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第21章:魔術師の帰還

叫びよりも強く響く沈黙がある。

銃声よりも深く突き刺さる眼差しがある。

そして、時を止める「帰還」がある。


スタジアムは歓喜と自信に包まれていた。

だが、現実とは時に、物語を覆す存在だ。

そして運命は――静かに筆を取る。


後半の幕が上がったとき、それはただの交代ではなかった。

あれは記憶の中の人だった。

伝説だった。

かつてと同じ熱を胸に宿す、ひとつの魂だった。


その瞬間、すべてが変わった――。

スタンドの雰囲気は純粋な喜びに包まれており、地元チームへの信頼は最高潮に達していた。


しかし、選手たちがロッカールームから姿を現した瞬間…

その場の空気が凍りついた。



闇の中から現れたのは、これまで以上に燃え上がる魂を持つ男だった。


誰もがその登場に息を呑んだ。


何もかもが霞む中、ただ一人の男が注目を集めていた──背番号10番を背負う男、五十嵐レオ「魔法使い」。


一人、また一人と選手たちはポジションに着いていくが、スタジアムには沈黙が支配していた。


実況さえも、その光景に困惑しながら微笑むしかなかった。


その時、ユウジロウが仲間に近づき、穏やかな笑みを浮かべながら言った。


「この瞬間をずっと待っていたよ、キャプテン」


そして、かつての象徴であるキャプテンマークをレオの腕に巻いた。


「勝とう。約束する」

レオはかつてないほどの自信を持ってそう答えた。



「な、なんという光景だ…!」

実況が感情を爆発させて叫ぶ。

「誰か俺をつねってくれ、これは夢か!?」


「帰ってきた!魔法使いが帰ってきた!!」


「五十嵐レオ、背番号18番の鈴木リンと交代でピッチに戻ってきました!!」


一瞬にしてスタジアムは歓声に包まれた。

観客はまだ信じられない様子で、ピッチでは北谷翔太の額に一筋の汗が流れていた。


「潰してやる…」

彼は緊張した笑みを浮かべながら、そう心の中で呟いた。


その瞬間、審判のホイッスルが響く──「ピーーー!!」


後半戦が始まった。ボールは渋谷ウォリアーズが動かしたが、すぐに彼らの足が震える。


一瞬の隙も逃さず、矢のように五十嵐レオがボールを奪った。その動きは正確無比だった。


「マジかよ…」

エミが驚きの声を漏らす。


「止めろ!前に進ませるな!」

翔太が叫ぶ。


だが、その声は虚しく響くだけだった。レオは子供の遊びのように、相手のディフェンスを切り裂いていく。


そして、力強い眼差しを翔太に向け、足を止めた。


「フッ…やっぱりお前は変わってねぇな」

翔太が皮肉交じりに笑いながら言う。


「いつまでも自惚れたガキのままだ。やっぱり天才なんてものは変われねぇんだよ」


「お前も、あのケイスケって奴も、結局は同じ。傲慢な天才どもだ」


「だが、俺が終わらせてやる。お前ら二人を叩き潰して、証明してやる…本来、その場所にいるべきだったのは俺だと」



「つまり、それが全部の理由ってわけか」


「まだ、代表の時のことを引きずってるのか?」


「お前らが…俺の夢を奪ったんだ!俺の未来を奪いやがった!!」


「もしあの時…お前らさえいなければ、俺はこんなチームにいるはずじゃなかった」


「そうだな…お前の才能は確かに本物だった。世界でも通用するレベルだったよ」


「でも、その怪我で最終メンバーから外されて、代わりに俺が入った」


「で?それから何をしてきたんだ?」


「ずっと他人のせいにして生きてきたのか?」


「お前、自分で俺たちを“戦犯”だと決めつけたんだろ?」


「うるせぇ!!お前らのせいなんだよ!!」


「そう思ってるなら、そう思い続けてればいいさ、翔太」


「でも一つだけ言っておく」


「俺は…お前に一切、同情なんてしない」


レオの瞳が鋭く光る。


「お前みたいな奴は、ただのゴミだ。排除すべき存在だよ」


「てめぇぇぇ!!」


翔太は怒りに任せてレオに飛びかかろうとした──



