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第19章:もう一度夢を見たい

夢を見ることは、

誰かにとってはただの幻想かもしれない。


でもある者にとっては、

生きる意味そのものだったりする。


傷ついた過去も、

裏切られた日々も、

自分を見失ったあの瞬間も――


それでも、もう一度立ち上がる者がいる。

なぜかって?


もう一度だけ、

あの日のように夢を見たいからだ。


誰に否定されても、

笑われても、

諦めたくないと思ったあの瞬間を、

忘れたくないからだ。


本当はずっと怖かった。

本当はずっと迷っていた。


それでも――

この心が燃える限り、

もう一度だけ信じてみたい。


「まだ、終わってない」


そう言える自分でいるために。

ロッカールームの空気は重苦しかった。

激しい運動の末に体から湯気を立てる者もいれば、今にも膝から崩れ落ちそうな者もいた。

だが──その瞳には、これまでにない炎が灯っていた。


その光景を見つめていたジョセップが、口を開く。

「……その感覚、気に入ったか?」


返事はなかった。だが、選手たちの視線がすべてを物語っていた。

ジョセップの口元に傲慢な笑みが浮かぶ。


「これがフットボールだ」

彼の声は力強く、迷いがない。


「観客の歓声――それは、お前たちが全力を出した証だ。

その一言一言が、お前たちを想像もしなかった高みへと引き上げてくれるかもしれない。


……だが勘違いするな。

同じその言葉が、時には奈落の底に突き落とすこともある。」


少し間を置き、両腕を広げて続けた。


「今日、お前たちは“魂”を見せた。

だが、ここからが本当の勝負だ。

これから待ち受ける試合の数々が、この数ヶ月の努力に価値があったかどうかを証明する。


満足するな。

自分自身の限界を超えろ。

俺の期待すら超えてみせろ。

……あの“闇の王”を、その玉座から引きずり下ろしてみろ。」


選手たちの目は、再びジョセップに向けられる。

炎のように燃えるその瞳、獰猛な獣のような笑み──


そして、レオは心の中で呟いた。


「……くそっ。

早く戻りたい……このチームでプレイしたい……」


握りしめる拳。

食いしばる奥歯。

仲間たちの熱が、レオの中で静かに、しかし確実に燃え始めていた。


数日後──

クラブの談話室には再びチームが集まっていた。


選手たちの視線は、包帯を巻いた右手を持つ男へと集まっていた。

その顔には、驚きと悔しさが入り混じっている。


「皆も知っているように……」

ジョセップが静かに口を開いた。


「リコは前の試合で怪我を負った。

幸い大事には至らなかったが、予選残りの試合には出場できない。」


その言葉は、まるで冷たいナイフのように選手たちの胸に突き刺さった。


悔しさをにじませながら、リコが俯いたまま言った。


「……すまない。

みんなの背中を守ってやれない。」


その瞬間、レオが炎のような眼差しで叫んだ。


「心配するな、リコ。

俺たちが、お前の分まで戦う。信じてくれ。」


「キャプテン……」


その言葉に、すかさずイェンが挑発的に笑みを浮かべて言う。


「……しっかり準備しとけよ、タチバナ。

ベストコンディションで戻ってこなきゃ、そのポジション、俺がもらうからな。」


それを聞いて、リコも力強く笑って返す。


「上等だ!絶対負けねぇ!」


一気に場の雰囲気が和み、

選手たちの間に確かな絆が芽生え始めていた。


「さて……」

ジョセップがロッカールームの扉を開けると、そこには見慣れた顔ぶれが立っていた。


あの時、チームを去った仲間たちが──そこにいた。


選手たちは驚き、言葉を失う。

ジョセップが静かに言う。


「試合の後、彼らは俺のもとに来た。

だが、受け入れるかどうかを決めるのは俺じゃない。


……お前だ、キャプテン。」


「えっ……?」


「もう言っただろ。

俺を否定できるのはお前だけだ。

もしお前が受け入れるなら、俺は何も言わん。

だがまた裏切るようなことがあれば、今度はお前が責任を取れ。」


チームを離れた者たちは、レオの目を見ることすらできない。

だが、ケントが一歩前に出て、頭を下げた。


「……キャプテン、本当にすみませんでした!」


声が震えていた。


「……俺たちは弱かった。

何の説明もせずに、勝手にチームを離れて……

自分たちのプライドだけに縋っていたんです。


あなたの言葉をただの怒りとしか捉えられなかった。

だけど、本当は……全部、正しかった。


あのキボウノアラシとの戦いを見て、やっとわかったんです。

間違っていたのは、俺たちだって……


許される資格なんてないのは分かってます。

何度でも責めてくれて構いません。


……でも、どうか!

