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私は今、困っていた。
なぜかというと、零が放った炎によって私専用の『お子様用椅子』が真っ黒焦げになってしまい、椅子に座る事が出来なくなったからね。
座る椅子が無いのでどうしようかと悩んでいたら、私の後ろに立ったカーリィーがいきなり人の両脇に手を差し込み、ヒョイと抱き上げる。
「トール、俺と座ろうぜ!」
「うぇっ!?」
カーリィーは私を抱いたまま自分の席に戻ると、私を自分の膝の上に乗せた。
それから左手で私を支えると、右手で頭をよしよ~しといった感じで撫でる。
あまりのお子様扱いに、頭を撫でている手を振り払おうとしたんだけど、手に何かを持たされた。
「ほい、オレンジジュース」
「いや、ジュースじゃなくて……私一人でも座れるから」
「まぁまぁ」
「降りる」
「まぁまぁまぁ」
「もーぅ!」
カーリィー離してと言おうとした言葉は、次の言葉で続かなくなる。
「トールは、俺と一緒に座るのは……嫌?」
首を少し傾げ、悲しげな瞳で私を見詰めるカーリィーの頭に、しゅんと垂れた犬の耳が見えた様な気がした。
「う゛ぐぅぅ……」
私は頭を抱えたくなった。
こんな風にされたら、嫌とは言えないじゃないか!!
後から聞いた話、カーリィーは出迎えた時に私を抱っこしているエドを見て「ずるいっ!」と叫んでいたらしく、今度は自分の番だと言って私を膝に乗せたらしい。
見た目に反して、エドもカーリィーも子供好きなのかもしれない。
しかし……私には拒否権はないのか。
眉間に皺を寄せつつ、グラスを両手で持ちながらジュースを見ていたのだが、ふと、顔を上げて周りを見ると――周りにいた皆さんが生温かい目で私を見ていた。
そう、それはまるで、小さな子供を温かく見守る大人の目のようで、私をそんな目で見るな! と叫びたくなった。
「トール、ちょ~っとこっち向いてねぇー」
ルルは眉間に皺が寄って少し不機嫌そうな私の顔を覗くと、頬に触れない様にしながら火傷の傷を魔法で治してくれた。
「はい! 治ったよ♪」
「……ありがとう」
ルルに笑い掛けながら感謝して、それから溜息を吐く。
もうこの状況で話を再開するしかないと思った私は、そのままカーリィーの膝に乗りながら口を開いた。
「魔法の他に、教えてほしい事はまだまだいっぱいあるんだけど……これ以上言われても頭が混乱してしまうので、あと一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい。私達が教えられる事なら、何でも」
リュシーさんは真剣な瞳で私の話を聞いてくれる。
「それじゃあ――」
黒騎士って、一体どのような存在なんですか?
先程の事を思い出す。
零の魔力を抑えたギィースさん。
ギィースさんは、誓約印がある黒騎士は魔力を抑える事が出来るって言ってた。
それってギィースさんの主が、零だと言う事だろうか?
……いや、それは違うか。
私に向けて放った炎が自身初の魔法であった零が、ギィースさんと契約しているはずが無い。
だって、契約をするには、主になる人が『魔法』で相手に誓約印を刻むのだと教えてもらったのを覚えている。
だから、私は不思議に思った。
何で自分の主でもない、昨日今日初めて会った私達をけてくれるんだろう?
何で、自分の主でもない零の魔力を抑える事が出来るの?
それは、誓約印が無くても私達が“紋様を持つ者”だから?
そんな事を考えていたら、リュシーさんの凛とした声が聞こえた。
「私達は『守護者』です」
「守護者……ですか?」
「はい、“紋様を持つ者”を守護する『盾』であり『剣』――それが黒騎士です」
藍色と水色という宝石の様な瞳を細め、優しく微笑むリュシーさんが静かにそう言った。
次回は24日の20時過ぎ予定。




