8話 お風呂と噂とお誘いと
カッポーン
「うわー!ひろーい!」
「ここは一般大浴場ですからね。」
ここは、城に勤めている人なら誰でも入れるらしい。ちなみに、「役人様と一緒に入る訳には・・・」、と言うアリスを、さっきもこんな事したような。と思いながら
「私と入るのは嫌なんだ・・・。」と涙目で落とし一緒に入らせる事に成功した。
体も洗い終わった後、浴槽に飛び込もうと思っていた凜を止める者がいた。
「リン様。少しこちらに来てください。」
アリスは浴槽の横にある木製の四角い箱の傍に立っていた。
四角い箱からは木製の管が二本付いており、一本は壁へ、もう一本は浴槽へと繋がっており、どうやら浴槽にお湯を送っているようだ。
アリスの傍に行くと、アリスは四角い箱の蓋を開けた。中からは湯気が立っていた。
「リン様、中を覗いて見て下さい。」
アリスの声に従い中を覗いてみると、火が付いた赤い石と湯が入っていた。
「あの赤い石が火属性の魔石で、箱に入ってる水を温めてお湯にして浴槽に流し込んでいます。」
一本の木管から水を送り込み箱の中でお湯に変換、そしてもう一本の木管でお湯を浴槽へ。
「へ〜、給湯機みたい。便利ね。ん、明かりも全部火属性の魔石なの?」
「はい、そうですよ。でもそれは裕福な方の家だけです。私の故郷なんかは木に火を付けているだけでしたから。」
(明かりは火か・・・。電気という概念がないのかな。)
質問もそのくらいにして、二人で湯の中に肩まで浸かり、ぬぼ〜としていた。
「それにしても、リン様!」
「な、何!?
私もしかして、こっちのお風呂の禁止事項とかやっちゃった?って、あれ?あ、アリス!なんか目がヤバイよ!」
「なんてお肌が綺麗なのでしょう。あ〜もうスベスベです〜!」
「ひゃぁ!ちょ、アリス!ストップ!」
その後30分、凜はお湯の中でストップの意味がわからなかったアリスに体を撫でられ続けた。大浴場前の廊下で「汚された」と頬を染め涙目になっている少女と、スベスベした手触りを思い出してうっとりしている侍女が歩いていたとか。
チャルシーは昨日の朝、カトリーナ様を助け、今朝魔法・精霊科学副管長の職に就かれた旅の者に用意された客室の前に来ていた。彼女はカトリーナ付きの侍女でその者をカトリーナ様の部屋までお連れするよういい使ったのである。
その旅の者を見ている侍女はアリスとリミス以外にいなく、リミスは話してくれなく、アリスに聞こうにも朝からその旅の者につきっきりらしく、姿をみせない。
カトリーナを助けた事から、旅の者は男性、かなりムキムキで女好き。と侍女達の間では噂されている。アリスが帰って来ないのはその男にえっちな奉仕をさせられているからである。と噂されている。
この事を話し、怖いから。と断ったチャルシーにカトリーナは一瞬、目を丸くしたが、すぐに悲しそうな顔をして「あの方は私を助けた報酬として私の体を要求しました。」
だからこの部屋に連れてきてください。とチャルシーに言った。
チャルシーが出ていった後、カトリーナはお腹を抱えて笑っていたそうな。
(うぅ〜、怖いですぅ。でもカトリーナ様の為なのです。)
コンコン
「は〜い!開いてますよ〜」
「し、失礼します。」
ガチャ
チャルシーは扉を開けた瞬間前も見ずに床に頭をつけた。
「私の体を差し上げますから、カトリーナ様だけはどうかお許しください。」
「・・・は?」
お風呂から上がり凜とアリス、ガールズトークでキャッキャやっていると、控え目に扉をノックする音が聞こえた。
「は〜い。開いてますよ〜。」
「し、失礼します。」
やけに震えた声が聞こえ扉が開いたと思ったら、青色の髪を肩まで伸ばした少女が部屋の入口で土下座していた。
(この世界にも土下座ってあるんだ。)
妙な事に感心していると
「私の体を差し上げますから、カトリーナ様だけはどうかお許し下さい。」
