪を染めていた。



 

 まぁ、まずはともあれ、これで少女の誤解は解けただろう。

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