その瞬間、五十嵐レオの顔に不気味な笑みが浮かび、彼の目は太陽さえ凍らせるほど冷たかった。


その場にいた仲間たちは皆、背筋を走る悪寒を感じた。


彼の動きは完璧すぎて、もはや説明不能だった。

一瞬で、レオは軽く足の甲でボールを持ち上げて翔太の頭上を越え、置き去りにした。


すぐに2人のディフェンダーが詰め寄ってきたが、レオは一人目を鮮やかなシザースでかわす。


そして、もう一人が目の前まで迫った瞬間──

両足を使い、ふわりとボールを浮かせ、見事なループで相手の頭上を越えた。


そのときのレオは、まさに絶頂状態の天才。誰にも止められなかった。


翔太は立ち上がり、再びレオの前に立ちはだかる。どんな手を使ってでもボールを奪おうとしていた。


「来いよ!」


誰もが驚いた。

レオはまるでボールを譲るように、わざと大きく前に蹴り出したのだ。


「もらった!やっぱり完璧じゃないじゃねえか!」


翔太は足を伸ばし、ボールを奪おうとした。

その顔には勝利の笑みが浮かんでいた。


「フッ…」


一瞬のうちに、レオはボールをアウトサイド、そしてインサイドで切り返し──


翔太のバランスを完全に崩した。


「エラシコ…?」

ベンチのカイが呟く。


翔太はまるで砂袋のように地面に崩れ落ち、レオの冷たい視線だけがその上に降り注いだ。


言葉は交わさずとも、翔太には伝わった。


これはただの“見せつけ”だと。


「なんというプレーだ!レオがフィールドを止まらず駆け抜けていく!!」


次々と倒れていくディフェンダーたち。

仲間たちはその魔法のようなプレーに口をあんぐり開けたままだった。


「ここは通さないぞ!!」

ゴールキーパーが叫びながら、距離を詰めてくる。


レオはシュート体勢に入り、キーパーは飛び出す準備を──


キーパーが飛び出した瞬間、

レオは空中で彼を見下ろしながら、傲慢な笑みを浮かべていた。


「このクソ野郎が…!」


そして、誰もいないゴールに、

レオはボールをそっと流し込み、静かに息を吐いた。


「ゴオオオオオオオル!!」


「ゴールだ!ゴールだ!ゴール!!」


「クロイ・カゲ、先制点!!」


「魔法使いのゴール!!」


仲間たちは歓喜の声を上げながら、レオの元へ走り寄り、次々と彼に抱きついた。

その中心で、拳を掲げて立つキャプテンの姿があった。


「これはまさに魔法だ!!」


「すべてのディフェンスを置き去りにして、五十嵐レオが“マラドーナ級”のゴールを決めた!」

実況は誇らしげに叫ぶ。

「天才にしかできない、記憶に残る一撃だ!」


「レオ!レオ!レオ!レオ!!」

スタジアム中がその名を叫び、歓声が止まらない。


「やりやがったな、このヤロー!!」

ユウジロウが興奮しながらレオに抱きつく。


「その魔法、まだ失ってなかったか」

タツヤがニッコリと笑って言う。


「遅いよ、キャプテン」

アキラが拳をぶつける。


最後にエミが無言で手を差し出し、二人は静かにタッチを交わした。


その頃、地面に座り込んだ翔太は、まだ現実を受け入れられずにいた。


(こんなはずじゃ…!俺が勝つはずだったんだ!勝つべきは俺だった!!)


だが、その場に近づく足音があった──

それはレオではない。ユキだった。


「キャプテンとあんたの間に何があったか知らない」

彼は目も合わせずに低く呟いた。


「でもな──もしまた、俺たちの誰かに手を出したら…次はタダじゃすまないからな」


その言葉に、翔太は何も言えず、黙って立ち上がり、自陣へと戻っていった。


ベンチからジョセップは傲慢な笑みを浮かべながらその様子を眺め、迷うことなく言った。


「カイ、タケシ、レン。アップしてくれ、すぐに出場するぞ。」


「はいっ!」三人は声を揃えて答えた。


「福民先生。」


「はいっ?」


「彼らのサポートをお願いします。」


「わ、わかりました!」


ベンチ全員がサイドラインに駆け出し、ウォーミングアップを始める。その間、ジョセップの頭に浮かぶのは一つの思いだけだった。


(この男…恐ろしいな。——彼はどこまで高みに行けるのか?)


