表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

第9章: 糸を切る

従うために生まれてきた者もいれば、自らのリズムに従うために生まれてきた者もいる。

しかしピッチの上では、どんなに自由な者でさえ、他者の見えない糸に捕らわれてしまうことがある。

パス、ジェスチャー、間…

そして、すべては一つの精神を中心に展開する。

その支配を打ち破るのは、単なる戦術の問題ではない。


そこには確信が必要だ。

操り人形師の目を見つめ…

そして、勇気を出してこう言う必要がある。「もうあなたのために踊らない」


なぜなら、どんなに完璧なダンスでも、糸が切れてしまえば無意味になってしまうからだ。

ロッカールームは静まり返っていた。

クロイ・カゲの選手たちは皆、汗まみれで肩を落とし、スコアに心を打ちのめされていた。


ユウジロウはうつむき、拳を固く握りしめる。


ユウジロウ(心の声)

「くそっ… 2対0。あいつを自由にさせ続けたら、確実にやられる。でも、黙ってたらこのチームは崩れる。俺が何とかしなきゃ…!」


──そのとき、沈黙を破る声が響いた。


エミ(にっこりと)

「…なんか、ワクワクするな」


全員が彼を見つめた。

ユウジロウは唖然とした表情で呟く。


ユウジロウ

「…笑ってる?」


緊張していた空気が、ふと緩んだ。

リンが笑い出し、次にリョウも。

そしてチーム全体に笑いが広がった。


リョウ

「こんな状況でワクワクできるやつなんて、お前くらいだよ」


エミ(きょとんと)

「えっ? 俺、なんか変なこと言った?」


ユウジロウは思わず微笑む。


ユウジロウ

「いや…ありがとうな。じゃあ行こうか、全力で。準備はいいか?」


全員

「はいっ!」


──ロッカーの片隅で、レオは黙って様子を見守っていた。

その拳は、歯がゆさにわずかに震えていた。


レオ(心の声)

「…やっぱり変わってるな、エミ。

こんなときに空気を変えるなんて…」

(ドアの外のフィールドを見つめながら)

「俺も…一緒に戦いたいよ」


実況:

「さあ、選手たちが再びフィールドに戻ってきました! クロイ・カゲは立ち上がりから巻き返しを狙う構えです。注目すべきは、監督が前半と同じメンバーで後半をスタートさせた点でしょう」


──スカイブルーのベンチ。ショウゴがキャプテンに目を向けて言う。


ショウゴ

「もう勝った気でいる?」


コウスケ(余裕の笑みで)

「いや、むしろ今のほうがやる気に満ちてるように見えるよ。

後半はきっと、もっと面白くなるさ」


ピイィィィー!


実況:

「後半キックオフ! クロイ・カゲは序盤から攻勢! リョウが左サイドでエミにパス! 速いっ!」


DF(低く唸りながら)

「今度こそ止めるぞ…!」


──だがエミはパスフェイントから一気に抜き去る。


実況:

「これぞ16番の真骨頂! ライン際まで駆け上がり、グラウンダーのクロス! イェンが飛び込む、シュートッ…ポストだ!」


跳ね返ったボールがエリアにこぼれる。

後方からユウキが走り込み、迷わずシュート。


実況:

「現れたのは背番号7番! ユウキ・タナカ! ボールを押し込んで…ゴォォォォール!!」


──後半開始直後の1点。希望の光が差し込む。


ユウキはすぐさまボールを拾おうとするが、相手GKが前に出てくる。


ユウキ(怒り気味に)

「ボールをよこせ、このバカ」


リク(押し返しながら)

「ふざけんな。これは俺のだ」


二人が睨み合う中、主審がすぐに駆け寄る。


主審

「イエローカードだ。あと一枚で退場だぞ、わかったな?」


ユウキ・リク

「…はい」


実況:

「小競り合いはすぐに収まりました。再開はセンターサークルからとなります。

なお、クロイ・カゲはベンチから交代要員の準備を進めている模様。

どうやらタナカ・ユウキの退場を警戒しているようです」


──ピッチの片隅。ユウキは座り込んで顔を両手で覆っていた。


ユウキ(心の声)

「くそっ…余計なことを…」


そこへユウジロウが静かに寄ってきて、肩をポンと叩いた。


ユウジロウ

「気にするな。プレーに集中しろ」


ユウキ

「…うん」


ピィィィィーッ!


実況:

「試合が再開されました。スカイブルーはボールをキープしながら、試合のテンポを落とそうとしています。一方、クロイ・カゲは激しいプレッシングで同点を狙います!」


──ユウジロウはフィールドを睨みつけ、奥歯を噛み締めていた。


ユウジロウ(心の声)

「くそっ…ただ走らされてるだけだ。左右に振られて…このままじゃ追いつけない。何か仕掛けなきゃ!」


──彼は迷わず前へ出て、ボールホルダーに向かって猛然とプレスをかける。


ユウジロウ

「いけぇぇっ!」


──その動きを見たレオは、ベンチで身を乗り出す。


レオ(心の声)

「やばい、それは…!」


──コウスケは冷静に笑みを浮かべる。


コウスケ

「…引っかかったな」


──ユウジロウが空けたスペースへ、ピンポイントのスルーパスが飛ぶ。


ユウジロウ

「くっそおおお!!」


──だがその瞬間、まるで稲妻のように飛び込んだのはエミだった。完璧なタイミングでスライディングし、パスをカット!


