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キミに逢えたら  作者: ちびすけ
出会い
4/51

3

 し、死ぬ……。



 創が運転する車からよろめきながら降りた私は、ジェットコースターを連続10回以上乗った直後の顔をしていると思う。

 隣りにいる零をチラッとみたら、顔色が青を通り越して蒼白なっていた。

「んじゃ、車を置いたら、俺らも直ぐに行くから」

 私達をこんな状態にした男が、爽やかな顔をしてそう言った。

 いつも優しい笑顔を絶さない、爽やか系な優男として女性から人気があるこの男───創は、実は車に乗るとスピード狂に早変わりする。

 その事を忘れていたわけじゃない。……えぇ、決して。



 だけど、だけどっ! 車を持っているのは創だけなのよ!



「……分かった。先に下に降りてるね」

 胃から込み上げて来る物を何とか飲み込みつつそう頷くと、創はアクセル全開で走り去って行った。

 一瞬、シートベルトを握り締め、涙ぐみながら顔を引き攣らせた馨と目が合った。

 その目が「酷いっ!!」と訴えているようだったが、見て見ぬ振りをした。



 すまん、弟よ。姉ちゃん、もう一時もあの車には乗っていたく無いの。



 三半規管が限界に達した私達は、創に「降りたい!」と言って先に降ろしてもらった。

 車が置けるスペースまで運転する創が、この場所にまで無事たどりつけるように、一緒に馨がついて行く事になった。

 創は極度の方向音痴の為、こんな山の中で誰かが一緒に行動しないと、創が次の行方不明者となってしまうのだ。



 健闘を祈る。弟よ!



「今回も、なかなかキツイ……ドライブだったわ」

 心の中で弟に熱いエールを送っていたら、先程よりは幾分回復した零が遠くを見つめて呟いた。

「大丈夫?」

「うふふっ、普段の運転でだいぶ慣れたと思っていたけど……甘かったわ」

「………………」

「透ちゃん、私ね? 常々思っていた事があるの」

「な、何?」

 あらぬ方向を見ていた零がギロリとこっちを見た。



「日本の警察はなんであんな奴を野放しにしてんのよぉー!! って言うか、何で免許がとれたんだぁー!!!」



 確かに、あんなデタラメなハンドルさばきとスピードに、1度は捕まった事があると思っていた私達であったが、奴の免許証はゴールドである。

 まだ1度も警察のお世話になっていないらしい。

 それはそうと、目がイッてますぜ、お姉さん。

「お、落ち着いて、零」

「……帰りも創の運転で帰るんだよ? 透ちゃんは落ち着いてなんていられるの?」

「………………」

 うん。その事忘れてた。

 私は遠い目をしながらポリポリと頭を掻いた。

「……ま、まぁ、今はそんな事より、陽子の事よ! 今日は何か進展があるかもしれないし、さっ! 下に行こう!!」

 痛い視線が背中に当たるのを感じつつ、私は少し強引に零の腕を引きながら、細い道を降りて行った。



 だって、これ以上創の運転を想像してたら、それだけで酔いそうなんだもん。






「今回は、ちょっと奥まで行ってみようかな」

 車道から外れて山の中に入ると、私はショルダーバックの中から山に入るために必要な7つ道具の内の1つ、鈴を取り出した。

 鈴の1つを零に渡す。熊避けの為である。

「そうだね。まだあっち側には行った事無いよね?」

「あの辺りは危なさそうだから、馨達が来たら行ってみよう?」

 落ちていた木の枝を拾い、足元の草を分けながら、陽子の私物品が落ちていないか注意深く目を凝らす。

 所々に、バスの一部であったであろう塗装のついた鉄板や、砕けたガラスが落ちていた。

 携帯か生徒手帳、もしかしたら制服のボタン1つでも落ちていないかと思いながら、6年以上も探してきた。

 しかし、人が滅多に入らない山の中とはいえ、雨風にさらされていたのだ。もしかしたら、流されているのかもしれない。

「やっぱり、もっと奥に行かないと見つからないかな……って、どうしたの? 零?」

 さっきから随分静かだ。

 不思議に思って顔を上げると、彼女は山の奥をジッと見詰めていた。

「零?」

 声を掛けても反応は無い。

「……が、……ん……でる……の」

「え? なんだって??」

「呼んで……る」

「はぁ? あ!? ちょっ、零!」

 よく聞こえなくてもう1度聞こうとしたら、突然叫んで走り出してしまった。



 な、なんだぁ!? 幽霊にでも取り憑かれたか?



 しばしポカーンとしてしまったが、どんどん山奥へと走って行く零の後ろ姿を見て、私は舌打ちをした。

「ヤバイな。あっちはまだ行った事が無いのに。……あーもぅ! しょうがないなぁ」

 私は山に入るために必要な7つ道具の内の1つ、リボンを数個バックの中から取ると、近くの枝に結び付けてから走り出した。

 自分が通った目印になる。それに、リボンを見た馨達が後を追えるようにしたのだ。





「れーいっ! ねぇ、零ってば!! 聞こえないの!?」

 走りながら呼び掛けるも、前を見たまま振り向きもしない零に、もう1度舌打ちしたくなった。

 リボンの残り数があと2つしかないし、そろそろ息も切れて来た。

 はぁー。面倒臭がらずに、毎日ランニングしとけばよかった。

 脇腹がねじれる様に痛い。

 うぅっ、体がかなり鈍ってるわ。

 走りながら自己嫌悪に陥りそうになったが、頭を降って切り替えると、リボンをバックにねじり込んで更にダッシュした。

「待てって言ってんでしょーっ!!!」

 風の様な速さ(誇張表現です)で走り抜け、うぉりゃぁ~っ! と言う掛け声と共に零の二の腕を掴んだ。

 しかし、人間急には止まれない。

 勢い余って、2人して地面に倒れ込んでしまった。

「あいったたた。……零、大丈夫だっ……た……?」

 擦りむいた右手を押さえながら後ろ向いたら───零は座り込んだまま、まだブツブツ何か言っていた。

「ね、ねぇ、零。悪い冗談は止めてよ。誰も零を呼んでなんかいないよ?」

「聞こえるの、私を呼ぶ声が」

「もう! いい加減帰るよっ!!」

 焦れた私が零の腕を掴んで引き起こそうとしたら、零が不思議な言葉を呟いた。



『××××』



 次の瞬間、私達の回りを中心に、魔法陣の様な不思議な光る紋様が浮かび上がった。

「なっ!?」

 あまりの出来事に、私は零の腕を掴んでいた手を離してしまう。

 それを狙っていたかの様に、魔法陣の光が強まる。

「うわっ!? 眩しい!」

 この時私は頭の中で、死ぬのかな? とか、これからどうなってしまうんだろう? などと一般的な考えをしているわけでは無く、なんでこんな時ぐらい、「きゃっ。眩しい!」って可愛らしく言えないのかしら、と、何故かそんな事を思っていた。

 でも、

「れ、れ……い!」

 もう1度零を掴もうとするが、更に光り出した魔法陣がそれを阻む。

「……っ!!」

 目も開けられないぐらいの眩しい光に腕で目を覆うと、ドンッ! と体に何かがぶつかった様な感覚がして───気付いた時には、私は光る紋様の中に完全に包まれた。

 



 意識を失う直前、零に呼ばれたような気がした。

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