(本当に、ワクワクが止まらない。)


試合は止まることなく進んでいった。


交代は次々に行われた。


レオのトリックは尽きることなく、どんな荒いチャージでも倒れることはなかった。


あれはもはや試合ではなかった。黒いクロイカゲによる魔法のショーだった。


後半53分、レオのアシストからカイが豪快なシュートを決め、2対0に。


その直後、レオは審判の方をじっと見つめて言った。


「今回は何も間違ってないよな?」


その傲慢な笑みで凍りついた審判は、口ごもりながら答えた。


「い、いや…」


渋谷ウォリアーズは反撃を試みたが、クロイカゲのGKは絶対的であり、その守備陣も鉄壁だった。


数分後の60分、レオが直接フリーキックを決めて3対0。


そしてついに、80分、エミのパスを受けたユキがボレーシュートでゴールを決め、試合を決定づける4対0。


やがてタイムアップを迎え、主審は時計を見て、笛を吹いた。


「ピーーーーー!」


「終了!試合終了です!」


「後半、ゴールと魔法が溢れたこの試合で、勝利を掴んだのはクロイカゲ!」


「この試合、間違いなくMVPはイガラシ・レオ!」


「彼の足を通さないプレーはなかった。これからのクロイカゲにとって、絶対的な存在になるだろう。」


「これでクロイカゲは13ポイント。首位・東京アカデミーまであと2ポイント!」


「東京アカデミーはここまで無敗・無引き分け。そしてその司令塔は“小さな魔法使い”、スズキ・ツバサ!」


「果たして直接出場枠を掴むのはどのチームか!?」


「クロイカゲか?東京アカデミーか?それとも追い上げる別のチームか!?」


「これは見逃せません!」


選手たちは徐々にピッチを後にし、拍手、歓声、賞賛、あるいは罵声の中、姿を消していく。


最後までピッチに残ったのは、レオだった。


彼はゆっくりとロッカールームへ向かいながら、心の中にさまざまな感情を抱いていた。


しかし、その入り口には父親が待っていた。鋭い目をしたまま、彼を見つめていた。


「どうした? また俺のことを叱りに来たのか? それともバカだって言いに?」


「いや、それはお前が一番わかっているだろう。」


「…フッ。じゃあ、何しに来た?」


「俺はまだ、間違ってなかったと思ってる。」


父は目を逸らさず、まっすぐに言った。


「もしお前が海外のオファーを受け入れていたら、怪我なんてしなかった。」


「今頃は、ヨーロッパのトップチームでプレーしていただろう。」


……


「でもな、それでも——俺はこう思ってる。」


「お前なら、どんな場所からでも這い上がれる。」


「……何の話だよ。」


「お前には測り知れない才能がある。もし努力をやめなければ、きっと辿り着ける。」


「世界一の座に——な。」


その言葉を聞いたレオは、驚きのあまり言葉を失った。


「…今日の45分間、俺はまるで子供のように笑ってたよ。」


父はそう言って、穏やかな笑みを浮かべた。


「…父さん。」


「正しい選択かどうかはわからない。だが——お前が選んだ道だ。」


「その道で、これからも人々を笑顔にしてやれ。魔法使い。」


その呼び名を聞いた瞬間、レオは静かに、そして心から笑った。


「——もちろん。」


父は静かに背を向け、スタジアムの影へと消えていった。


彼の顔には、満足げな微笑みが浮かんでいた。


(君にそっくりになってきたよ、愛しい人——)


(レオは、きっと君の誇りになるだろう。)


彼の胸には、鋭く美しい瞳の女性の面影が、今も深く残っていた。


その後、ユウジロウがレオを探してロッカーへ向かう。


遠くを見つめながら彼は呟く。


「…あれが。」


「うん、俺の父さん。」


レオの瞳がうっすらと輝いているのを見て、ユウジロウは笑った。


「何があったかは知らないけど、なんか…幸せそうな顔してるな。」


「でもな、中にはお前のバカっぷりを祝うチームメイトが待ってるぞ。」


「ユウジロウ。」


「なんだよ?」


「サッカーって、本当に楽しいな。」


「……ああ!」


「——行こう。祝うぞ。」


二人はロッカールームへと入り、その瞬間——仲間たちから水を浴びせられ、喜びの渦に包まれた。


仲間たちの笑顔、歓声、抱擁。


クロイカゲの勝利は、最高の形で祝われたのだった。


……


だが——


これから待ち受ける道は、今まで以上に過酷で険しいものとなる。

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