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キミに逢えたら  作者: ちびすけ
出会い
3/51

2

 ピピピピッ。ピピピピッ。ピピピ……カチッ。




「……7時…………うん。まだ大丈夫」

 もぞもぞと頭を動かして、まだ半分しか開いてない目を目覚まし時計に向けると、もう1度寝る態勢を取る。

 仕事休みの休日。寝れるなら、昼過ぎまで寝ていたいんである。

 体を丸め、さてもうひと眠。

 ウトウトッとしていると、バターンッ! とけたたましい音と共に、ノックもせずに勢いよく入ってきた人物がいた。

「起ーきてっ、透ちゃん!! 朝だよぉ~」

 朝からバカ高い零のキンキンした声が頭に響く。

 私は布団の中で丸まりながら耳を押さえ、呻いた。

「……まだ寝かせてよぉ……」

「もぅ、透ちゃんったら! 今日は何の日か忘れちゃったの?」

「……あ。そうだった。今日はあの場所に行く日か」

 本日の用事を思い出した私は、ムクリと起き上がって「くあぁぁ~っ」と大きな欠伸をした。

 高校を卒業してから早6年以上が過ぎ、私達も後少しで25歳になろうとしていた。






 陽子と別れたあの日の夜。私と弟は、零の家で零と零の双子の兄の4人で卒業祝いをしていた。

 くだらない話をしたりして笑い合っていた時───零のお母さんが、突然部屋に入って来て、震える声でこう言ったのだ。



『陽子ちゃんが事故に巻き込まれて……行方不明になったらしいの』



 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 数時間前、卒業旅行の話を笑いながらしていたのに。

 また来週って、言っていたのに……。

 誰も反応を示せないでいると、おばさんは涙ぐみながら事情を説明してくれた。

 山の中、峠を上っていたバスに、1台の乗用車が突っ込んで来たらしい。

 バランスを崩したバスは、そのままガードレールを突き破ってそのまま20メートル下の崖に落ちたが、バスに乗っていた20人以上の人達は多少怪我人はいたらしいが、幸い命に別状はなかったとの事。

 しかし、乗客の安否を確認していた添乗員が、乗員の人数の確認をしていると、1人だけどこに行ったか分からない人がいたらしい。

 それが陽子だとおばさんは言った。

 バスは崖から落ちたために損傷が激しかったらしいが、窓ガラスが割れているわけでもないので、外にほおり出されたわけでも無いし、バスから脱出した後に何処かに歩いて行った形跡も無い。

 突如として陽子の姿が消えたと辺りは騒然としたらしい。

 今は警察と消防で陽子の行方を懸命に探している最中だと、おばさんはそう言いながら泣きだしてしまった。



 ――次の日、私達は親に車を出してもらい、陽子が失踪したという現場に向かった。



 現場は警察のパトカーが数台止まっていて、道路規制をかけていた。

 私達は茫然としながら現場を見ていることしか出来なくて、親が警察の人に状況確認をしてきてくれたが、今だ陽子が見つかったという朗報は入っていないとの事。

 数日かけて陽子の捜索はされたが、期待していた結果が出る事もなく、1か月以上も経つと捜索は打ち切られてしまった。

 納得できなかった私達は独自で陽子が消えた場所を探していたのだが、仕事や学校などが始ってしまい、毎回毎回3時間以上も掛けて現場に来る事が安々と出来なくなってしまった。

 なので、年に1度、陽子が失踪した日に、4人で現場に行こうという事になったのだった。

 そして、その年に1度の日が今日なのである。




「ねみぃー」

 あーっ。頭がボーッとする。

「むふ。透ちゃん寝ぐせついてる。可愛いぃ」

「………………」

「さっ、低血圧でまだ頭がボーッとしてるかもだけど、ベットから出て、服を着ちゃって!」

 人の顔を指でツンツン突いていた零が、勝手にタンスの中から洋服を取り出すと、顔の前に突き出してきた。

 私はもう1度大きな欠伸をしてからベットを降り、零の手から洋服を取った。

「着替えるから、ちょっと下に行って待ってて」

 零には雑誌を渡して下の居間で待ってもらいながら、着替えやら何やらを素早く済ませる。

 ショルダーの中に携帯と財布を入れて準備完了。

 急いで部屋から出て、階段を駆け降りた。

「お待たせ。あっ、零そこのジャンパー取って」

「はーい。でも、今日はそんなに寒くないよ?」

「んー。何か、風邪っぽい気がするんだよね」

「ホント!? 大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。ちょっと鼻水が出てるくらいだし」

「むぅ~。でも、具合が悪くなったら無理しないで絶対言ってね」

 さすが看護師。私の病気に関して、彼女は目を光らせている。

「はいはい」

 そんな事を話していると、零の携帯からメールの着信音が鳴った。

「あ、着いたって」

「タイミングいいじゃん。それじゃあ行きますか」





 外に出ると、1台の車と1人の青年が立っていた。

「はよっ! 透」

「おはよ。馨」

 こちらに向かって笑顔で手を振る彼の名前は、瑞輝馨みずきかおる

 私の双子の弟である。

 身長は馨の方がやや高いが、一卵性双生児かと思われるぐらい似ている。兄弟仲もいたって良好。

 が、しかし───。

「よ~う、ちび零。今日も相変わらずチビチビしてんなぁ~?」

「なぁ~んですってぇ!!」

 何故か、超が付くほど仲がよろしくないこの2人。

 昔から顔を合わせればこんな感じである。

 1人はシスコン。もう1人は透ちゃん(私)至上主義を掲げる恥ずかしい人物だ。

 私の奪い合いをする天敵同士らしい。

 今もどちらが私の隣に座るかでバトルっている2人。

 そんな2人を無視して、私は車の助手席にさっさと乗り込んだ。



「今日はよろしくね、創」



 運転席に座っている人物に声を掛けると、

「久しぶり、透」

 少し低くて落ち着いた感じの声が、私の耳に響く。

 この青年は、零の双子の兄の瑞輝創みずきはじめ

 創と零は、顔の作りや持っている雰囲気があまり似ていない。

 しかも、私や馨より長身なため、零と双子に見られる事はまずない。

「あぁーあ。零の奴、もう少しお淑やかになんねぇーかな? この年になってもまだあんな調子なんだぜ?」

 バックミラーから外の様子を見ていた創は溜息をつく。

 私がチラリとサイドミラーから外の様子を伺えば───ちょうど零が馨に回し蹴りをしていた。



 ……あ、零の蹴りが馨の脇腹にキレイに決まった。



「それを言うなら、うちの馨もだよ。もう少しでいいから、女の子の扱い方を学んだ方がいいと思う」

 私は半眼になってサイドミラーを見詰めた。

 馨が零の頭に強烈なチョップをかましていた。

 頭を抱えて蹲る零をみると、本気でやられたらしい。

 馨……脇腹マジで痛かったんだな。

 でもそこで本気でやり返す辺り、奴もまだまだ男として精進が足りないと見える。




 外にいる2人をそれぞれバックミラーとサイドミラーから眺めながら、私達は溜息を溢していた。

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