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それから、零とジークさんの三人で少しの間休憩していたんだけど、今まで数人の騎士の方達と何やら話しあっていたリュシーさんが仕事が入って王城に行かなければならなくなった為に、その日の訓練はそのまま終了となった。
リュシーさんは近くにいたジークさんに私達を家まで送るように言い付けると、騎士の方達と一緒に王城へ行ってしまう。
リュシーさんに頼まれたジークさんは、嫌な顔一つせずに荷物を持って、私達を家にまで送ってくれたのであった。
家に着いて馬から降りると、ジークさんは私達に荷物を手渡し、私達が乗っていた二頭の馬を馬小屋に置きに行ってくれる。
蹄の音を聞き付けたらしいフィードが玄関から顔を出し、私達の早い帰りに首を傾げる。
「いつもより、帰って来るのが早いね」
「リュシーさんに仕事が入っちゃって、今日は早く終わったの」
「ふぅーん」
零がフィードに説明していると、ジークさんが戻って来た。
「それじゃあ、俺は帰るよ。もしかしたら俺もリュシーの所に呼ばれるかもしれないから」
「ジークさん、今日は色々とありがとうございました」
「ジークさん、ありがとー」
「あぁ、それじゃあな」
ジークさんは鐙に片足を掛けて馬に乗ると、私達に片手を振りながら颯爽と駆けて行った。
むぅーん。様になりますなぁ~。
駆けて行く後ろ姿を眺めていると、フィードが大きな袋に興味を示す。
「これは、ジークさんに作ってもらった服だよ」
「あぁ、伸び縮み自由な服ね。漸く出来たんだ」
「そ!」
「ねぇー透ちゃん。早速着てみようよ!」
「そうだね」
零に頷きながら家に入ろうとして、違和感に気付く。
何かが足りない。
はて? と思いつつ、周りを見回してある事に気づく。
「ねえ、デュレインさんは?」
いつもなら私達が帰って来ると、いち早く迎えに来る人が家から出て来ないのだ。
「あぁ、デュレインなら用事があるからって出掛けてるよ」
「そうなんだ。……どこに行くとか言ってた?」
「いや、そこまでは聞いてない。ただ、帰りが少し遅くなるかもしれないとは言ってたけど」
「ふ~ん」
私は分かったと頷き、新しい服に着替える為に今度こそ家の中へと入って行った。
シャワーを浴びて、訓練後にかいた汗を流してからジークさんに作ってもらった真新しい服に着替えてみる。
黒い長袖の上に白の半袖Tシャツを重ね着して、黒いストレートパンツに革製の黒のブーツを履く。
更に、黒のジップアップジャケットという黒を基調とした服装だった。
着替えてから居間に戻ると、新しい服を着た私を見た零が、開口一番「カッコイイ! 似合う!」と褒めてくれる。
「ありがと。……それにしても、零は随分可愛らしい姿になってるね」
「ん?そう?」
目をパチクリさせながら自分の姿を見る零の服装は、白いハイネックの服に黒のノースリーブパーカー(帽子の部分には、何故か猫耳が)で、膝上までの黒のハーフパンツに私と同じ革製の黒のブーツを履いている。
おまけに、毛糸のボンボンが付いた可愛い黒のヒップバック、という黒を基調とした服装であった。
しかし、私のボーイッシュな服装とは違い、どこか可愛い『子供服』を着ているように思うのは私の気のせいなんだろうか?
お互い服の感想を言い合っていると、そんな私達を見ていたフィードが口を開いた。
「……それで? レイとトールは、新しい服を着たはいいけど、これからどうするの」
「え? 別に何も決めてないし、予定も入ってないよ」
「それじゃあ、これからの時間、僕が召喚魔法や獣人について色々と教えてあげようか?」
「え、教えてくれるの?」
「うん、いいよ。それに、レイ達がこの世界に召喚されてしまった原因……知りたいでしょ?」
「それは知りたい」
「私も知りたい」
私と零は頷いた。
「じゃあ……ちょっと散らかってるけど、これから僕の部屋で勉強しようか」
「分かった」
「あ、私自分のノートを持って行くから、ちょっと待ってて」
「それじゃあ、僕は先に部屋に行ってるよ」
急遽、これからの時間はフィードから色々と教えてもらう事になった。
「ねぇ、零。ちょっと相談があるんださ」
「ん? 相談?」
フィードの部屋に行く前に、朝食を食べ終わった時に思い出した事を零に話してみる。
「実はさ……年齢性別関係なく、実力があれば入れる仕事場を見つけたんだよね」
「え、マジで?」
「うん。いい条件なんだけど、一つ問題があるの」
「何?」
「そこに入るには、腕に自信がないと入れない……つまり、格闘が出来て、魔法とか使えて、なお且つそんじょそこらの男共より強くなければいけない」
「ふむふむ」
「それに、場合によっては、仕事の内容によって大きな怪我を負う可能性がある」
「うん」
「そうなるとだよ? 私達の保護者となってるリュシーさんやギィースさんが……そんな仕事を許すと思う?」
「……思わない」
首をフリフリ振って、零は絶対無理だねと呟く。
そう、私達を異常と言えるぐらい過保護に扱うあの人達が、許すわけが無い。
「でしょ? だから、ここはあえて何も言わずに、そこに行ってみようと思うんだ」
「そうだね。それがいいかもしれない」
「零はどうする?」
「もち、一緒に受けるに決まってるよ!」
「OK。んじゃ、明日は何も予定が入っていないから、朝食を食べたら直ぐにそこに行こう」
「分かった!」
「それじゃあ、仕事の事も決まったし、そろそろフィードの部屋に行こうか」
部屋を出ようとしたら、零に呼び止められた。
「透ちゃん。明日行く所って……どんな場所なの?」
首を傾げながらそう聞いて来る零に、私はドアに手を掛け、後ろにいる零に振り向きながらこう言った。
そこは、腕に自信がある人間が、自分を売り込みに行く場所――。
「ギルドだよ」
次の更新は、21時過ぎの予定。