タクミ

「なんだと…!?」


──素早く立ち上がったエミが顔を上げる。後方にはイェンが走ってくる。


イェン

「ナイスだ」


──視線が交錯する。迷いのない、確かな目。


エミ(心の声)

「ここから先は任せたぞ、点取り屋」


──そして、相手DFの背後へ絶妙なスルーパスを送る。


実況:

「なんという視野! 16番・エミがイェン・ツクシマを完全にフリーに! これはビッグチャンス!」


コウスケ

「止めろぉぉっ!」


エミ

「いけ、イェン!」


──ゴール前。GKリクが一歩前に出て角度を詰める。

しかし、イェンは焦らない。

ふわりと、冷静にボールを浮かせる──


リク

「なっ…!?」


──ボールはリクの頭上を越え、ゴール前でワンバウンド。

イェンが追いつき、静かにネットを揺らす。


実況:

「ゴォォォォォォール!! クロイ・カゲ、同点弾!! 圧巻のフィニッシュ! そして冷静沈着な9番、イェン・ツクシマ!

すべてはエミ・ニシムラの華麗なインターセプトから始まった、完璧な連携プレー!

後半わずか10分で試合を振り出しに戻しました!」


──チーム全員がイェンのもとへ駆け寄り、喜びを爆発させる。


リョウ

「よっしゃああああ!」


──センターサークルで佇むコウスケ。

信じられない表情でスコアボードを見上げる。


コウスケ

「まさか… こんな展開になるとは… くそ…!」


──ベンチではレオが静かに頷く。


レオ(心の声)

「この4人──エミ、ユウジロウ、ユウキ、イェン…

心が噛み合えば、まるで一つの怪物みたいだ。

このチームが本気で連動したら、誰にも止められない」


──ユウジロウがエミに歩み寄り、申し訳なさそうに話す。


ユウジロウ

「悪い… あのパスが通ってたら、お前の努力が無駄になるとこだった」


──だがエミは落ち着いた顔で、肩をポンと叩く。


エミ

「気にすんな。結果オーライだろ?

お前は思ってるより、ずっと頼りになるぜ…“ムラ”」


ユウジロウ(まばたきしながら)

「…ムラ? いま俺にあだ名つけたか?」


──エミはただ、ニヤッと笑うだけだった。


実況:

「クロイ・カゲが選手交代を行います。背番号9番、イェン・ツクシマに代わって、チームのベテランストライカー…アマリ・カイがピッチに入ります!」


──交代ラインで、イェンがカイの肩を軽く叩く。


イェン

「頼んだぞ」


カイ

「任せとけ」


ピィィィィーッ!


──笛が鳴り、試合が再開される。


ヒカル

「絶対に負けないぞ!!」


──彼とリンが一斉に前に出て、コウスケの進路を完全に封じる。


コウスケ

「……なんだこれ?」


ヒカル

「ここは通さない」


コウスケ(苦笑)

「ダブルマーク? 馬鹿か? 他の場所がガラ空きになるぞ」


リン

「もし、お前以外に何かできる奴がいたらな」


実況:

「その言葉通り! スカイブルーは完全に停止。選手たちは戸惑い、動きが止まっています。天才の動きが封じられた瞬間、チーム全体が揺らぎ始めた!」


コウスケ

「早く…パス出せっ!」


カズヤ

「は、はいっ!」


──だが遅すぎた。リョウ・アベが一気に寄せてボールを奪い、反転してカウンター!


タクミ

「止めろおおおっ!」


──スピードを上げたリョウに3人のDFが飛び込む。

だが彼はドリブルをやめて、鋭く横へパス!


リョウ(心の声)

「……俺を囮に使いやがったな、クソ…!」


──その先にはフリーのカイ・アマリ。前がガラ空き。


カイ(微笑みながら)

「これが、俺の時間だ」


──右足を振り抜く。ボールは鋭い軌道を描いて…ポストに直撃!


実況:

「カイィィィィッ!! シュートはポストッ!!」


──跳ね返ったボールがペナルティエリアの外に転がる。


リク

「クリアしろっ!」


──だが間に合わない。ユウキ・タナカが走り込む!


──……だが撃たない。

彼はあえてスルー!


──DFが釣られて滑り込むが、そこに現れたのは──


実況:

「背番号16番・ニシムラ・エミが後方から走り込んできた! フリーだ! 撃つ!!」


──ズドンッ!


実況:

「ゴォォォォォル!! ニシムラ・エミィィィ!!

左サイドバックの意地! あまりにも豪快な一撃!

まるで雷鳴のような弾丸がネットに突き刺さりました!!」


──一瞬、スタジアムが静まり返る。

……次の瞬間、歓声が爆発する。


リョウ

「やべぇよお前!!」


カイ

「お前、それプロ級だぞ…!」


──観客席の一角。青いマフラーを巻いた若者が目を見開く。


ユキヒロ・ソウマ

「……マジかよ。

あの子に、あんな才能があったとはな…」


──遠くからその様子を見つめるケイスケ。


ケイスケ(心の声)

「悪くない。全然、悪くないな…」


実況:

「信じられない! クロイ・カゲが見事な逆転を果たしました!

だが、果たしてこのままリードを守り切れるのか…それとも、さらなる追加点を狙うのか!?」


──試合が再開される。

コウスケへのダブルマークはそのまま継続。

スカイブルーは明らかに混乱しており、効果的な突破口を見出せない。


──時計の針が進む。

そしてついに──


ピィィィィーーーッ!!


──試合終了の笛が響く。


──ユウジロウ・アキラはその場に倒れ込む。

他にも何人かが地面に座り込む。

残りの選手たちは立ち上がって歓喜を爆発させる。


──観客席の隅。

暗がりの中から、見知らぬ人物がじっとフィールドを見つめていた。


???

「……あの左サイドの子。

進む道を間違えないといいがな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