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さよならのかわりに

作者: 相原 春

はなこへ


出会ったのは、たしかお前が20歳になるかならないかぐらいの頃だっけ。

ちんちくりんでのんびりしている、面白いやつだなって思ったんだ。


思いついたことをつらつら書くよ。

お前にこの手紙を渡すときにしゃべることも書いちゃうかもしれないけど

自分の気持ちや考えを上手に言葉にするのは難しいから手紙に。


おれにとって、はなこはとても大切な人だよ。

そしてはなこと行ったあの湖と神社も特別な場所になった。

寒い夜に冷えた身体で肌触りの良い毛布に包まれたときみたいに

お前と一緒にいた時間、おれはとても幸せな気持ちだった。

きれいだなと思った。

桜も、名前のわからない花も

太陽を反射する湖も

木の枝で遊ぶお前も。


時間が過ぎて、お前を車から降ろして独りになったあと、寂しくてたまらなかった。

それこそ、毛布を取り上げられたライナスみたいに。


もっと一緒に、同じ場所にいたかった。

安心したかった。それだけなんだ。

だから、お前を困らせるようなメールを送ったことを許してほしい。

言い訳がましいけど、はなこに誤解されたままでいるのは嫌だから。

でも、こんなこと言わなくてもお前は全部わかっているだろうなって気もしている。


妹のような感じとも違う、恋人に対するそれでもない。

うまく説明できないけど、おれははなこが大好きなんだよ。

何年か後、お前が結婚したり母親になったことを風の便りで聞いたとして

おれはきっとすごく喜んで、そして少しだけ嫉妬するんだと思う。


はなこにとっては、おれはただのバイト先の同僚かもしれないけど

おれにとってのはなこはそれだけじゃない。


パコと魔法の絵本って映画ををいつか観てみて。

他人と上手に関われなくて孤独だった大貫が

パコの心のなかに居たいって必死になる姿をみたら

少しはおれの気持ちがわかってもらえるかもしれない。


今も手元にある、1度も洗濯していないストールをおれはとても大切にしていて

それは尊敬する先輩から貰ったもので、普段身につけるときには考えもしないけど

ときどきその人のことを思い出す。

おれが21歳のときに、その人がいつも頭に巻いていたストールを譲り受けたきりで

もう連絡先も、生きているかどうかもわからないけど

できるなら、またいつか会いたいと思う。

そんな風にお前が、おれのことをたまにでいいから思い出してくれたら嬉しい。


おれがストールをもらったみたいに、おれからもはなこになにかを渡したいと思った。

お気に入りのお店に行ってあれこれ見たんだけど

考えたらおれはお前の趣味も好みもわからないし

そういう意味では、おれはお前のほんの一部分しか知らないんだろうな。

でも、なんとなく、はなこって人間を理解しているつもりだけどね。

あの日の困ったメールも、断られるのはわかっていたんだ。

なんてのは言い訳にはならないか。


プレゼント、趣味じゃなかったり気持ち悪かったりしたら

捨てられるのは悲しいからさ、友達にでも横流ししておいて。


ずいぶん長くなっちゃったな。

最後に。


お前の周りにはお前を愛してくれる人間がたくさんいるし

これからもそういう人たちがお前を助けてくれると思う。

でも、もし何か困ったことがあって、身近な人たちに救いを求められない状況になったら

いつでも連絡してほしい。

お前のためなら、火の中は無理でも水の中くらいは

たとえ真冬だって、飛び込んでやるから。


元気で

いつまでも松ぼっくりを集めたり転がしたりするはなこでいてくれることを

心から願います。



p.s


もう壁伝いに成長する蔦の努力を無駄にしたらだめだよ。

そんなはなこも、好きだけどね。

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