プロローグ
怖い。心臓がずっとうるさい。
「なんだこの化け物…ランクA…いやランクSクラスか?
お逃げくださいお嬢様!長くは持ちません!」
「祖は炎人の徒 汝の力を以て 焔の飛礫を発現す 穿て ブレイズショットォ!」
「なんで中級魔術が通らないんだよ出鱈目だ!」
家臣達が決死の覚悟で私を逃がそうとしている。
…逃げなきゃ…わかってる、でも体が動かない。
「お嬢様逃げますよ!彼らの覚悟を無駄にする気ですか!走ってください」
侍女のララに腕を強く掴まれ無理矢理立たされ、数年ぶりに本気で走った。
…もうどれくらい走ったんだろう。…数時間走った気もするけど、実際は10分も経ってないのかもしれない。
「くっ、もう直ぐ追いつかれます!お嬢様…私の全魔力を使って防御魔術を付与します。どうか先にお逃げください。…そんな顔をなさらないでください…私の剣術がピカイチなのはお嬢様も知っているでしょう?すぐに追いつきますとも」
「そんな…でも!」
「…お嬢様が生まれてから10年、お仕えできたことが私の何よりの幸せでした。お逃げください!貴女は此処で終わる人ではない!」
…わからない。なぜそんなに私なんかを護ろうと、命まで投げ出せるのか。
わかりきった嘘までついて、気丈に笑うのか。
親からも愛されない私に、青い血以外の価値があるのだろうか…わからない。
生まれてからずっと神様を呪ってきた。身分も能力も要らなかった。
ただ普通の家族の幸せが欲しかったのに…ただそれだけだったのに…
「我が願うは固き守り 魔を祓い荒れ狂う力からこの者を守り給へ 御霊よ我が祈りを聞き届け叶え給へ」
ララが防御魔術をかけ終わると同時に化け物に追いつかれた。
「嘘でしょ?もう追いついてきたの…くっ…!」
ララが剣技を振るう。
でも、まるで歯が立たずに投げ飛ばされた。
「ララァ!…嫌だ…嫌だまだ死にたくない。まだ何にも出来てない…助けてよ、誰か助けて!」
わかってるよ…そんな都合のいいお伽話みたいな事、起こりはしないって。それでも、みっともなく叫ぶくらいしか出来ない。
バケモノが腕を振るう。
たった一撃。
たった一撃でララが付与してくれた防御魔術が砕け散った。
次はもう…
「誰か!!」
「ハハッ!可愛い顔が台無しじゃあないか。」
生まれて初めて女神様はいるんだって思った。
あれだけ呪った神様なのに、都合良くそんな事を思ったのをずっと覚えてる。だってそれは、あまりにも衝撃的で運命的で、虹色に煌めく出会いだったのだから。
「助けて…くれるの?」
「無論だとも!可愛いに女の子には甘いんだ私は。ついでにそこで伸びてるメイドも助けてあげよう。他は無理ごめんねぇ!」
「あり…ありがとう…」
「いいねぇ美少女の懇願は…最高だとも。…さて、熊なんだか獅子なんだかよく分からんお前は、美味しいのかなぁ!?…ほほぉう、ハラミ部分が絶品と。じゃあ頂きまぁす!」
「神天流 彗星」
あまりに一瞬の出来事だった。
化け物の後ろで、白銀の髪をたなびかせ片刃の剣を抜き終わった姿が見えると同時に、化け物の首が地に落ちた。
「終わった終わったぁ!晩飯ゲットぉ!
自己紹介がまだだったね、私の名前はサクラ。冒険者だよ。」
剣を鞘に納めつつ少女が駆け寄ってきて名乗ってくれた。
「…わたしはアリーヌ・ベルティエ。ベルティエ公爵家の人間よ。助かったわ。」
運命なんてものは本来無いはずだ。
星の数ほどの確定した事象が連なって現在があり、現在の選択によって未来が変わるはずなのだから。
そう全ては必然のはず。
でもこの出会いは確かに運命だった。
少女達にも世界にとっても激動の時代が始まる。
処女作になります。
誤字脱字、設定のズレetcあると思いますが生暖かい目で見てもらえると助かります。
この作品の概要をざっくり一言で言うと
「主人公が無双しつつヒロインと百合畑を耕したり燃やしたりする物語」です。
ほのぼのとやっていきます。
オナシャス!