表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/28

第23章:自我

サッカーにおいて、才能だけでは足りない。

本当に必要なのは、

頂点での謙虚さ、

栄光の中での調和、

そして、野心に対する敬意だ。


天才たちが同じピッチに立つ時、

必ずしもチームが生まれるわけではない。

時に、生まれるのは――戦争。


視線、仕草、判断の中に潜む静かな闘い。

最も手強い敵は、

相手チームではなく、

同じユニフォームを着た“仲間”かもしれない。


エゴは、訓練では磨かれない。

スカウトでも獲得できない。

だが、チームを壊すには、それ一つで十分だ。


その刃の上で、

今、物語が始まる。

――試合開始のホイッスルが鳴った!


実況の声が笑顔と共に響き渡る。


クロイカゲが意志のこもったパスでボールを動かし始めた。


ボールはフィールドの端から端へと流れるように動き、相手チームはその動きを警戒して見つめている。


「またブロックを低く敷いて守ってくるチームか――」とジョセフは鋭い目で分析する。


「守備力そのものは並みだが…真に難しいのは、別のところにあるようだ。」


そして、ジョセフの視線はシンジロウへと移る。


「よっしゃ、行こうぜー!」

「前に出させるな!」

「自陣に閉じ込めろ!」


シンジロウが熱く叫び、仲間を鼓舞する。


「言葉だけじゃなく、そのプレーでも仲間を引っ張るリーダーだな…」


「これが日本の“黄金世代”か。まさに才能の塊だ。」


「だが――この数多の“エゴ”を、誰が束ねることができるのか…?」


ボールはすごいスピードでタツヤへと向かっていた。

その瞬間、彼の視線は全てのパスコースを一瞬で把握する。


――バシュッ!


相手ディフェンダーが寄せる前に、タツヤの足元から柔らかなタッチでボールが放たれる。


ブラックストロームの守備陣は止まろうとしたが、足を滑らせるばかり。


その背後――

ユウキが完璧にボールをトラップ。


「これはオレのチャンスだな」

彼は笑顔を浮かべながら、キーパーと一対一になる。


だがその瞬間――

ユウキの瞳が大きく見開かれる。


初めてだった。

どこにも、シュートコースが見つからない。


たった一歩。

シンジロウは、その一歩だけで全ての角度を消していたのだ。


「…試すしかないか、アレを。」


ユウキは果敢にゴールへ迫り、足を振りかぶる。


……だがそれは、ただのフェイントだった。


軽やかなモーションでシンジロウの体勢を崩す。


「もらった!」


――バシュッ!


だが次の瞬間、シュートは見えない壁に阻まれた。


シンジロウは一瞬で体勢を立て直し、

信じられない反応速度でセーブしてみせたのだ。



「ナイスセーブ!」


「なんというプレーだ、岩目シンジロウ!相手の先制を防いだ!」


「斉藤タツヤの正確無比なパス、田中ユウキの個人技、どちらも素晴らしかったが…」

「この守護神には、わずかな動揺すら見えなかった!」


「…ウソだろ…」と、タツヤは苦笑いしながら呟く。


ゆっくりと立ち上がるシンジロウ。

彼は相手陣を見渡し、自信に満ちた笑みを浮かべた。


その笑みが、全員のプライドを刺激した。


「これが、全国レベル――」

エミは汗をぬぐいながら、内心で呟く。

「…最高にゾクゾクする。」



クロイカゲはコーナーキックの準備に入る。


「マークを離すな!」と、シンジロウが怒鳴る。


「ボールは俺たちのものだ、誰にも渡すな!」


主審はエリア内の小競り合いに注意を払っていた。


――バシュッ!


ボールは空を舞い、全選手がその軌道を見つめる。


カイ、ユウジロウ、イェンがタイミングよく跳び上がる。


――ザシュッ!


だが、その誰よりも高く――

まるで矢のように――

シンジロウが飛び出し、ボールをキャッチ。


全員が唖然とする中、彼は上を一瞥するとすぐさま判断する。


――バシュッ!


ボールは信じられない速さと勢いでフィールドを横断する。


誰もがその軌道を固唾を飲んで見守った。


――カランッ!


