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キミに逢えたら  作者: ちびすけ
再会
12/51

3

 私と同じ世界の人で、言葉も通じるって事は……その人も日本人?

 そんな事を考えながら、彼らの手首を見て思う。



 手首に刺青を彫った様な誓約印があるからといって、本当に話しが通じる様になるんだろうか??



「あの、ジークさん。その誓約印って……彫ったんですか?」

 私がジークさんの手首を指で指しながらそう言うと、まさか! と笑われた。

「魔法だよ。ただ刺青みたいに彫っただけなら、トオルと話す事なんて出来ないよ」

「あ、そうですよねぇ」

 そりゃそうだと思っていたら、王子が目を伏せながら、何かを思い出すように話しだした。

「主従の契約を結ぶ時、主になる人がしもべに直接魔法で誓約印を刻むんです」

「でも、皆さんの誓約印は……」

「はい、私達は手首にありますが、誓約印は通常であれば心臓の位置に刻まれます」

「心臓の位置?」

「はい、そうです。どんな理由であっても、主を裏切るなら、魔法でその者の心臓を破壊するようになっているんです」

「……それって……死ぬってことですよね?」

 窺うように王子に聞くと、彼はその通りですと言った。

「心臓の位置に誓約印が刻まれる事によって、初めて主従関係が成立します」

「でも、皆さんの誓約印がある場所は……」



 手首だ。



 心臓の位置にはない。

 不思議に思って彼らの手首を見ていたら、王子が「これは仮契約なんです」と言った。

「仮契約??」

「そう、これは仮の誓約印なんです。幼かった私達が“あの人”と契約を結ぶ時、私達がその位置でもいいと言ったんですが、頑として首を縦に振りませんでした。何でも、あんた達はまだ12、3歳の子供なんだから、そんな場所にする事は無い。もし、大人になってまた私と会った時に、まだ私に仕えようと思っていてくれたなら……その時は、本当の意味で契約しましょう───と」

 王子はそう言いながら、悲しそうな表情をしていた。

 何故かは分からないが、私は王子やリュシーさん、それにジークさんと仮の契約をした人の気持が少しだけ分かってしまった。

 私がそう言うと、彼らは驚いた表情で私を見た。

「どうしてですか? 私達に限った事ではありませんが、自分が心の底からその人に仕えたいと───命を捧げてもいいと思える人に出会えたなら、年齢なんて関係無く契約を結ぶ事を望みますよ」

 王子は、私の言葉の意味がよく分からないといった様な顔だ。

「そうですねぇ。ハーシェルさん達の感覚だと、そうなるんだと思います。でも、その人は私と同じ世界の……言葉が通じるから、もしかしたら同じ国から来たのかも知れません。私がいた国では、主従関係が全くない事は無いんですが、皆さんが言うような関係って無かったですからね。───それを、大人の人に言われるならともかく、まだ10代の子供にそんな事を言われたら……ビックリすると思いますよ」

 私がもしそんな事を言われたら、嬉しいと思うより絶対引く。



 だって、人の命が掛かってるんだもん。



 それに、子供の時にその人がいいと思って契約しても、もし大人になった時に、その人以上に素晴らしい人が現れたら?

 後悔するかもしれないじゃないか。

 そう言ったら、リュシーさん達は私の視線から目を逸らした。

 そういった事が起きる場合も稀にあるとの事。

 目を逸らした3人を順々に見て、だから、と私は続ける。

「その人はそんな事が起きないように、その時は仮契約をしたんだと思います。本当にリュシーさん達との契約を重荷に思っていたら、仮契約なんてしないと思いますよ?」

「……トオルさんは、本当にそう思いますか?」

「私だったら、出来ないと思ったら、初めから仮でも契約なんてしません」

「…………そう、ですか」

 とは言ったものの、私はその人じゃないし、その人の事を何も知らないから、本当は何とも言えないんだけど。



 でも、まぁ、そういう事でいいかと思おう。



 だって、横を見たら───。

 昔を思い出しているのか、誓約印をもう片方の手で擦りながら、柔らかい表情で手首を見つめるリュシーさんがいたからだ。

 きっと、その人の事を思い出しているのだろう。

 視線をずらすと、ジークさんも手首を見つめ、それからグッと拳を握り締めていた。

 王子は……ナゼかニコニコしながら私を見ていた。

 無駄にキラキラして見えるのは目の錯覚だろうか???