もう一度、あなたと一緒に戦わせてください!」


その言葉に続いて、全員が頭を下げた。


誰もが息を呑む中、ジョセップがニヤリと笑いながら問う。


「さて、どうする? “しょぼい”キャプテンさんよ?」


レオは静かに言った。


「……顔を上げろ、バカども。」


全員が驚き、レオを見つめる。


「……俺は神様じゃない。

頭を下げられるような人間でもない。


ただの、ワガママで自分勝手な、

“しょぼいキャプテン”だ。」


「キャプテン……」


「そんな俺でもいいって言うなら──喜んで受け入れてやるよ。」


言葉に熱が宿る。


「ただし……

年齢も、過去の実績も関係ねぇ。

ピッチで全力を出した奴だけが、ここに立つ資格がある。


分かったな?」


「はいっ!!」

全員の声が、ひとつになって響いた。


ロッカールームの明かりが消え、壁にはプロジェクターの映像が映し出された。

選手たちの真剣な視線の中、ジョセップが口を開く。


「皆も知っての通り、次の相手は《渋谷ウォリアーズ》だ」

「このチームは、とにかく汚いプレーが得意だ。彼らが勝ち取った得点の多くは、相手の心と体を揺さぶる戦略によって得られたものだ」

「では、福民先生から詳しく説明してもらおう」

「はい、ありがとうございます」福民はそう言い、プロジェクターの画像を切り替えた。


その瞬間、レオの目が大きく見開かれる。

ユウジロウとカイの視線もすぐに彼へと向けられた。


そこに映っていたのは、レオの悪夢のような記憶に何度も現れる男の顔──あの傲慢な笑み。

「こちらが《渋谷ウォリアーズ》のキャプテン、《ショウダ・キタニ》だ」と福民が説明する。


涙を流しながら魔法のようなプレーを失ったあの日の記憶が、レオの脳裏に断片的に甦る。

まるで何度も何度も悪夢を見せられているように、彼の体は震えていた。


「彼は以前《鎌倉高校》に所属していたが、学業の都合で東京に転校したようだ。予選に出場している選手の中で最年長でもあり、最もトラブルを起こす選手でもある」

「彼のプレーは主にラフなフィジカルに頼っているが、彼の両脇を固めるセンターバックのペアも同様に荒い」

「だから、我々のフォワード陣は多くの接触やファウルに耐える覚悟が必要だ」

福民は鋭い眼差しで選手たちを見渡した。


「はいっ!」


選手たちの真剣な表情を見たジョセップは続ける。


「前回の試合と同じく、今回も戦いは君たち自身のものになる。やつらはお前たちを地獄に引きずり込もうとしてくるだろうが、屈するかどうかを決めるのは君たち自身だ」

「この先、まともに戦おうとしないチームがまだ出てくるだろう。今日はその最初の一歩だ。試合は荒れるだろうが、準備を怠るな。分かったか!?」


「うおおおおおっ!!」


「行くぞ!」


──


選手たちは次々とロッカールームを出て、練習へと向かっていく。

だが、レオだけはその場に座ったままだった。


彼の瞳は、再び襲いかかる過去の痛みに燃えていた。

ユウジロウとカイはそれに気づくが、あえて声をかけず、彼の時間を尊重して立ち去る。


ジョセップはそれに気づき、問いかける。


「……何がそんなにお前を苦しめてるんだ、しょぼいキャプテンよ?」


……


「喋る気もないのか?」


「……一つ、お願いがあります、監督」


「は?何の話だ?」


「お願いします。次の試合に……出させてください」

レオの炎のような眼差しがジョセップを射抜く。


「……なんだと?」


「お願いします」


