謎の銀時計
「ああ、ウェストファリアは地上の楽園だった。あそこにいれば、飢えることもなかっただろうし。ああ、愛するキュネゴンドよ! ぼくは、いったいどうすれば」
後悔先に立たず。
あの時点でもしも坊やが、だまされたことを知っていたら、こんな事態にならずにすんだのに。
「パングロス先生にも会いたいなあ」
ところがパングロスもカンディード同様、パケット嬢に裏切られて城を追放されたと後で知ることに。
それはさておいて、カンディードはもともと哲学者を目指す少年であり、戦争には、からっきし興味などない。
おまけに戦士たちは、敵も見方も区別することなく、娘たちを襲っては欲望を満たす。
そのあとの美しくないことといったら・・・・・・。
内臓は飛び出て、たすけてくれと泣き叫ぶ、下半身のちぎれた娘たちの声がカンディードの耳に残される。
「も、もうたくさんだ!」
カンディードは耳を押さえてその場から逃げ出すと、バプテスト(ルター派から分かれた一派)のジャック先生と出会い、何とか助けてもらった。
その途中でパングロスとも再会するカンディード。
「もしよかったら、織物工場でも紹介するよ。君たちが生活していけるように、私が配慮してあげよう」
ジャック先生のような善良な人に出会うと、カンディードもパングロスもほっと胸をなでおろした。
ジャック先生のもとには娘がひとりおり、顔立ちは東洋人のようだった。
「ジャック先生、その子は娘さん?」
「いいや、じつは彼女は素性がわからない娘なんだよ・・・・・・言葉もあまり通じないしね。もし、言葉が通じたら、助かることこのうえないが」
ジャック先生は彼女が持っていたという銀色の懐中時計をカンディードに見せた。
「私の家は時計職人をしていたが、私だけが宗教家になってしまったんだ。なのでこれは、私の祖先が作ったものだよ。しかしなぜにこの子がそれを持っていたのかが疑問でね」
「言葉の通じる・・・・・・」
カンディードが何かしら考え込んでいると、娘は船の用意をしたので出かけようと身振りですすめた。
「船で海原を越えようというのかい。そいつは無茶だ。だいいち、船乗りを雇う余裕なんか僕にはないよ」
「いやまて。ワシにはパケットから盗んできた宝石がある。こいつで雇おう」
パングロスがポケットから赤いルビーを数個、カンディードの鼻先に突きつけた。
「さ、さすが先生」
カンディードは大喜びで船乗りを雇い、リスボンへと向かった。
ちと無理やりかな。
しかしまあ、どうにかなるだろう・・・・・・!?
ここでジャック(ルソー)とパングロスの問答が見えるんですが、そこは、はぶきましょうや。
思想入れちゃうとまた複雑になりかねないので。