 ………変な人。

 それが、王子の第一印象だった。



 無駄に整っている王子の顔から目を逸そうとして、ふと思う。

 なにか引っ掛かる。でも……なにがだろう??

 そう。王子の話を聞いていて、一瞬、あれ? って思う所があったんだけど……何だったっけ?

「どうした? こいつの顔に何か付いてるのか??」

 うぅーむ。と眉間に皺をよせながら、ジーッと王子の顔を見ていたら、ジークさんが怪訝な顔をして私を見ていた。

「いえ、そう言うわけじゃないんで、なん……で、も………ん?」

 慌てて手を振って、何でもないと言おうとしたら、不意にある言葉を思い出した。

「トオルさん?」

 何も言わないで固まる私に、リュシーさんが肩に手を当てて、どうしたんですかと声を掛けてきた。私はゆっくりと、リュシーさんの方を向く。

「……あのぉー。先ほどの話しによると、誓約印って……魔法で刻むんですよね?」

「そうです」

 コクっと頷くリュシーさん。



 じゃあ、それじゃあ───。



「その人って……魔法……使えるんですか?」

「? もちろん使えますよ。“あの人”は“紋様を持つ者”なんですから。高度な魔法も簡単に使っていました」

 リュシーさんが口を開く前に、私の話を聞いていた王子が、何を言ってんですか? みたいな顔をして、サラリとそう言った。

 それが何か? と言った王子を見詰めながら、私はあれこれと頭の中で考え事をしていた。

 その人って私と同じ世界から来てるんだよね? なのに、何ゆえ魔法が使えると??

 しかも、高度な魔法って……。



 一体どうなってんだ!?



 訳が分からなくなってきた時、溜息が聞こえた。

 気になって横を見ると、リュシーさんが、何か計算外の事でも起きたかのような顔をしていた。

「……ハーシェル。トオルさんは、魔法が使えないのよ」

「は!? 使えないって、どういう意味?」

 目をまん丸くして聞き返す王子。

「どうもこうも、そのままの意味よ」

「え、だって…………本当ですか?」

 王子がこちらを見て聞いて来たので、本当です。と、頷いておいた。

 すると、なぜかまた氷の様に固まってしまった。よく分からないが、かなりショックを受けたらしい。

「あの、リュシーさん。その人は本当に魔法を使ってました?」

 王子を無視して再度確認。そして、頷くリュシーさんとジークさん。

 2人がそう言うのなら、本当なんだろう。

「その人に、会う事って出来ますか?」

 私と同じ紋様があって、高度な魔法が使えるのなら、もしかしたら元の世界に帰れる方法を何か知っているかもしれない。

 そう思って聞いてみるも、2人は分からないんだと首を振った。

「分からないって……行方不明か何かなんですか?」

「えぇっと、行方不明と……いうか、なんというか……」

 なぜかしどろもどろと話すジークさん。

「俺達が“あの人”と会ったのが子供の頃なんだけど、一緒に過ごす事が出来たのが、たった2週間ぐらいなんだ。“あの人”とずっと一緒にいたいと思った俺達が契約の話を持ち出したんだけど……さっき話した様に、仮契約だけして、転移か何かを使って何処かに行ってしまったんだ」

