やけじゃないもん!
さて、処刑を免れたカンディードは、宗教裁判長に復讐せしめんとイタリア式銃剣を構えた。
「あいつめ、あいつめ、あいつめ! こうなりゃ犬死なんてごめんだね!」
――いざとなれば撃ち殺してくれよう!
といった勢いでカンディード、裁判長のもとに殴りこもうとするが・・・・・・。
「おまち」
老婆がカンディードを呼び止めた。
「なんです、おばあさん! 僕は忙しい身の上でしてね」
「承知しているよ。だからこそ、早まってはならないのだ」
老婆はカンディードを手招きし、ある人物に会わせるといった。
それがカンディードにとって、最愛の人であった、と知ったとき、カンディードは有頂天になり、その人の名を呼んだ。
「キュネゴンド姫! ああ、会いたかった、ずいぶん探したんだよ!」
キュネゴンド姫とカンディードは喜びの再会を果たす。
ひしと抱き合い、口付けをする。
「ひどかったのよ、あれからね、カンディード。あれから私たち、どんな目にあったと想う」
姫が言うには、あのあと、カンディードが追い出されてからブルガリアの兵隊がウエストファリアを包囲し、キュネゴンドをきずものにし、隊長が自分の女にしたのだといった。
「なんですと、姫、ああ、なんてけなげだ」
「お兄様たちも無事ではすみますまいよ。きっと死んでおしまいに。だって両親は目の前で殺されたんだから」
そこへ裁判長がやってきた。
ユダヤ商人ドン・イサカールを連れて。
このユダヤ人はキュネゴンドをこの裁判長と折半して抱こう、と契約し、姫にあんなことやこんなことをしようとたくらんでいたのだった。
「げへへへ、その男を連れ込んでいったい、何のおつもりだい」
カンディードは、勢いあまって裁判長を撃ち殺し、ついでにイサカールも撃ち殺してしまった!
「ああ、私のかわいいカンディード! なぜ撃ち殺すのです。マリア様が見ているというに」
そんなことを言っている場合ではないとばかり、カンディードは老婆に連れられて馬で逃げ出した。
イサカールと裁判長の死体は、ゴミの山に捨てられたらしい。
一方でカカンボは、カエデ嬢と抱き合ったまま、どうすればよいかを悶々と考え込んでいた。
「ねえ。思ったんだけど、あなたが好きなようにしたらいいのではない」
カカンボは驚いてカエデ嬢を見た。
「なんだって、悪ふざけはよしなよ」
「ふざけてないもん、まじめよ、わたし!」
――コイツ、やけになってるだろ・・・・・・。
という気持ちがカカンボの心を支配していた。
カカンボはだが、馬のひずめの音を聞くと、急いで飛び上がり、カエデちゃんを起こした。
「カンディード様!」
馬で走り抜けるカンディード。
カカンボの腕を握り、後ろに軽々と飛び乗ったカカンボを見届けると、兵隊たちを蹴散らした。
「うりゃあ! 逃げるぞ、カカンボォ!」
砂塵を上げてカンディードが怒号を上げる。
カカンボは迫りくる兵士たちに銃剣で乱射を繰り返し、カエデちゃんを抱き上げて兵隊の馬をかっぱらった。
「へっ、悪く思うなよ」
その様子にカエデちゃんはすっかり酔いしれ、
「カカンボさん、なんだか気持ちいい光景ねぇ」
などと抜かす。
かくして、カンディードとカカンボとキュネゴンドと老婆と・・・・・・カエデ嬢は、その場を抜け出したのだった。
カエデちゃんの「そんなことないもん」って顔が浮かびそうですなぁ。
って、わたしゃエロ親父か 汗