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キミに逢えたら  作者: ちびすけ
ギルド
37/51

4

 それから、零とジークさんの三人で少しの間休憩していたんだけど、今まで数人の騎士の方達と何やら話しあっていたリュシーさんが仕事が入って王城に行かなければならなくなった為に、その日の訓練はそのまま終了となった。

 リュシーさんは近くにいたジークさんに私達を家まで送るように言い付けると、騎士の方達と一緒に王城へ行ってしまう。

 リュシーさんに頼まれたジークさんは、嫌な顔一つせずに荷物を持って、私達を家にまで送ってくれたのであった。

 家に着いて馬から降りると、ジークさんは私達に荷物を手渡し、私達が乗っていた二頭の馬を馬小屋に置きに行ってくれる。

 蹄の音を聞き付けたらしいフィードが玄関から顔を出し、私達の早い帰りに首を傾げる。

「いつもより、帰って来るのが早いね」

「リュシーさんに仕事が入っちゃって、今日は早く終わったの」

「ふぅーん」

 零がフィードに説明していると、ジークさんが戻って来た。

「それじゃあ、俺は帰るよ。もしかしたら俺もリュシーの所に呼ばれるかもしれないから」

「ジークさん、今日は色々とありがとうございました」

「ジークさん、ありがとー」

「あぁ、それじゃあな」

 ジークさんはあぶみに片足を掛けて馬に乗ると、私達に片手を振りながら颯爽と駆けて行った。



 むぅーん。様になりますなぁ~。



 駆けて行く後ろ姿を眺めていると、フィードが大きな袋に興味を示す。

「これは、ジークさんに作ってもらった服だよ」

「あぁ、伸び縮み自由な服ね。漸く出来たんだ」

「そ!」

「ねぇー透ちゃん。早速着てみようよ!」

「そうだね」

 零に頷きながら家に入ろうとして、違和感に気付く。



 何かが足りない。



 はて? と思いつつ、周りを見回してある事に気づく。

「ねえ、デュレインさんは?」

 いつもなら私達が帰って来ると、いち早く迎えに来る人が家から出て来ないのだ。

「あぁ、デュレインなら用事があるからって出掛けてるよ」

「そうなんだ。……どこに行くとか言ってた?」

「いや、そこまでは聞いてない。ただ、帰りが少し遅くなるかもしれないとは言ってたけど」

「ふ~ん」

 私は分かったと頷き、新しい服に着替える為に今度こそ家の中へと入って行った。





 シャワーを浴びて、訓練後にかいた汗を流してからジークさんに作ってもらった真新しい服に着替えてみる。

 黒い長袖の上に白の半袖Tシャツを重ね着して、黒いストレートパンツに革製の黒のブーツを履く。

 更に、黒のジップアップジャケットという黒を基調とした服装だった。

 着替えてから居間に戻ると、新しい服を着た私を見た零が、開口一番「カッコイイ! 似合う!」と褒めてくれる。

「ありがと。……それにしても、零は随分可愛らしい姿になってるね」

「ん?そう?」

 目をパチクリさせながら自分の姿を見る零の服装は、白いハイネックの服に黒のノースリーブパーカー(帽子の部分には、何故か猫耳が)で、膝上までの黒のハーフパンツに私と同じ革製の黒のブーツを履いている。

 おまけに、毛糸のボンボンが付いた可愛い黒のヒップバック、という黒を基調とした服装であった。

 しかし、私のボーイッシュな服装とは違い、どこか可愛い『子供服』を着ているように思うのは私の気のせいなんだろうか?

 お互い服の感想を言い合っていると、そんな私達を見ていたフィードが口を開いた。

「……それで? レイとトールは、新しい服を着たはいいけど、これからどうするの」

「え? 別に何も決めてないし、予定も入ってないよ」

「それじゃあ、これからの時間、僕が召喚魔法や獣人について色々と教えてあげようか?」

「え、教えてくれるの?」

「うん、いいよ。それに、レイ達がこの世界に召喚されてしまった原因……知りたいでしょ?」

「それは知りたい」

「私も知りたい」

 私と零は頷いた。

「じゃあ……ちょっと散らかってるけど、これから僕の部屋で勉強しようか」

「分かった」

「あ、私自分のノートを持って行くから、ちょっと待ってて」

「それじゃあ、僕は先に部屋に行ってるよ」

 急遽、これからの時間はフィードから色々と教えてもらう事になった。






「ねぇ、零。ちょっと相談があるんださ」

「ん? 相談?」

 フィードの部屋に行く前に、朝食を食べ終わった時に思い出した事を零に話してみる。

「実はさ……年齢性別関係なく、実力があれば入れる仕事場を見つけたんだよね」

「え、マジで?」

「うん。いい条件なんだけど、一つ問題があるの」

「何?」

「そこに入るには、腕に自信がないと入れない……つまり、格闘が出来て、魔法とか使えて、なお且つそんじょそこらの男共より強くなければいけない」

「ふむふむ」

「それに、場合によっては、仕事の内容によって大きな怪我を負う可能性がある」

「うん」

「そうなるとだよ? 私達の保護者となってるリュシーさんやギィースさんが……そんな仕事を許すと思う?」

「……思わない」

 首をフリフリ振って、零は絶対無理だねと呟く。



 そう、私達を異常と言えるぐらい過保護に扱うあの人達が、許すわけが無い。



「でしょ? だから、ここはあえて何も言わずに、そこに行ってみようと思うんだ」

「そうだね。それがいいかもしれない」

「零はどうする?」

「もち、一緒に受けるに決まってるよ!」

「OK。んじゃ、明日は何も予定が入っていないから、朝食を食べたら直ぐにそこに行こう」

「分かった!」

「それじゃあ、仕事の事も決まったし、そろそろフィードの部屋に行こうか」

 部屋を出ようとしたら、零に呼び止められた。

「透ちゃん。明日行く所って……どんな場所なの?」

 首を傾げながらそう聞いて来る零に、私はドアに手を掛け、後ろにいる零に振り向きながらこう言った。

 そこは、腕に自信がある人間が、自分を売り込みに行く場所――。




「ギルドだよ」  


次の更新は、21時過ぎの予定。

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