私の友人が困っているようです ~ エレノア編 ~
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本作品は「私の友人が困っているようです」のサイドストーリーです。
もし本篇を読んでいないようでしたら、そちらを先に読むことをお勧めします
私の名はエレノア・シュトラウス。筆頭公爵家の令嬢として育った私は、この国で最も重い責任を背負う一人だという自覚を持って生きておりました。
私は幼い頃から、王太子妃となるべき者として教育を受けてきました。物心ついたときにはすでに、将来の役割が私に課されていたのです。
日々の学びは休むことなく続きました。地理、歴史、経済といった王妃としての基礎知識に加え、文学や芸術、周辺諸国の情勢に至るまで、幅広い分野を学ばされました。そしてそれは、単なる知識の習得にとどまりません。淑女としての立ち居振る舞いや完璧なダンス、優雅な言葉遣いまでも求められたのです。
初めてクワトロ王太子殿下にお会いしたのは7歳のとき。
王妃殿下主催のお茶会に呼ばれた私は、他の令嬢たちと共に参加しました。
このお茶会は、上級貴族の中でも特に王太子殿下と近しい年齢の少女たちが選ばれ、その教養や知識を試される場なのです。
最初は十数名ほどいた参加者も、回を重ねるごとに人数は減り、ついには4,5人にまで絞られました。最後の段階で初めて殿下も参加するお茶会が開催され、そこで私は殿下に挨拶をする機会を得たのです。
その後、王妃殿下の御意向と王太子殿下との相性を考慮され、私は婚約者として選ばれるに至りました。それが私の運命だと理解していましたし、それを受け入れることで、私の役割が明確になったとも思えました。
しかし、婚約者としての生活は決して平坦ではありませんでした。
私の婚約者であるクワトロ王太子殿下には、双子の弟であるエドワード第二王子殿下がいらっしゃいます。同じ学年に在籍している二人ですが、その性格は対照的です。クワトロ王太子殿下は気性が激しく、情熱的で行動力がある反面、思慮に欠けることがあります。一方で、エドワード殿下は温厚で物静か、冷静に物事を見極める力を持った方です。
クワトロ王太子殿下の激しさが学園内でトラブルを引き起こすこともしばしばあります。その都度、私は殿下を宥め、相手方との調整役を務めてきました。それが婚約者であり、将来の王妃となる私の役目だと思っていたからです。
たしかに、不敬を承知で申し上げますと、国王となる方は、血統として由緒あっても毎回、必ずしも優秀な方とは限りません。そのことは過去の歴史が物語っています。
そして、それを補佐するのが妃の役割とは言え、クワトロ王太子殿下は少々思料深さが足りていないことや、立場を忘れて、その場の思い付きで発言されて、周囲を惑わしておきながら、すぐに興味を失って放置されたり、何かと自信過剰で周囲の助言を聞かないことがあるなど、将来は不安でしかありませんでした。
さらに、ある出来事が私の心に、漠然とした不安から、具体的な疑念を生じさせました。
まさか殿下は本当に……のでは?
最近、学園内で頻繁に目にする光景。それは、クワトロ王太子殿下が男爵令嬢のマリアンナ・ハイマント嬢と二人きりで話をしている場面です。人気のない場所で行われるそれらの会話は、殿下が目立つ立場であることを考えれば決して軽視できないものでした。
他の令嬢たちからも同様の話を耳にしました。彼女たちは善意から教えてくれたのですが、そのたびに私は胸の中に小さな棘が刺さるような感覚を覚えました。
ついにある日、私は殿下に苦言を呈しました。
「殿下、人目を避けてマリアンナ嬢とお話しされるのはお控えいただきたいのです。それは殿下のためでもありますし、マリアンナ嬢の名誉のためでもあります。」
殿下は最初、私の言葉に耳を傾ける様子を見せましたが、次第に苛立ちを露わにし、「何も問題はない」と言い切ってしまいました。
このときから、私の胸の中で漠然とした不安から、具体的な疑念へと形を成し始めたのです。
やはり殿下は本当に……のでは?
