1-2 友達
インフル昨日平熱になったから明日から学校いけるンゴ
胸が焼けるように熱い。
呼吸が荒い。
なのに――頭のどこかは氷のように凍りついていた。
影の男がこちらを見て、低くつぶやく。
「……目覚めた、のか……“氷帝”が……」
「だが、不完全…だな…」
その声には嘲りと恐怖が同居していた。
胸の奥から噴き出す冷気は、もはや痛みに近い。
震える拳。荒くなる呼吸。
だが、その震えは恐怖じゃない。
――殺す。
その思考だけが、研ぎ澄まされた氷刃のように頭の中にあった。
左腕だけでも、こいつを討つには十分だ。
「お前を倒すには……これで十分だ」
自然と続いたその言葉は、確かに俺のものなのに――
俺じゃない“もう一人の俺”の声でもあった。
影の男の身体がビクリと震える。
視界が青白く染まる。
別世界で“氷帝”として戦っていた記憶が一気に開いていく。
「貴様……その眼……!まさか……!」
遠い記憶が胸に流れ込む。
炎帝、水帝、雷帝、風帝、岩帝――
共に戦った仲間。
彼らも、この世界に来ているのだろうか。
――影の軍勢を薙ぎ払った氷の王としての記憶。
「お前らの王を殺したのは……この俺だ」
自分の声とは思えないほど冷たく響いた。
影の男が絶叫する。
「黙れぇぇ!!貴様ごときが!!我らの王に勝てるはずが!!」
影が槍へと変形し、俺へ突き出される。
しかし――動いたのは俺じゃない。
「遅い。」
氷が勝手に反応した。
まるで俺を守る“意志”があるかのように。
槍の軌道に沿って、氷壁が瞬時に形成される。
ズガァァァン!!
氷壁が砕け散る。だが俺は微動だにしない。
影の男が後ずさる。
「なんだ……このレベル……覚醒したばかりのはず……!」
俺は静かに歩く。
足元に氷紋が広がる。
左手を上げる。
「――凍てつけ。」
パァンッ!!
影の男は下半身から瞬時に凍りついた。
「や、やめ……!」
俺の瞳は細められたまま。
「母さんを殺した瞬間、お前の未来は決まった。」
「ひ、!!」
「……あぁ、そうだったな……」
影を見下ろしながら呟く。
「俺は、お前みたいな雑魚からしたら――絶対に会いたくない相手だったよな」
影の男が怯え、叫ぶ。
「待て!話を――!」
「もう遅い。」
氷が締まり、影の男を完全に凍結した。
――バキィン。
砕け散った破片が月光に反射して落ちていく。
胸の熱がすっと消えて、意識が暗転する。
最後に聞こえた声は、俺の中の、別の誰かの声だった。
《聖杯を守れ。戦争が始まるぞ、晴。》
力が抜け、俺の身体はゆっくりと倒れ――
暗闇へ沈んでいった。
どれぐらい寝てた——
——どこか遠くで、電子音が聞こえた。
「……起きてる?大丈夫?」
まぶたの裏に光が差し込み、ゆっくりと目を開ける。
白い天井。
そして、ベッドの横で覗き込む誰かの顔。
「起きた!よかったぁ……ほんと死んだかと思ったよ……」
明るい声の主は、黒髪を短くした少年だった。
見た感じは普通の高校生だが……瞳だけが妙に鋭い。
「……ここ……どこだ……?」
俺の声はかすれていた。
少年は椅子に腰かけながら答える。
「特務庁の、覚醒者隔離ルーム。君、昨日の夜……えげつない戦いしただろ?」
特務庁。
覚醒者を管理する政府組織——ニュースで聞いたことがある。
少年は続ける。
「僕は 相馬 悠斗。
同じ高校一年で、三日前に“覚醒”したんだ」
「覚醒……?」
「そう。君もだよ。昨日の反応、Aクラス以上って騒ぎになってた」
Aクラス……?
俺は何も実感がないのに、胸がざわつく。
悠斗は気まずそうに頭をかいた。
「いや、ごめん。僕はCクラスだからさ…全然すごくないけど……
それでも一応、覚醒者同士ってことで……気になって来たんだ」
俺を励まそうとしているのが分かった。
能力ランクはCでも――
人としては、普通に良い奴だ。
悠斗は小声で続ける。
「昨日、君の家に“影核”が出たって聞いて……
しかも1人で倒したって……マジなの?」
「…………」
影核。
母の倒れた姿。
胸が冷たく締め付けられる。
悠斗はハッとして、慌てて言った。
「あっ……ごめん!思い出させるつもりじゃなくて……!」
俺は首を振る。
「……いいんだ」
悠斗は,俺をしばらく見ていたが、やがて苦笑した。
「俺さ、Cクラスのくせに覚醒してからずっと怖かったんだ。
でも、君を見て思ったんだよ。
“強い奴の隣にいたほうが生き残れそうかな”って」
「おい……それ理由ひどくないか」
「いやいや!褒めてるんだって!」
明るく笑う悠斗を見て、不思議と緊張がほぐれた。
そして、何気なく悠斗は言う。
「聞いた?聖杯。
数日以内に、全国の学園に現れるって噂。
……軌跡学園も例外じゃないって」
胸の内側に何かがざわめく。
「……戦争が始まるってことか」
「うん。僕みたいな雑魚でも呼び出されるくらいには、ヤバい状況なんだと思う」
悠斗は立ち上がり、俺に手を差し出した。
「紀晴。
よかったら……僕と組まない?
弱いけど、足は引っ張らないように頑張るよ」
Cクラスの力。
だけど、まっすぐな意志だけは本物だ。
俺は、その手を握った。
「こちらこそ……よろしく頼む、悠斗」
悠斗が照れくさそうに笑う。
「よし!じゃあ今日から俺らチームだな!」
この時はまだ知らなかった。
この出会いが、
のちに《軌跡学園守護チーム》の始まりになることを。




