4話 会議とほら吹き
「・・・・・」
集められた重臣達は誰も言葉を発せずにいた。
ここは会議の間。先ほどの出来事を重臣達にウェールズが話したのである。もちろんあの娘のことは伏せてあったが。
(ふん。何も反応できぬかこの腰抜けどもが。もっと驚くことがあると言うのに)
この国の外務大臣、ロザン・ヨロプスはそう思った。
ロザン・ヨロプス
前の戦で国王ウェールズとその弟トランと共に戦場に立ち、その死神のような武力によって前線で敵の士気をさげ、味方を鼓舞した人物である。その強さから¨炎帝¨と呼ばれ他国から恐れられた。ウェールズの幼い頃からの親友でもある。
(しかしウェールズ。あの娘をどう話すつもりだ)
そう、あの娘である。
神殿で女神像と入れ代わってでてきたなどと言えば、自分の益しか考えぬ奴らだ。自分達の家の発展のために媚をうって、取り込むだろう。
と、ロザンは考えていた。
勿論、賢王と呼ばれるウェールズもそう考えており、自分の本当に信頼出来る者しか神殿内に入れておらず、伝えていなかった。
「陛下。ここは戦争に備え民に税を納めさせるべきです」
「そんなことしてどうする!民の生活が今、困窮しているのをそなたも知っておろう」
「なら、いかがして軍資金を調達するのだ。国に資金がないのだからしょうがないであろう!」
「口を慎まぬか。それなら、何故か金があるお前達が出せばよかろう。何故そんなに金があるのか・・・」
そう、この王国に金などないはずなのに一部の重臣達の家は大きく、今も増築している状態なのだ。横領や裏切りは確定しているのだが証拠がなく、前王のせいで王権も堕ちているので、家宅捜査も出来ない状態なのである。
「何を!私達、自領の民はそなた達の民より勤勉なだけだ!そなた達の民がしっかりと働いていないだけではないのか?」
「そうだ!我らを疑うのは止していただきたい。
それに民は領主に似ると言う。そなた達領主が不真面目であるから民達も働かないのではないのか」
「「「なんだと!!!」」」
ある重臣の一言で会議の間は一触即発の状態になった。全員が席から立ち上がった。
(何をやっとるか・・・)
この王国の宰相 ロード・ロックワードは思った。
「何をやっとるか、ウェールズ国王の御前であるぞ!静まらぬか!」
宰相の言葉で口々に怒鳴り合っていた重臣達は渋々だが黙って席に座った。
全員が席に着いたのを見たウェールズは唐突に口を開いた。
「皆に、伝えねばならんことがもう一つある。」
(えっ!?今言うのか?)
ロード、ロザン、フレデリックなど神殿内にいた面々は、明らかにタイミングが悪いと思い話題を変えようとしたが、遅かった。
「今朝、我が娘カトリーナがお忍びで城下に行ったとき、何者かに襲われた。
幸い通りがかった旅の者に助けられことなきをえた。」
(((は?)))
「しかしその者が眠りの魔術をうけ、今客室で寝ておる。
カトリーナの恩人ではあるが、何者かわからぬゆえキングリーを付けておる。」
(((いや、無理があるだろ・・・)))
ウェールズの言葉を聞いた重臣達はロザンらを見て、驚いている顔を見て真実だと判断した。
はからずしも重臣達に信じ込ませる事に成功したのだった。
「ウェールズ様!その様な報告は一切聞いておりません!」
「そ、そうです、父上」
「そりゃそうだ。私も先ほど聞いたばかりだからな。まぁ、今は起きるのを待つとしよう。」
「わ、わかりました」
「あ〜、皆先ほど資金のことだが、今はどうしようもない。明日もう一度会議を執り行うから、よく考えてといてくれ。」
「「「はっ」」」
「エカテリーナよ。あの娘はどうだった?」
「まだ眠っているようでした。今は侍女に任せています。」
「ふむ。あの娘は我が王国の豊饒の女神となってくれるのだろうか・・・」
王の政務室でウェールズとエカテリーナは今後のことについて話し合っていた。
コンコン
「誰だ?」
「近衛騎士団長ロナードです。トラン様がお帰りになられました。」
「わかった。出迎えに行こう。トランから吉報が聞けるように祈ろうか。なぁ、エカテリーナ」
「そうですね。では参りましょうか。」
二人は政務室から出ていった。