「ちょっと待て、話が見えないぞ。まさか、お前……《渋谷ウォリアーズ》戦に出たいってのか?」


「……はい」


「なんでだ?」


「……あの男……あのキャプテンこそが、俺の夢を壊した張本人です。この数年間のすべての原因なんです」


「……正気か? 確か、お前のリハビリが終わるのは全国大会直前だったはずだ」


「もしまたケガをしたら、その夢も、仲間たちに誓ったあの約束も──すべて水の泡だぞ? 分かってるのか?」


「はい。分かってます。馬鹿なことを言ってるのも承知の上です」

「でも……毎晩、あの笑みを思い出しては、苦しんでるんです。耐えられないんです」


「……それで、何を証明したい?」


「……俺は、まだここに立っているってことを証明したい。あいつにも、全員にも」


──


その言葉に、ジョセップは皮肉げに笑う。


「……やっぱり天才ってのは、どこまでも自己中だな」


「……ほんとに、お前はその何年間を無駄にするつもりか? あんな奴に自分を証明するために?」


「──はい!」


「フン……分かった。出してやる。試合の最後の5分だけな。それ以上は絶対に無理だ」


「感謝します!」


太陽のように燃える眼差しで、レオは再び戦う準備を始めた。

魔法使いの帰還が、静かに始まろうとしていた──


時が過ぎ、月が夜空を照らしていた。

やわらかな光が静かに窓から差し込み、

雨音だけが響く広大な食堂には、静寂が支配していた。


豪華でビクトリア調の空間の中、

レオは黙って夕食を口に運んでいた。


その長いテーブルの端には、

白髪交じりの男――彼の父、五十嵐タケルが座っていた。


「学校はどうだ?」

皿から目を離さずにタケルが尋ねる。


「順調だよ。」


「それならいい。成績をしっかり維持しろ。

医学部に入るのは簡単じゃないが、

お前の成績と私の人脈があれば、可能性は高い。」


「わかってる。」


「それより、お前…まだそのくだらない夢を追ってるのか?」

タケルは鋭い視線をレオに向ける。


レオは黙ったまま、舌打ちして不快感をあらわにする。


「やはり…まだそんなことを…。

いつになったら目を覚ますんだ?」


「関係ないだろ。」


「三年間も無駄にして、何を得た?

私の助言に従っていれば、

今ごろは世界の舞台に立っていたかもしれん。

だが、お前は私に逆らい、

チームすらない学校を選んだ。」


「それで…何を成し遂げたんだ?」


レオは父に鋭い眼差しを返しながら、低く言い放つ。


「アンタと違って、誰かの名前にすがる気はない。」


「じいさんやアンタが敷いたレールなんて、

俺は歩かない。

俺は“誰かの息子”じゃなく、“俺自身の名前”を作る。」


「楽な道が好きなら、それはアンタの勝手だ。

でも俺は、自分の力で頂点に立ちたい。

強者を倒さずに、世界の頂点なんて見えてこない。」


レオは勢いよく椅子から立ち上がり、

父親を見下ろすように言い放った。


「自分の弱さで夢を諦めたアンタと、

俺を一緒にするな。


母さんが死んでから、アンタは“夢”を忘れたんだろ?


……だったら、この土曜日、

俺のことをよく見てろよ、クソジジイ。


俺がどれほどの男か、見せてやる。」


月が静かにその誓いを見つめる中、

レオの中に燃え上がる炎は、誰にも消せなかった。


魔術師マジシャンは、今――

かつてないほどエゴイストとして蘇ろうとしていた。

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