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何かに、優しく包まれている気がした。
砂利を踏みしめる音や、音に合わせて体に伝わる振動を考えると……誰かが自分を抱き抱えて歩いているんだと分かった。
───お父さん?
そう思って、ギュッと『お父さん』の服を握ったら、それに気付いた『お父さん』が「どうした?」と聞いて来た。
その声がとっても優しかった。
───でも、お父さんの声じゃない。じゃあ、お兄ちゃん?
服に顔を擦り付けるように擦り寄ると、『お兄ちゃん』は抱え直しながら私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「寒い?」
「ううん。さむく……なぃ」
寒くなんてなかった。『お兄ちゃん』に抱えられて、とっても温かかった。
私は、『お兄ちゃん』の首に両手を回して、肩に右頬をくっ付けた。
甘えるような仕草に、クスッと笑う声が私の耳に届く。
その他にも───。
「いやぁ~ん。トールってば寝ぼけてるぅ」
「あぁ゛ーっ。ここに携帯があったら絶対写メで撮って永久保存してたのにっ!!」
などなど、そんなものまでもが聞こえて来た。
煩いなぁ……と思った私は、肩にくっつけていた顔を肩から離し、目を薄っすらと開けると。
零が……猫になってる?
寝ぼけていた私は、魔法薬で猫耳と尻尾が生えた零を見て「あぁ、夢か」と思い、コテンっと肩に顔を戻して目を閉じてしまった。
「あ、寝ちゃった」
零が残念そうに呟いたのが聞こえてくるも、意識はそのまま薄れていく。
それから少しして、誰かに声を掛けられる様な感じがしたが無視をする。
なんだよもぉー。せっかく気持ちよく寝てんのに……。
グズグズしていたら、また背中をポンポン叩かれた。
あぁ、分かったから。起きるからそうポンポンポンポン叩かないで下さい。
眠いのを我慢して、手の甲で目を擦ってゆっくり瞼を開ける。
辺りを見回してから目に入ったのは、数時間前に商店街に行くのに出て来た扉。
「リュシーさんの……いぇ?」
眠いし、なんか……こぅ……喋りにくいと言うか舌が回らない?
起きなきゃと思うが、瞼が落ちてくる。それに、今何か言われた様な気がしたが、眠気が襲ってきて、適当に頷くので精一杯だった。
それから急に体がガクッと傾いたのは分かった。
あ、落ちる。
ジェットコースターに乗った時に感じる浮遊感が襲ってきた。でも、力が抜けてる体は全然動いてくれなくて───。
やばいっ!
落ちた時の衝撃を予想して体が硬直したが、直ぐに誰かに抱き抱えられた。
「あっぶねぇー」
そんな焦った声が聞こえた。
細いけど、筋肉が付いてガッチリとした腕に包まれ、緊張していた体は一気に緩む。
安心してもうひと眠り───と思っていると、顔をつつかれたり叫び声が聞こえたりと、何やら周りが騒がしい。
煩いなーと思って目を薄っすらと開けたその時。
「そこで何をしているの?」
女の人の声が聞こえた。
ぐりぐりと目を手の甲で擦り、ショボショボした目で声がした方に視線を向ければ。
一気に眠気が吹き飛んだ。
リュシーさんとジークさんとカーリィー君と……あと、見た事も無い3人の人が、エドに抱っこされた私を見ていたからだ。
死ぬほど恥ずかしい。
すっかり目が覚めた私は、のほほんと今まで眠っていた事を大いに悔やんだ。