 だから、今“あの人”がどこで何をしているのか分からないんだと、ジークさんは苦笑した。

「現れたのも突然だったけど、帰るのも突然だったよね」

 復活した王子が懐かしそうにそう言うと、リュシーさんもジークさんも「そうだな」と言って笑っていた。

 昔の事を思い出して笑い合う大人3人組である。が、そんな時、蚊帳の外となっていた子供3人組がブーブー言い出した。

「……あぁ、すいません。今度は、彼らがトオルさんと話したいと言っています」

「でも、言葉が」

「大丈夫だよ」

 通じないと言いたかったが、そこをジークさんに遮られる。

 ジークさんは少し笑い、「言葉は何とかなる」と言うと、エド君を私の前に立たせた。

「トオルがこちらの言葉を話したり聞けたり出来るように、これからエドが魔法を掛けるから」

 と言い、エド君に「やれ」と命じた。

「え? は? ちょちょちょ、ちょっとま───」



『×××』



 こちらの世界に来る時の魔法を思い出した私は、ちょっと待ってと言おうとした。

 だが、制止の言葉を言う前にエド君が両手を私に向けて、何かを呟くと、突如私の足元に大きな魔法陣が出現した。

「うわぁっ!」

 こちらの世界に来た時の魔法陣は凄い光だったが、今、彼が発動させている魔法陣は淡い紫色の光を発していた。

 エド君が右手を上げると、魔法陣に刻まれていた光り輝く文字が浮き上がり、私に巻き付いて来る。

 そして、グルグルと私の周りを螺旋状に回り続けた。

「おわわわぁ!?」

 驚きつつもエド君の方に目を向けると、彼は目を閉じながら、ずっと詠唱していた。額には、玉の汗が浮かんでいる。

 ちょっと辛そうな表情に、もうやめてと手を伸ばした時───。

『××××××!!!』

 エド君が何かを叫ぶと、私の体の周りを取り巻いていた文字が、私の体の中にスウッ……と入ってしまった。



 文字が入っちゃったよ!?



 驚きながらペタペタと自分の体を触っていると、ドサッという音が目の前からした。

 自分の体から視線を前に向けると、エド君が膝を床につけて長距離を全力疾走したかのように荒い呼吸を繰り返しているのが目に入った。

「お疲れさん」

 ジークさんがエド君の肩を労うかのように叩くと、荒い息を整えるように深呼吸したエド君が顔を上げた。

 ジッと私を見ると、ゆっくりと口を開いた。

「…………肩……怪我させてすみませんでした」

 おぉ!! 言葉が分かるし!

 急に分かる様になった事に感動していた私であったが、エド君がかなり真剣な───まるで痛みを堪えるかの様な表情をしていたから、慌てて手を振った。

「……え? あ、気にしないで? あの時は私も悪かったし。それに、ジークさんに治してもらったから大丈夫だよ」

 ニコッと笑ってそう言えば、エド君の表情も穏やかなものとなる。

 2人で笑い合いながら、やっぱ魔法ってすんごいわぁ~と心の中で思う私。

 だってさぁ? 魔法が使えれば、異世界の言葉も聞いたり話せたり出来るんだよ!?

 これが元の世界で使えたら……と思う。

 そうしたら、学生時代に苦戦した苦手な英語も克服できたのに───と。

 そんな事を考えていたら、王子がこの魔法を習得しているのはエド君だけなんだと説明してくれた。

 へぇ~。エド君って凄い魔法使いなんだぁ。

 すげぇーってな感じで、尊敬の眼差でエド君を見ていたら。



 突如目の前に真赤な蝶が現れた。



 色は違うが、あれって確か連絡蝶ではなかっただろうか?