クロイカゲのゴールポストに、強烈な衝撃音が響く。

ケントは目を見開いたまま、動けなかった。


「うわぁぁああああ!」

観客からは大きなどよめきと惜しむ声。


「…チクショウ…」と、シンジロウは悔しげに呟く。


味方も、敵も、全員が彼を見て、口を開けたままだった。


「な、なんてこった…ブラックストロームのスーパーアタック!」


「一切の油断も許さない展開!岩目が見せたこの一撃!」


「自陣からのロングシュート――あと少しで先制点だった!」


「クロイカゲは、これでもう彼を無視できない!」


「よっしゃああ!行くぞお前ら!」と、シンジロウが再び叫ぶ。


「次こそ決めるぞ、集中を切らすな!」


「…このサイコパス、本当に想像の上をいく…」

レオは内心そう呟きながら、ニヤリと笑った。



観客席の隅――

人目を避けるように座っていたのは、中村ケイスケだった。

その目は、試合の行方をじっと見つめている。


だが、すぐそばで白髪の少年が彼の視線を奪う。


「ここで君を見るとはね、翼。」


そのボサボサの髪を揺らしながら、少年が振り向く。


その空のような蒼い瞳の奥には、燃えるような闘志が宿っていた。


「中村ケイスケ。」


「今をときめく選手様がこんなところに? …他にやることでもあるんじゃない?」


「いや、今日は招集されてない。」


「へぇ…あのポンコツチームもずいぶん天狗になったもんだ。

 そろそろ、その鼻をへし折ってやらないとな。」


翼は何も答えず、再び視線をグラウンドに戻した。


「俺たちは勝つ。――それだけだ。」


「ふん、疑いようはないな。」


「噂通り、真面目すぎるタイプか…」

ケイスケは苦笑しながら、そう思った。


「――魔術師の帰還が、そんなに気になるのか?」


「…全く。」


「嘘が下手だな。」


「“魔術師”なんてもういないさ。」


「トリックも魔法もない。

 ただの人間になっただけだ。」


「魔術師は――もう、死んだ。」


その言葉に、ケイスケの表情がわずかに歪む。

だがすぐに、作り笑いでごまかした。


「…言うねぇ、このクソガキが。」


「潰すよ――全員まとめてな。」


「岩目シンジロウ、岩目ショウダ、五十嵐レオ、中村ケイスケ…」


「もう二人は俺の足元に沈んだ。

 残りはお前たちだけだ。」


そう言って、横目でケイスケを睨みつける。


「このクソガキ……殺す……」



その緊張を切り裂くように、聞き覚えのある声が割って入る。


「これだけ自惚れたガキは、ソラ以来だな。」


にやりと笑いながら現れたのは――


「ラファエル・ダ・シルバ…!」


「ごめんね。つい会話が聞こえちゃってさ。」

肩をすくめるラファエル。


「でもさ、少し驚いたんだよ。」


「何がだ?」


「シンジロウ、レオ、ケイスケ――

 おいおい、ガキ、忘れたのか?」


その瞬間、ラファエルの眼差しが氷のように冷たく鋭くなる。


「――あいつらが潰さないのは、優しさがあるからだ。

 でも俺は、情なんてねえ。」


「お前なんか、容赦なく叩き潰すさ。」


緊張が一気に張り詰める。

両者の視線がぶつかり、火花が散る。


だが、その間にケイスケがラファエルの肩に手を置く。


「落ち着けよ、ラファエル。

 天才のプライドってやつは、そう簡単に抑えられるもんじゃねぇ。」


「お前だって、ブラジルから来たばかりの頃は同じだっただろ?」


「……キャプテン。」


「だけど――翼、よく覚えとけよ。」


「レオってやつはな……」


「本気出せば、俺たち二人をまとめて蹴散らせる。」


「だから――あまり調子に乗らないことだ。」


そう言い残し、ケイスケとラファエルはその場を去っていく。


翼は再び、フィールドへと視線を戻した。


ドン! ドン! ドン!


クロイ・カゲの猛攻は止まらない。

次から次へと繰り出される波状攻撃。


カイのペナルティエリア外からの強烈なシュート。


イェンのヘディングはポストを直撃。


リョウの華麗なドリブル突破――だが、シュートはシンジロウの手中に。


エミの絶妙なクロスから、ユキの豪快なボレー。


・・・


だが――


いずれもゴールにはならなかった。


シンジロウが全てを止めた。


指先、キャッチ、さらには足までも使って。


可能なボールだけでなく、不可能なボールにまで手が届く――それが彼の守護力。


―――


一方、反撃のチャンスも生まれていた。


だが、ケントのビッグセーブの連続が、クロイ・カゲの命綱となる。


「これはすごい試合になっています!」


「止まらない攻防の応酬、まさに死闘!」


「どちらも一歩も引かない、勝利を狙い続ける姿勢だ!」


主審が時計に視線を落とす。


そして、規定の時間を確認し、笛を吹いた――


ピッ! ピッ! ピーーーーーーッ!


「――前半終了、終了です!」


「最初の45分間が終わりを迎えました。」


「両チームが全力で攻め合う壮絶な展開でしたが、ゴールネットは揺れなかった!」


「間違いなく、この試合の主役は両守護神でしょう!」


「たった一つのミスが、勝敗を分ける――そんな空気が漂っています!」


「果たして、後半で“魔術師”は姿を現すのか!?」


「どちらかが均衡を破ることができるのか!?」


「――すぐに明らかになります! どうぞお見逃しなく!」



前半終了スコア

ブラック・ストロム 0 ― 0 クロイ・カゲ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