第17章:太陽の下の剣闘士たち
太陽は、誰も裁かない。
ただ静かに見下ろし、
光の下で燃える戦いの証人となる。
焦げつくような熱の中で、
仮面はすべて剥がれ落ちる。
残るのは――ただ「真実」。
疲れ果てた身体の真実。
傷ついた誇りの真実。
それでも鼓動を止めない心の真実。
剣を握る者だけが剣闘士ではない。
汗に濡れたユニフォームをまとう者も、
笑顔の裏に傷跡を隠す者も――
皆、戦っている。
そして、皆、流すのだ。
血を。涙を。誇りを。
今日は、ただの試合ではない。
折れる前に、どれほど魂が耐えられるかを試す日。
世界が燃え上がるその時、
それでも――
共に燃えることを選ぶ者たちがいる。
それが、太陽の下の剣闘士たちだ。
—さあ皆さん、ようこそ!今日も東京予選の激戦をお届けします!—
実況が熱を帯びて叫ぶ。
—第4節、本日の対戦カードは――黒い影 VS 希望の嵐!
—まずはホームチーム、希望の嵐。都の代表枠を狙う本命の一角です。
—キャプテンの山中蓮は、抜群のスピードとフィジカルを兼ね備えた俊足ウィンガー。
—そして注目はストライカーの藤井健太。ポジションの枠を超える万能型FWで、現在4ゴールで大会得点王を独走中です!
—対する黒い影は、今大会のダークホース。ここまで3戦3勝と快進撃を続けています。
—しかし本日は特別な事情があります。なんとフィールドプレイヤーが10人しかいません。さらに監督も途中で交代し、現在指揮を取るのは“破壊の名将”ジョゼップ・モウ。彼の経歴は輝かしいですが、その分トラブルも多く、指導先のチームを崩壊させてきたことでも知られています。
—
—俺の噂話で盛り上がってるようだな…
ベンチでジョゼップが皮肉っぽく呟く。その隣で副監督の福民は困惑気味に眉をひそめていた。
「…この人、やっぱり頭のネジが外れてるな…」
彼の心の声が聞こえてきそうだった。
—
突然、太鼓のリズムがグラウンドに響き始める。
スタンドからの喧騒が徐々に盛り上がり、スパイクの音がコンクリートの床に反響する。
トンネルの奥から、選手たちが一人ずつ登場。
まずは希望の嵐の選手たち。純白のユニフォームに、中央には黄金のライン――まるで神に祝福されたチームのような神々しさ。
そして黒い影。漆黒のユニフォームに白銀の装飾。鋭い眼差しと燃えるような意志を宿した瞳。まさに戦場に挑む“闘士”たちだった。
—
フォーメーションが発表され、観客席は熱狂の渦に包まれる。
コイントスでキャプテンの優次郎と蓮が対峙し、キックオフの笛が鳴る。
—
—さあ、黒い影ボールで試合開始!
選手たちは丁寧にパスを繋ぎ、先制点を狙う。
—龍也からサイドへ展開、背番号7番の涼がボールを受ける!
リョウは難なくトラップし、テンポを落として様子を見る。
「…ちっ、マークが早えな。こっちは一人少ないんだ、スペースなんてすぐに潰される…」
身体をわずかに右へ傾けるリョウ。
「よし、読めた!」
相手DFが先読みして足を伸ばす――その瞬間!
リョウは左足で前方にボールを弾き、スッと相手を置き去りにする!
—なんというフェイント!体の動きだけで完全に相手を欺いた!
「もうあの頃のバカとは違うんだよ!」
加速するリョウ。エンドラインへ猛然と走り、ゴール前に視線を向けると、円と魁がエリア内に飛び込んでいた。
—行くぞ!
左足で放たれたクロスは、ゆっくりと弧を描きながらペナルティスポットへ。
—これは決定機だ、黒い影にビッグチャンス!
円と魁が高くジャンプし、空中戦を制すべく競り合う!
しかし――
ドンッ!
まるで猛獣のごとく、ずっしりと重く早い足音が鳴る。
二人の間を割って入ったのは――
—藤井健太!?
信じられない跳躍で彼らを上回り、頭で豪快にクリア!
—なんという守備力!希望の嵐のエースストライカーが自陣まで戻り、完璧なクリアでピンチを防いだ!
観客席からもどよめきが起こる。
—
そのボールは、キャプテン・山中蓮の足元へ転がる。彼は信じられないスピードでカウンターを開始した。
—希望の嵐、怒涛のカウンター開始!誰にも止められない!
蓮は驚異的な勢いでフィールドを駆け抜け、黒い影のDF陣が必死に戻ろうとする。
まるでガゼルのように、彼は一気にディフェンスラインを切り裂いていく――
だがその瞬間、強烈な衝突が彼の脇腹を襲った。
—ここで止める!
優次郎が体をぶつけて進行を止めにかかる。
蓮は一瞬バランスを崩すが、すぐに態勢を立て直し、逆に優次郎との肉弾戦に勝って前に出る!
