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なくした思い出

 海岸に打ち上げられたカエデ嬢。

 ポコクラントというヴェネツィアの領主に拾われていた。

 カエデ嬢はテーブルに置かれたカカンボのヴァイオリンを、不思議そうに眺める。

「あんたと一緒に流れ着いていたよ、随分粗末なヴァイオリンじゃないか。つまらんね」

 ポコクラントは若い公爵のわりにずいぶんなコレクターで、ラファエロやミケランジェロ作品やウェルギリウス、キケロの詩集などを山ほど持っていた。

 それなのに満たされないと嘆く。

 ポコクラントはカエデ嬢を見初め、

「お前こそ、わしにふさわしい」

 などという。

「どうして」

 と尋ねるカエデ嬢。

「ふん。芸術家魂に、理由は要らぬ。ワシはお前がほしい、それだけだ」

 変わり者領主と噂されているポコクラントは、すっかりカエデ嬢がお気に入りになった。

 しかしカエデ嬢は、なぜか手作りのヴァイオリンがいとおしくてたまらない。

 ポコクラントはつまらないものなどに執着するといって、海に投げ捨ててしまった。

「あ・・・・・・」

 なぜだか、胸が張り裂けそうなほど痛んだ。

 あの中にはたくさんの思い出が詰まっている、そんな気さえした。

 ポコクラントはカエデ嬢が腰から下げている金の時計にまで手を伸ばすと、それを欲した。

「ふむ、なかなかいいものだ」

「それだけは返して!」

 だが、大事な時計を奪われてしまい、今度こそ涙があふれんばかりに流れる。

「私は想い出せないけど、時計とヴァイオリンには消せないなにかがあったのに・・・・・・」

 カエデ嬢は頭を強くぶつけた衝撃で、一時的に記憶を失っていたのだった。

 そしてポコクラントを憎んだ。



 それから一週間ほどしてのこと。

 カンディードとマルチンがポコクラント邸を訪ねてやってきた。

 そこでカエデ嬢を見つけると、カンディードは驚き、

「カエデちゃんじゃないか。いったい何をしているの。カカンボはどうしたね」

 と矢継ぎはやに尋ねる。

 しかしカエデ嬢は、カンディードのことも、カカンボのことも思い出せない様子だった。

「記憶喪失だね」

 マルチンがこともなげに言った。

「よくあるこってす」

「そんな。カカンボが聞いたら、きっと悲しむよ・・・・・・」

「カカンボ、って誰?」

 首をかしげるカエデ嬢。

 カンディードは頭を抱えて、記憶を取り戻す方法を考えてほしいとマルチンに泣きついた。

「そうですね。ヘルメス学でもなければ、こういう領域です、むずかしいでしょうな」

 マルチンがうなった。

「ヘルメス学? 錬金術とか魔術かい。僕はそちらは苦手だ」

「ふん、方法ならわしが知ってる」

 ポコクラントが口をへの字に曲げた。

「お、教えてください」

「ただではね。そうだな、あの娘をわしによこすなら、どうだ」

 むちゃくちゃな契約だった。

「それだけはお断りだ。だってあの子には、未来を決めた男がいる」

「だったら」

 ポコクラントはフルーレを突き出し、

「その男を連れてこい。決闘し、そいつが勝ったら彼女をくれてやろう」

「の、のぞむところ」

 うっかり代理で返事をするカンディードに、マルチンはすっかりあきれ果てた表情をする。

「あんたのやることはどうしてそう、無茶ばかりだね」

「あれ以外に答えようがなかったんだよっ。我慢してくれ」

「我慢するのは、あの子のほうでしょう」

 マルチンはあごで彼女のほうをしゃくる。

 カエデ嬢はぼんやりと窓から海を眺めていた。    


記憶喪失ネタまたつかっちゃったよ・・・・・・。

ポコクラントって、悪役ではなく、たんなる根暗なおっさんなのに・・・・・・。


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