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黒刀のピンク・ラビット  作者: のら


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第4話 スカイダイバー

 ――翌日、午後

 ワンダーランドのカウンターには黒髪、黒い瞳の少女が頬杖をつきながら、どこに合わせるでもない視点を泳がせている。


「アリス! ニューロテックのサイバーアイはどこだ」

 店内にいた黒人の男が棚の奥から叫ぶ。


 ――アリス。

 ピンク・ラビットはジャンクショップの客たちに、そう呼ばれている。


「……その向こう、B5の棚のとこ」

 無機質なアリスの声が店内に響く。


 男は目当ての物を手にして、カウンターに、もたれかかる。

 アリスは手渡されたアイテムを紙袋に入れ、決済機を差し出す。


「マッドはどうした」

「裏にいるよ」


 決済完了の表示が空中に浮かび上がる。


「アリス。ジジイにこき使われるのも大概にして、ちっとは遊べよ。その義体は『若造り』じゃねえだろ」


「気が向いたらね」

 そして、客の背中を見送ったアリスはまた一人になった。


 しばらくすると、手術室の扉が開いた。

「次の戦闘用に調教してやる。店閉めて、こっちに来い」


 マッドの、その言葉に、アリスは看板をCLOSEに変え、店の奥へと消えていった。



 ◇◇◇


 第10セクター 夜。


 ネオンが雑居ビルを怪しく照らす街並みの中、時折、誰も気付かない程の空間の歪みが見えた。

 野良猫が耳を立てて、その歪みを睨む程度。路上に座り込む連中は気付かない。


 酸性雨が降りしきる路上、数人の男たちが立つビルの近くで、その歪みは立ち止まった。

 男たちは、しきりに辺りを気にしながらも、その場を離れる事はない。


 空間の歪みがチリチリと解ける。

 そこには光学迷彩が解除され、ふざけたウサギのパーカーを着て、フードを被ったアリスがいた。


「……金龍会」

 アリスが小さく呟く。


 それと同時に電子網膜が光り始め、ピンク色の瞳に変わり始めると、体内のナノマシンが戦闘シークエンスへと移行する。

 髪の毛の黒い色素が抜け落ち、アッシュブロンドにピンクメッシュが現れ、体のバイオサーキットも虹色に輝き始めていた。

 そこに立っていたのは、アリスという擬態を解いた、ピンク・ラビットだった。



「金龍会会館」――そこは日本系マフィア「金龍会」が所有する事務所ビルだ。

 最上階の会長室と、そこに続く前室には強面のスーツ姿の男たちや、末端のチンピラたちが多く集まっていた。

 語気を荒げて舎弟に指示を出す者、拳銃に弾をこめる者など、ビル全体が殺気立っていた。


 そんな中、前室に置かれた革張りのソファーにポツンと周りを気にする様子もなく、電子網膜をうっすらと光らせながら、一点を見つめている少女が一人。


 明らかに場違いな異質物がそこにいた。


『保護対象:金龍会会長―1名、バイオ認証……CLEAR』

『正面、裏口セキュリティカメラ、ハッキング……CLEAR』

『サーモカメラ、ハッキング……CLEAR』


 ピンク・ラビットは、タスクの最終確認と、ビルの監視カメラをハッキングし、全方位監視で敵の襲来を待っていた。



「兄貴、あれが伝説の殺し屋って本当ですか、どう見たって十代の売女にしか見えねぇ」


 胸元に金のブレスレットをチラつかせる安っぽい紫のシャツを着たチンピラ風の男が隣の男に話しかける。


「俺も詳しくは知らされてねぇが、叔父貴が『請負屋』に依頼したらしい、ジャイルブレイカーの間では都市伝説になってる女だって話だ」


「都市伝説だか、なんだか分かんねぇっすけど、あの女、いい脚してやがんなァ……」


 チンピラは欲情を隠さず言葉にする。


「兄貴ィ、俺が本物の殺し屋か確認しますよ、違ったら、そのままヤっちまっていいっすよね」


「吉野、そういや、お前ロリコンだったな。構わねぇけど、タマ取られんなよ」

「兄貴」は口元を歪ませて笑っていた。


「おい、女ァ! 誰だか知らねぇけど、エロい恰好しやがってよ。俺がたっぷり可愛がってやるから服脱いで、ケツだせよ」


「吉野」がシャツを脱いで、ピンク・ラビットに近づこうとした瞬間、男の電子網膜にノイズが走り、男の視覚が一瞬、砂嵐のように閉ざされる。