少しの間、世界が止まった。
「・・・は?」
まだ青髪の少女は頭を付けたままだ。
「あの〜えっと、何いってるの?」
「あ、あぁ、すみません。この部屋の方はどこにいらっしゃいますか?ってアリス!大丈夫だった何か酷い事されてない?」
「え、えぇ。と何の話?」
チャルシーは侍女達が噂している事をアリスに伝えた。
「アッハッハッハな、何それ!お腹痛い!」
チャルシーは突然笑い出したアリスを訝しんだ。
するとチャルシーの背後から忍び寄る影があった。
「こら〜〜〜!」
「キャァ〜」
もちろん凜である。チャルシーは跳び上がって驚きアリスにしがみついた。そのせいで余計にアリスが笑いだした。
とりあえずアリスを黙らせチャルシーを落ち着かせた後、凜はチャルシーに噂は嘘だから、皆に言っといてと約束させた。
そして三人でカトリーナの部屋へと向かった。
(もうなんか疲れた・・・)
(カトリーナ様の嘘付き〜)
チャルシーは今、凜とアリスとともにカトリーナの部屋へと向かっていた。
(でもリン様がいい人でよかったぁ。しかも美人たし、言うことなしです。)
と思いリンをみた。するとたまたま目が合い微笑んでくれた。
(うわー、かわい〜ですぅ!)
女の子三人でキャッキャやっていると、カトリーナの部屋に着いた。
「カトリーナ様、チャルシーです。リン様をお連れしました。」
入室の許可をもらってから扉を開けた瞬間、凜が部屋の中へ駆け込んだ。
「カトリーナ〜!あんた何変な事言ってんのよ〜」
「キャァ〜」
ワイワイやったあと、どちらともなく笑いだした。
それを見たチャルシーは目を見開いた。
(あんなにも楽しそうなカトリーナ様初めて・・・)
チャルシーが驚いていると、アリスが話し掛けた。
「すごいでしょ、リン様。あの人ならなんかこの国を変えてくれそうな気がするの。」
「・・・えぇ、そうですね。」
(えぇ、ホントにそんな気がする)
二人は凜とカトリーナが笑い終わるまで微笑んで見ていた。
アリスとチャルシーの二人がしみじみしているなんて露ほども知らない凜は、カトリーナにチョップし笑い合った後、何の用かをきいた。
「お母様とお父様が夕食を食べるから呼んできなさいと。約束もしてましたし、一緒に食べませんか?」
「あ〜、食べるのは全然 構わないんだけど、私テーブルマナーとか全くわからないよ。」
「王族だけですし必要ありませんよ。」
いやいや、王族とかいるなら余計にいるじゃんとか思いながらも、凜は了承した。
「ありがとう、凜。チャルシー、アリス。あなた達はお風呂の用意をお願いします。」
「「はい、カトリーナ様。」」
そう言ってアリスとチャルシーは部屋を出ていった。
「では、行きましょうか。」
二人は王族の食堂へむかった。
(うわ〜、緊張する〜)
「そんなに緊張する事ないですよ。皆、仕事時は真剣ですけど、それ以外の時は優しいいい人達ですから。」
「あっ、そうそう。ミランさんとか来る?」
「ミランさんですか?」
「うん。ウェールズさんとミランさんとで仕事の話しときたいから。あっ、エカテリーナさんとか、いても大丈夫だよ。一応信用出来ない人はいない方がいいと思うけど。」
「・・・ニホンの事ですか?」
「うん、まぁそうと言ったらそうなんだけど・・・。あっ、アリスもよろしく。」
「わかりました。手配しておきますね。それと、夕食には私の妹のも、いますのでよろしくお願いしますね。」
「カトリーナの妹かぁ。どんな娘なんだろ?」
「ふふふ。楽しみにしておいてください。ほら、もう着きますよ。」
「うぁ〜、緊張してきた。」
二人は大きな扉前まできた。扉の両サイドには騎士が立っていた。
「カトリーナ様、リン殿お待ちしておりました。では、扉を開けますので少しお待ち下さい。」
左側に立っていた騎士がそう言うと、扉がゆっくりと開きだした。