 そんな事を考えながら、目の前をヒラヒラと飛ぶ蝶を見ていると、又しても綺麗な蝶からは思いも寄らない怒鳴り声が発せられた。

「リュシーナっ! てめぇ、特1級連絡蝶をやってからどんだけ待たせんだっ!! 相手方が急に王都にお忍びで出たいとか言いやがって、護衛の人数が足りねぇんだよ。だから、い・ま・す・ぐ・来いっ!! わかったな!?」

 蝶はひらりひらりと飛びながら、リュシーさんの周りを飛んでいる。

 しかしデカイ声だ。周りを見ると、皆煩そうな顔をして耳を塞いでいた。

 そう言えば、あの白い家で見た蝶と同じ声だ。そう思っていたら、リュシーさんがスッと立ち上がった。

「分かった。今直ぐ行く」

 眉間に皺を寄せたそのお顔は、迷惑至極と書かれていた。

「おうっ。早く来いよ。───あっ。どーせ、近くにジークもいんだろ? 一緒に連れて来い。あと、手が空いてる奴がいたらそいつも連れて来いや」

「何で俺を名指しにする!?」

 ジークさんが抗議の声を発するも、蝶は言う事だけ言うと、パッと消えてしまった。

「申し訳ありませんトオルさん。続きは、私達が帰ってからでもよろしいでしょうか?」

「あ、それは全然かまいません。最初から、リュシーさん達は重要な仕事があるって分かっていましたし」

 私がそう言うと、リュシーさんはホッとした表情をした。

 それから、名指しで指名されたジークさんと近くにいたカーリィー君の襟首をガッシリと掴む。

「さっ、行くわよ」

「い、いや。俺より、ハーシェルの方がいいんじゃ……」

「え、何で俺!? 俺はまだここにいたいんだけど!」

「煩いわね。……あんた達、何か文句でもあるの?」

「「…………いいえ、ありません」」

「そう? それじゃあ行くわよ」

 行ってきますと言って、ズルズルと2人を引きずって行くリュシーさんの後ろ姿に、私は扉が閉まるまで手を振り続けた。

 リュシーさんって、結構強引?? 彼女の新たな一面を垣間見た気がした。





 

 部屋の中に、私とルルちゃんとエド君、そして王子が取り残された。



 今までいてくれた人がいないって、とっても心細い。

 しかし……何て言うか、話ずらい。

 どうしたもんかと視線を彷徨わせていたら、王子があのニコニコ顔で声を掛けて来た。

「先ほど、ジークからトオルさんは王都に初めて来たと聞いたんですが、本当ですか?」

「えっ? あ、あぁ! はい。そうなんですよ」

 本当は『王都』というか、『この世界』に、なんですが。

「そうですか……それでは、1度街に行ってみませんか? 私がご案内致しますよ」

「街にですか?」

 首を傾げて王子を見ると、彼は頷く。なんでも、このフィルシルはかなり大きな商業都市らしく、いろんな物が揃っているんだとか。

 でもなぁ~。リュシーさんやジークさんがいないのに、外に出ちゃってもいいんだろうか?

 そう悩んでいたら、可愛い小物も揃ってますよ。と言わた。

 うっ……それは、ちょっと行きたいかも。でも、王子と2人で出掛けるのはちょっと……ね?

 そんな事を悩んでいたら、ルルちゃんがもじもじしながら話し掛けてきた。

「トール様。あの、私もいろいろなお店を知っているんですが……あの、一緒に行きませんか?」

「うん、行く!」

 ルルちゃんの誘いに私が即答すると、ルルちゃんは輝くような笑顔で頷き、私の腕に抱きついて来た。

 こんな可愛いコと一緒にお買い物が出来るなんて夢の様でございます!

「あ、それじゃあエド君も一緒に行こうよ!」

 エド君も一緒に誘うと、エド君は何も言わずにただコクリと頭を縦に振った。

 ただ、耳の先っちょが真っ赤になっていたのを、私は見逃しませんでしたよ。

 先に誘ってきた王子に至っては………。

 何故か、顔をドンヨリと曇らせている。

 すまんな、王子。私、可愛い物と子供には弱いのよ。




 そんなこんなで、ルルちゃんとエド君と王子ハーシェルの4人で出掛ける事になったのであります。


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