表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5 白雪姫は美しく育ちました

 白雪姫は、7歳のころには、それはそれは美しく成長していました。


 ゆるく波うつ黄金の髪に、神秘的な深く黒い瞳。


 真面目な顔をしていると、こわいくらい完璧に整った顔立ちです。


 ですが、庭で花を見たり、父王にお目通りしたり、うれしい時には、ぱっと笑顔が輝きます。


 そのとてつもない愛らしさ。

 雲から光が差し込むような、春の息吹が花々を咲かせるような、見る者が心を奪われずにはおれない魅力に満ちているのです。


 城の者たちも、白雪姫という新たな美に触れて、王妃よりもそちらに視線が向くようになっています。


 父である若き王も、彼女の笑顔に夢中です。


 王は背が高く、騎士のように鍛えられた身体と黒い髪の美男子で、多くの大臣や役人を従えるさまは立派な君主そのものです。


 この日も王は家族と一緒に食卓を囲んで、楽しい団欒の時を過ごしていました。


「姫や、隣国から取り寄せた人形だ。

 気に入ってくれるかな?」


 その言葉を合図に、召使いの1人が布に包んだ美しい人形を姫に捧げました。


「わあ、おとうさま、ありがとうございます!」


 姫の笑顔と歓声に、王も召使いたちも目を細めます。


「奥や、先日臣下が献上してきたエメラルドだ。

 指輪に仕立てさせたが、どうかな?」


 別の召使いが進み出て、金細工の小箱に入った指輪を王妃に捧げました。


「まあ、なんと素晴らしい……。

 陛下、嬉しゅうございますわ」


 王妃の青い瞳も喜びに輝いています。

 

「王妃より先に、白雪姫に贈り物をしたな」


 食堂の隅に立って見物しているヤーコプが、冷静に指摘しました。


 手帳を取り出して、今のやり取りを素早く綺麗な文字で書き留めています。


「まあ指輪の方が高価なんだし、どっちの顔も立ててるんじゃないの?」


「問題は、王妃がそう思うかどうかだな」


 この世界の人間には認識されないのをいいことに、兄弟は好き勝手に言っています。


 王が、臣下にはまず見せない満面の笑みを白雪姫に向けました。


「白雪姫や、いずれは父がお前に相応しい立派な夫を探し出してやるからな」


 ですが姫は人形を抱えたまま、その言葉に泣きそうな顔になります。


「わたし、およめに行きとうございません!

 おとうさまと、けっこんしとうございます!」


「ははは、そういうわけにもいかぬのだが。

 嬉しいことを言ってくれる」


 王様も普段の威厳はどこへやら、もう顔がゆるみっぱなしです。


「ほほほ、白雪姫はお父様が本当に好きなのね」


 王妃は2人を眺めながら、微笑ましそうに完璧な笑顔を浮かべておりました。


「……あれは目が笑ってないというやつだね」


 数秒ほど微笑んでいましたが、楽しそうに語らう夫と娘を凝視したままスッと表情が消えました。


 王も召使いも、白雪姫ばかりを見ていますので、誰もそれに気づきません。


「今までずっと、自分の美貌がもてはやされていたんだ。面白くはないだろうな。

 僕たちも食事にしよう」


 ヤーコプは食堂の片隅で、旅行鞄(トランク)から小さなテーブルと椅子を取り出して置きました。明らかに鞄より大きなものでしたが、兄弟は気にした風もありません。


 テーブルは木でできた質素なものですが、ただのテーブルではありません。


 他の小世界『テーブルやご飯のしたくと、金貨を生むロバと、棍棒よ袋から出ろ』に登場する、魔法の品の1つなのです。


 彼らは、かつて旅した小世界から便利な道具を抽出して実体化させ、使うことができるのです。


「テーブルや、食事のしたく」


 ヤーコプが言った途端に、テーブルの上に美味しそうな、様々な食事と飲み物が現れました。


「もうお腹ぺこぺこだよ」


「食前の祈りがまだだぞ、ヴィルヘルム」


「は〜い」


 ()()グリム兄弟は()()()()()ほど信心深くはないのですが、それでも短くお祈りの言葉を唱えてから食べ始めます。


 兄弟はしばし無言で、少年らしく旺盛な食欲を見せていましたが、食事の終わりごろにヴィルヘルムが口を開きました。


「それにしてもさ、実の母親が娘に嫉妬するってどうなんだろうね」


「残念ながら、わが子が可愛くないというのは、現実にもある話なのだろうな。僕たちには分からないことだが。

 それに王族となると、実際的な利害が生じる。

 今僕たちは、王の寵愛というかたちで、政治的な実権が親から子に移行していく過程を見ているわけだ。

 この時代だと、たとえ(きさき)であっても、政治的に失脚すれば命を奪われることもあるのだから、これは文字通り死活問題になる」


 ヤーコプが新鮮なミルクをカップに注ぎます。


「ああ、白雪姫のラストは、王妃は焼けた鉄の靴を履かされて死ぬまで踊るんだよね。あれも旧世代が敗北するってことなのかな。

 よく考えたら、あれって白雪姫の証言しか証拠がないのに死刑になるんだよね?

 王妃様なのに酷い話だ」

 

 ヴィルヘルムは言って、切ったパンにバターとハーブ入りチーズ(クロイターケーゼ)をのせて、かぶりつきました。


「城を捜索して、毒リンゴを作った魔女の部屋を見つけたんじゃないか?

 王妃であっても、魔女だと分かれば死刑だ。

 グリム童話集(KHM)では王妃を魔女だと直接言及してはいないが、『魔女の技(ヘクセンクンステン)で毒の櫛を作った』とあるから、魔女だと思っていいだろう」


「それもそうか。

 さて次はいよいよ『鏡よ鏡』のシーンの登場だ。

 見逃さないようにしなくちゃ」


 兄弟は真面目な顔で、うなずき合いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