「あァ?こんな時にエラーかよッ!これだから安モンは――」


 視界が戻った瞬間に、背後の兄貴の怒鳴り声が部屋に響く。


「おいッ!!止まれ、吉野ォ!!」


 その言葉にビクッと吉野が立ち止まると、男の喉元には黒刀「ブラックアウト」の切っ先が向けられていた。


「――ッ、じ、冗談だ……」

 吉野は掠れるような声を絞り出した。


「……それは依頼にない」

 ラビットは無表情のまま呟いた。


 そのやり取りの直後、ドォォンッという爆発音と共に、マフィアが入るビルが騒がしくなった。


 階下では、男たちの叫び声と銃声が鳴り響いた。


「ジャ、ジャイルブレイカーが現れたッ!!」

「オヤジを守れッ!絶対に獲らせんじゃねぇぞ!!」

「ぶっ殺してやらぁッ!!」


 誰かの叫び声に混じって、銃声とうめき声、そして断末魔がビルを満たし、男たちは武器を手にして、襲撃者を迎え撃ちに走った。


「アハハハッ、金龍会ィッ!!――かかってこいよォッ!!」


 襲撃者――スカイダイバーはタクティカルジャケットにハーフパンツ細身のシルエットに面頬タイプのハーフメカヘッドの出で立ちで現れた。


「てめぇ、誰だ、このやろうッ!!」


 日本刀を振りかぶって襲い掛かるマフィアに、スカイダイバーは右手を上げて壁を指差すと、突如、横から強い力で叩きつけられたように壁に激突する。


「――がッ!?」

 次は天井を指差すと、スカイダイバーは軽く飛び跳ねた。

 次の瞬間、重力が天井を向いたように、マフィアたちは浮き上がり、天井に激突する。


「ハハハ、這いつくばっちゃってダッセェなァ、おいッ!!」

 天井に逆さ立ちするスカイダイバーは腹を抱えながら大笑いする。


「てめぇらみたいな、弱いもんイジメで、金を巻き上げるしか脳がねぇヤツらは、そうやって地を這いずり回るのがお似合いだなァ、ハハハッ!」

 スカイダイバーは重力を上下左右に変化させてマフィアを翻弄する。


「まァ、そろそろお前らは死んどけよ、オレ、おまえらの親分に用事があんだわ」

 スカイダイバーはそう言うと、マフィア達の中心にいた男を指差した。


「は~い、ソイツんトコに、みんな集合~ッ!」

 その言葉を合図に、中心の男を重力点とし、周りの男たちが引き寄せられる。


「――ッ!!お、おい、どうなってんだよ!!」


 スカイダイバーは両手を前に差し出し、手を叩いた。


「はい、ボンッ!!」


 グッシャッ!!


 スカイダイバーは、まとめてマフィアを殺害。団子状態となっていた男たちが、見えないプレス機に潰されるように圧縮され、そこには男たちだった肉の塊と大量の血だまりができていた・


「このバケモンがッ!!死にやがれ!!!」

 その背後にいたマフィアが遠距離からマシンガンを放つ。


「……ビビり野郎がよ」

 そう呟くと、スカイダイバーは指先で上下左右に重力を移動させ、重力の強弱を付けることで銃弾の威力を弱体化させる。

 そして、スカイダイバーの眼前で完全に勢いを失った銃弾は力無く床に散らばる。


「……は? な、なんだ、そりゃあ」

 マフィアは目の前で起きたことに呆然と立ち尽くす。


「銃弾なんてさ、銃が無くても撃てるんだぜ」

 不敵な笑みを浮かべながら、落ちた銃弾をスカイダイバーが拾う。

 それを投げつけ、重力方向をマフィアにすると、ただ投げられただけの銃弾は加速し、射殺する。


「ハハハハ、楽しくてしょうがねぇよ、今日で金龍会は解散、ここはオレのシマにすっから安心して死ねよ、ハハハハッ!!」


 スカイダイバーの狂った笑いが響く中、ピンク・ラビットが無表情で現れた。


「ハハハ……、あ?」

 スカイダイバーはマフィアだらけの中にひとり異質な存在に黙る。



「お前、雇われだな?……その容姿、もしかして都市伝説のピンク・ラビットってヤツか?」


 ピンク・ラビットは無言のままだ。


「――チッ、噂じゃセクシーな美女だって聞いてたが、スラムで売りやってるメスガキと変わんねぇじゃねぇか」


 ピンク・ラビットの容姿にガッカリしたスカイダイバーは、そう吐き捨てるように呟いた。

 そして、右手を突き出す。


「ガキには興味ねぇから、とりあえず死ね」

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