黄金都市へようこそ
「カンディード様。昨日はすみませんでしたぁ」
カカンボは翌朝になるとすっかり機嫌が直っており、カンディードは面食らって、
「どうしたんだい、カカンボ。や、やけにご機嫌じゃないか」
と問いただすほど。
「いえね、昨日あれから考えて、やはり私も言い過ぎたかなぁと。申し訳ございません」
しかし、言葉と裏腹に、なぜかカカンボの笑顔には締まりがない。
「うん、まあ、気にしてないよ。でもなぁ、気になるんだよなぁ・・・・・・お前のその、しまらない笑顔がね・・・・・・らしくないというか・・・・・・」
「野暮なこと聞かないでくださいよぉ。えへへへ、ご想像におまかせします」
「・・・・・・あ、あっそう。じゃあそうする。さて、カカンボ。僕たちは今、境地に立たされている。これからどうしたものか、お前のその賢い頭で、何とかしておくれ・・・・・・って、今の状態じゃ無理だな・・・・・・」
カンディードはふとこういった。
「あれ。カエデちゃんの姿が見えないね。どこだろう」
鈍感なカンディードはまったく気づこうとしない。
カカンボとカエデ嬢に昨夜、何があったのかということに――。
「彼女なら私の部屋で、まだ寝ているでしょう」
とカカンボがいったのに、カンディードまだ気づかない・・・・・・。
「どうしよう・・・・・・パングロス先生も絞首刑にされてしまったし、キュネゴンドを助けるにしても身代金がたくさんいるしで、ぼくはどうしたらいいんだろう」
カカンボは少しずつ、まともな表情に戻っていった。
「ええと、そうですね。海賊を襲うという手もありますが、多勢に無勢では無理があるか・・・・・・」
「あたりまえだろ、こちらはたった二人しか戦えないなんて。ありえないよ」
「ですよねえ」
とりあえず船を出すカンディードたち。
ところが危険な海域に入ってしまい、激流に飲み込まれ、カンディードとカカンボとカエデ嬢は、エルドラドという黄金都市にたどり着いた。
「ここの土地はびっくりです、だんな様」
カカンボは、貴重な宝石類を石ころのように蹴る子供たちを見て、仰天した。
カエデ嬢は特に驚きもせず、ただ眠るための場所を必死で探していたのだった。
「カエデちゃん・・・・・・眠いの?」
うなずくカエデ嬢。
「しょうがないなぁ。背負ってやるよ」
その様子をカンディードはただただ、不思議そうに見ているだけ。
「なんだかカカンボよ、お前、ほんとに、らしくない男になったね」
「えー、そうですかぁ? 気のせい、気のせい。ははは」
「なんというか・・・・・・四六時中にやにやしているし。わけでもあるか、どこかぶつけたんじゃないかと、心配になってきた」
「えっへっへっへ、だんな。だいじょうぶですよ。私はこれでも普通ですから」
「いや、やっぱり変だよっ」
といった会話をしていると、この国の偉い先生のような、ぼろをまとった賢者が現れ、カンディードは通訳のできるカカンボに話をさせると、どうやら王様にあわせてもらえるということらしかった。
「すばらしい。王様に会えるなんてこと、めったにないものね。カカンボ。それにしても先ほどの賢者先生の話だが、まったく驚くことばかりだよ」
「そうでしたねえ。なんでも、宿屋の主人が言うには金や宝石など、くず同然で役に立たず、あの先生によれば、坊さんも神様に祈るときの儀式などもまるきり必要なしと来た。いやはや、実に愉快な国ですね」
「さて」
とカンディードはあごに手を当てて、
「ここの王様とやらはいったい、どんな話を聞かせてくれるのだろうな。楽しみだ」
カカンボの背中で眠りこけているカエデ嬢を無視して、カンディードは周りのことに気をとられて夢中で歩き回り、砂金集めに集中した。
やれやれ、とカカンボはカエデ嬢の重さに耐えつつ、城への階段を一歩、また一歩と進むうち、昨夜の酒が今頃回ってきて、がっくりと膝をついた。
「だいじょうぶかい。カカンボ」
「き、気にせずお先に・・・・・・」
とカンディードを先にいかせようとするが、
「何を言うんだ。お前がいないと言葉が通じないだろッ!」
カンディードがツッコミを入れた。
「ああ、そうでしたね」
カカンボはよっこらせ、と立ち上がり、なんとか無事に王宮へたどり着いた。
またエルドラド編ですな。
今回の王様はつまようじくわえてませんから、残念!
て、なんだかなー(汗。