あの日、あのときから、すべてが始まりました。
私が学園から帰り、侍女に手伝ってもらいながら部屋で着替えをしていますと、メイドからリリーが訪問して来たという知らせが来ました。リリーとは、名をリリアン・シュペンクラーと言い、伯爵家の令嬢です。私の幼い頃からの友人で、リリー、エレと愛称で呼び合っています。身分を越えた絆で結ばれている私たちですが、今まで、このような突然の訪問など彼女がしたことはありませんでした。
私は胸騒ぎが収まらないまま、急いでサロンへと向かいました。
サロンでは、父のマイゼル・シュトラウスとリリーがお話をされているようでしたが、父は公爵家の当主ですが、リリーと父の事を「マイゼルおじ様」と呼ぶほどの仲です。それが、なぜか今日の彼女からは、ただならぬ緊張を感じました。
「それでは、お話します。まずはこれを見てください」
彼女がテーブルに広げた手紙を見た瞬間、私の胸には嫌な予感が走りました。そこには私の婚約者であるクワトロ王太子殿下が、マリアンナ・ハイマント男爵令嬢に宛てたものだと分かる恋文でした。
「ほう。このシュトラウス公爵家を蔑ろにするつもりかな……」
私が何か言う前に、父の表情が、見る見る曇っていくのが分かります。
リリーは父や私を前に状況を説明してくれましたが、私の頭の中には、別の問題が浮かび始めていました。
何故、こんな噂が立ち、こんな事態に至っているのか。
そして、噂。
「エレノアがマリアンナ嬢を虐めている」、「彼女を陰で脅迫している」、「エレノアがマリアンナ嬢に暴力を振るった」
そんな話が広まっているというのです。
私はリリーに正直に答えました。マリアンナ嬢とはほとんど話したことがないこと。それどころか、私が彼女に危害を加える理由すらないこと。
それなのに、なぜ?
それについて、リリーからも同じような言葉が返って来たのです。
「マリーは、エレとあまり話したことが無いって言っていましたわ。だからマリー自身も、そんなことをされた覚えはないと思いますわ」
何かした覚えのない加害者の私、何もされた覚えのない被害者のマリアンナ嬢。
その夜、私は一人、自室で静かに考えました。
私の存在が邪魔だということでしょうか?
私は王太子殿下の婚約者として、この国のために何をすべきかを常に考えてきました。そしてそれは、時として他者から「計算高い」「冷徹」と見られる原因にもなったかもしれません。
だが今回の件は、もはや私個人の問題ではありません。クワトロ王太子殿下がこのような振る舞いを続ければ、国家そのものが揺らぐ危険性すらあるのです。
私ができることはただ一つ、この状況を正さねばなりません。
翌日、リリーとマリアンナ嬢に会った私は、改めて彼女に謝罪した。
「マリアンナ嬢、先日の噂の件、大変申し訳ありませんでした。私が無関係だと証明するのは簡単ではありませんが、あなたに害を及ぼすつもりなど毛頭ございません。」
彼女は最初、怯えた様子だったが、リリーの説明もあって、次第に私の真摯な態度を理解してくれた。そして、二人で協力して真相を探ることを約束した。
卒業パーティ。あの日の断罪劇で、私が壇上に立たされたとき、私の心は静かだった。
クワトロ王太子殿下が婚約破棄を宣言し、私を非難する声が響く中で、私はただ冷静に彼を見つめていた。
もはや言葉はいらない。真実はリリーやエドワード殿下、そして国王陛下が証明してくださる。
その後、反逆罪で殿下とその側近が連行され、舞踏会の音楽が再び鳴り始めたとき、私は深い安堵を感じた。
「エレ、これからはもっと良い未来が待っているわ!」
リリーが微笑む。私は彼女の強さに心から感謝していた。
数日後、第三王子との新たな婚約が決まったとき、私は少しだけ肩の力を抜くことができた。この人は私を必要な存在として見てくれるのでしょうか?
そんな期待を胸に抱きながら。
これから先、私は国のために、そして私自身の信念のために歩み続けるつもりです。たとえどんな困難が待っていようとも、リリアン王太子妃殿下が友人がいてくれる限り、乗り越えていけます。
それが私の誇りであり、覚悟です。
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