「くそっ!」
—なんというフィジカル!山中蓮、まるで岩のような強靭さ!
—ゴール前に迫る!力強い突破でエリア手前まで一気に進んでくる!
蓮はペナルティエリアの手前で顔を上げ、シュートコースを探る。
足を振りかぶる――その時!
まるで流れ星のように、左サイドからエミ(西村えみ)がスライディングで突っ込んできた!
—なんという神対応!左サイドバック・西村エミが信じられないタイミングでボールをカット!
—ギリギリの力を振り絞り、希望の嵐の決定機を潰した!
—そんな簡単には決めさせねぇよ。
エミは挑発的な笑みを浮かべて立ち上がる。
蓮は眉をひそめ、無言で立ち去る。
優次郎がエミとハイタッチし、守備の連携に感謝を示す。
「…なんだ今の?体が…軽い?」
エミは自分の脚を見下ろし、驚いた表情を浮かべていた。
—
時間はゆっくりと流れる。希望の嵐は幾度となくチャンスを狙うが、黒い影の守備は崩れない。
だが――
突然、黒い影のパスが乱れ始める。
ショートもロングも精度が落ち、ボールコントロールすらままならない。
—おっと、これはどうしたことだ!?
—黒い影の選手たちが次々とミスを連発!連携が崩れ、ボールを簡単に失っている!
スタンド上段から、それを見守るレオの顔が曇る。
「…一体どうしたんだ、みんな?」
—
「くそ…なんだこの感覚…」
優次郎は眉をひそめて考える。
「脚がまるで自分のものじゃない…動きが速すぎて、ついていけない…!」
—
「なるほどな、そういうことか…」
レオの思考が整理されていく。
「プレシーズンが始まって以来、俺たちは一日たりとも休まなかった。週末すら関係なく、ずっと練習してきた。」
「それによる筋肉の疲労が、俺たちの動きを重くしていたんだ。」
「でも今週はずっと休んだ。だからこそ、筋肉が一気に解放されて、体が軽くなったんだ。」
「…その変化に、俺たち自身の感覚が追いついてないってわけか。」
「くそ…俺の管理ミスだ。」
拳を握りしめ、悔しそうに唇を噛む。
「このままじゃ、チームが壊れるところだった…それをジョゼップは見抜いてたんだ。」
「まだ…まだ俺には、やるべきことが山ほどある――」
―――――
ミスが重なるたびに、希望の嵐の攻撃が激しさを増していく。
時間が経つごとに、黒い影のゴール前は砲撃の嵐と化していた。
そしてついに――
強烈なミドルシュートがゴール右上の隅へ突き刺さる。
橘理子が全身を伸ばしても届かず、ネットが揺れた。
―――――
「ゴオオオオオオオオオオオル!!!!!!」
スタジアムが歓喜の声で震える。
藤井健太は拳を突き上げ、まるで英雄のように立ち尽くす。
黒い影の選手たちはただうつむき、悔しさに拳を握りしめるしかなかった。
—なんという豪快なゴール!藤井健太、完璧な一撃!
—誰にも止められない!まるでゴールを量産するために作られたロボットのようだ!
—ついに希望の嵐が試合開始から25分、執拗な攻撃の末に先制点を奪った!
—さあ、顔を上げろ!まだ時間はたっぷりあるぞ!
優次郎が手を叩き、仲間たちを鼓舞する。
だがすぐに気づく――
仲間たちの顔は疲労で歪み、汗でびっしょりだ。たった25分が、彼らにとっては地獄だった。
「くそ……」
—
その後も時間は過ぎていく。
希望の嵐にとっては楽園のような時間、しかし黒い影にとっては地獄そのもの。
必死に耐えようとするが、運命は残酷だった――
—笛が鳴った!前半終了の合図だ!
—スコアはなんと3対0!藤井健太がすべてのゴールを奪い、希望の嵐が大きくリード!
—黒い影の選手たちは疲弊しきっている。数的不利の中、45分間走り続けたのだ。
—しかも、ベンチからは一度も指示が飛ばなかった…!
—後半45分、果たしてどうなるのか!?波乱の展開に期待が高まる!
―――――
ロッカールームに戻った選手たちの顔は、怒りと悔しさに満ちていた。
荒い呼吸、汗に濡れたタオル。湯気が立ち昇り、顔には無数の汗が流れていた。
「くそっ…まるでフルタイム戦い抜いたみたいだ……」
優次郎が呟く。
「でも……不思議だな。精神的には限界だけど、脚は全然平気なんだ。」
—
その時、ロッカールームのドアが開く。
視線が一斉にその先へ向く。
そこに立っていたのは、ジョゼップとレオだった。
誰かが言葉を発する前に、レオが深く頭を下げる。
まるで謝罪のように。
その行動に、全員が凍りつく。
—レオ、これはどういう意味だ?
カイが少し苛立った口調で尋ねる。
—話をしよう。
レオは真剣な眼差しで言い放つ。
その一言で、全員が顔を上げた。
まるで、風向きが変わる予兆のようだった。




