時計が告げる運命
なぜカカンボにしか、この土地の言葉がわからないか?
それはカカンボがツクマンの生まれで、なぜかペルー語しか話さない土地だったからである。
「私が通訳をします」
と、彼が懐かしい故郷の言葉に触れたことで、興奮し、通訳を買って出た、ということだ。
しかして、このエルドラドにおいては、もうひとつ謎があった。
それは、カカンボの持つ金時計と、カエデ嬢の持っていた銀時計のこと。
互いに交換をして持っていたふたりだったが、王は二つの時計を見つけて大いに喜んだ。
「おお、それはまさしく、わが国の国宝じゃ。金時計には鳳凰が、銀時計には孔雀の印が刻んであったろう。それはうちの祖先がルネサンス時代、錬金術師につくらせた貴重なもの。おおいに、結構、結構。その二つの時計は幸せを与えてくれるぞ。よかったら、これももって行け」
王様はカカンボにルビーの指輪、カエデ嬢にはムーンストーンの指輪を与えて、
「その赤い石は賢者の石、もう一方の月の石は、口に含んで祈りをおこなったとかいう神官の伝説がある。もしかしたら、お前さんがたのどちらかが、その子孫かも知れぬのう」
「はあ・・・・・・」
カカンボとカエデ嬢は、顔を見合わせた。
王様は大変喜び、ご馳走をたくさん用意してくれ、寝る場所まで貸し与えてくれ、カエデ嬢はムーンストーンを大事そうに抱えた。
「なんだか眠れそうにない」
この国には、なにかのあった気がした。
懐かしいような、あるいは、第二のふるさとといった気が。
竪穴式住居のような部屋を出て、夜風に当たっていると、カカンボも眠れないのかカエデ嬢の肩をたたいた。
「あ、カカンボさん」
「俺も、なんだか、ちょっと」
照れくさそうに微笑んで、池に映る月を眺めていた。
「懐かしいよ。この空気がとても」
「それで眠れなかったの?」
「まあね。カエデちゃんもだろ」
うなずいたカエデ嬢を見て、くすりと笑うカカンボ。
夜風がカエデ嬢の髪をさらさらと受け流す。
カカンボはいびきをかいて寝ているカンディードをうらやましいと思いつつ、肩を並べて一緒に立っているカエデちゃんを、愛しげに抱き寄せる。
「な、なんだか、今日のきみは・・・・・・」
カエデ嬢はカカンボの指先がかすかに震えていることに気づいた。
「なあにぃ。緊張するなんて、カカンボさんらしくないよ」
「そ、そうだね」
カカンボがカエデ嬢を抱きしめている場面に、がたん、と大きな物音をさせながら、カンディードが寝ぼけてカカンボの肩をゆすり、
「なあ・・・・・・カカンボ、メシ・・・・・・」
といったのをきっかけに、幻想的な夜は終わりを告げた・・・・・・。
まったく無頓着なんだから、カンディード!
カカンボ、やっぱりかわいそう・・・・・・。