9
フィード君から話を聞き終わった私は、元の世界へ帰る魔法陣が出来上がるその時まで、ゆっくり異世界観光でもする事にした。
海外旅行ならぬ、異世界旅行。
仕事が忙しくてなかなか長期の連休が取れず、旅行なんてなかなか出来なかったから、ちょうどいい骨休めになる。
そう思うことにしておいた。
「あ~美味しかった」
飲み終わったグラスをテーブルに置き、私は一息つく。
携帯を見ると、時刻はPm20:05。もう夜だから暗くなってもいい頃なのに、窓の外は未だ明るかった。
どうやら、夏の季節は日照時間がかなり長く、夜の11時を過ぎないと月は出ないそうだ。
体内時計が狂いそうだな~と思いながら、ボーッと窓の外を眺めていると、王子の話し声が聞こえて来る。
何だろうと思って王子に目を向けると、連絡蝶を指に止めた王子が誰かと話しをしていた。
「リュシーからの連絡でした。任務が終わって屋敷に戻ったそうです。私達もそろそろ戻りますか?」
一通り話し終えたのか、連絡蝶は王子の指から離れると消えてしまった。
「あ、そうですね。でも……」
「ん?」
クリッとした大きな瞳で私を見上げ、どうしたのと聞いてくる零を見ながら、どうしようかと考える。
フィード君が付き添っているとはいえ、零と離れるのはやっぱり嫌だ。
かと言って、勝手にリュシーさんの家に連れて行くのも悪い気がするし……。
悶々とそんな事を思いながら零を見ていたら、「レイさんも一緒に来て下さい」と王子がにこやかに提案してくれた。
「いいんですか?」
「えぇ。先程そちらの方の事を話したら、それなら一緒に連れて来るようにと言われました」
その言葉にホッと安堵の息を吐き、お礼の言葉を述べようと口を開こうとしたら、フィード君が慌てた。
「ま、待って下さい! どこにレイを連れて行く気ですか!? さっきも言ったけど、僕はレイを仲間の所に早く連れて行かないといけないんだ」
なので、寄り道なんかしたくないと言うフィード君に、王子は大丈夫だと軽く手を振った。
「今、連絡蝶を寄越した者の名をリュシーナと言いまして、このウェーゼン国の黒騎士です。黒騎士団の隊長をしています。そして、私も黒騎士です」
今は普通の服を着ていて、黒騎士だとは思わないかもしれませんがね。と笑う王子。
「黒騎士団。それじゃあ……」
「えぇ、隊長の屋敷にギィースさんもいらっしゃるので、君も私達と一緒に来るように伝えてくれと言われました」
「……そうですか。分かりました、それでは、僕達も一緒に連れて行って下さい」
フィールド君はそう言うと、王子に頭を下げた。
エルモの店主にお金を払っている途中の王子を待っている時、クイクイッと裾を引っ張られた。
「ん? どうしたの?」
「へ? 私は何もしてないよ??」
いつもの調子で零に声を掛けたら首を傾げられてしまった。
それじゃあ誰が?
首を零とは逆方向に向けると、ルルが私をジーッと見ていた。
「ルル、どうしたの?」
「んとね、リュシーの家に行く前に、私の家に一度寄りたいんだけどいいかな?」
「ルルの家に?」
「うん。『このコ』を家に置いてから、リュシーの家に行きたいの」
ルルが言う『このコ』を見て、顔が引き攣る。
人の顔を見れば「キシャーッ」と威嚇するミュミュットを入れた籠を、胸元で抱き締めたルルが、いいでしょう? と上目使いで私を見る。
うわぁー。その顔可愛すぎ!
ほにゃ~んと顔が緩みそうになった(別に変な趣味は無い)が、あの変な生き物の威嚇声でハッと我に返る。
「あぁ、うん。私は大丈夫だよ? でも、一応おぅ……じゃなくて、ハーシェルにも聞いてみて」
「うん。分かった」
ルルは頷くと、ハーシェルぅ~と言いながらブンブンと籠を振り回し、走り出す。すると、籠に体をぶつけたミュミュットの「グギャッ? フギュゥ!?」という悲鳴が聞こえてきた。
ほんの少しだけ、可愛気のないアイツが哀れだと思ってしまった私なのである。




