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やり直せるなら

「最近、アヴェマリアっていわなくなったのね」

 カエデ嬢がベッドから起き上がってカカンボに尋ねた。

「ああ。ちょっとね」

 それに、とカエデ嬢は視線を伏せた。

 ――それに、あんまり顔もあわせなくなってしまったし。

 カカンボは普段、どこかに出かけてカエデ嬢のところに来る回数が日に日に減少していった。

 ――おかしいの。

 と、カエデ嬢がくやしそうに笑う。

「あなた。私が歩かなくなってから、ちっとも顔を見せないじゃない」

 カカンボは何も言わずにいた。

「答えて。私が歩けなくなった理由だって、ちゃんとあるんでしょ」

「ねえよ、そんなもん」

 乱暴に言い放ち、カカンボは部屋を出て行く。

 ――結婚なんて、するものではない。

 カエデ嬢は結婚を果たしてからというもの、孤独に襲われてばかりだった。

「誰か言ってたな。孤独が怖いなら結婚するなって」

(注;たぶんショーペンハウエルだった気がする)

 ――カエデちゃんは、俺が守るって言ったあの言葉、信じるべきではなかったのかしら。 

 きっと浮気だとかんぐっていた。

 カカンボは、なにか隠している。

 

 歩きたい。

 もう一度歩きたいよ・・・・・・。

 それに加えて、最近ではやたらと背中に痛みが走る。

 なんとなく、もうじき死期が近いのではないか、と予感していた。

 ああ、そうか、とカエデ嬢は思った。

 だからつらいんだ、あのひと。

 医者に手遅れだとでも言われて、自暴自棄になっているんだろう。

 本当につらいのは誰かってこと、わかっている癖して。

 あんまり激痛でつらいから、と睡眠薬を大量に飲み干し、飲んで数分もたたぬうち、睡魔が襲ってきた。


 カエデ嬢はそのまま、瞼を閉じて、二度と開くことがなかった。




「この時計はきっと、俺とカエデちゃんの人生を狂わせるものだったんだ。決して噛み合わない歯車としてね」

 カンディードと再会したカカンボは、酒におぼれながら愚痴をこぼした。

「そんなことってあるのかな。僕は運命なんてもう信じたくないけど。それにしても、彼女が死んでしまったなんて、僕としては信じたくないね」

 カカンボは、ふ、と笑うだけだった。

「なあ。どうして彼女のこと、わかってやれなかったと思う」

「え?」

 カンディードが珍しく説教をといた。

「僕、最近思うんだけど、カエデちゃんは愛情を信じるほうじゃなかったように思うんだ。いわゆる刹那主義、ってやつで、その場限りの愛情だけあれば満足するってあれね。楽天主義とも少しだけ似ていそうな」

「・・・・・・なるほど」

「わかるフリをしすぎたんだよ、お前は」 

 それを聞くと、カカンボはそっぽを向いた。

「もしも、時間が戻って人生をやりなおせるなら、いつに戻りたい・・・・・・?」

 カンディードが金時計をもてあそびながら尋ねる。

「そうだな。私なら、あの子に出会った瞬間からやり直したい・・・・・・」

 カカンボは机に突っ伏して嗚咽を漏らす。

 カンディードはカカンボの背中をさすって、やりきれない微笑を浮かべた。

「お客さん、看板が近いですよ」

 と店のマスターがカカンボを起こしたが、いつまでも泣き続けていた。



 カカンボが気がつくと、そこは水の都ヴェネツィアだった。

 抜けるような青空と白い雲、それに潮の匂い。

 目の前の波止場に、黒い髪の笑顔が印象的な娘が立って、カカンボのほうを見つめていた。

 カカンボは懐かしさがあふれだし、涙が止まらないまま、歩き出す。

 彼女もカカンボに歩み寄った。

「俺、カカンボって言うんだ・・・・・・前に会ったこと、ない?」

 彼女は頷いた。

「あるよ。だって私たち、運命でつながってるはずだから・・・・・・」

 彼女は銀色の時計と、エルドラドの王様にもらった指輪を見せた。

 ――ああ、そうか、そうなんだよな! 俺たち。

「こんなこといったら笑うかい。俺、きみをずっと愛していたんだ」

 彼女は、いいえと答えた。

「私が笑うときは、うれしいからよ、今、笑ってるのは、うれしいせい」

 


 この時計は、人生をやり直せる時計だったのだろうか。

 リセットボタンを押して、やり直すための・・・・・・。

   

終わり方が不自然だったなー。

ほんとはね、明るい話にしたかったんだけど。

仕方ないな・・・・・・。

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