3話 謎の声と黒髪の少女
この日、ウェールズはいつものように祈りを捧げていた。数分の祈りのあとそれは起こった
「女神よ!我が民と国をお守り下さい!恵を与えて下さい」
ウェールズの声自体は、小さく呟き程度だったが神殿内にいる者達にはよく聞こえていた。
祈りを捧げ終わったあと、王族や大臣達が政務のために神殿から出ようとしたときだった。
「待ちなさい。ウィルヘルム王国国王よ。」
「っ!?誰だっ!?」
ウェールズの声に反応して近衛騎士団長は、ウェールズの傍により何処から何が来てもいいように身構えた。それを見て固まっていた近衛騎士達は皆、王族の周りを警戒しはじめた。
大臣達は戦いの心得のある者は身構え、ない者は目に見えて動揺し王の様子を伺った。
「クスクス
そう身構えないでください。私は初代国王ウィルヘルと契約を交わしたモノ。」
その声は明らかに祭壇の上の女神像辺りから聞こえていた。
「・・・」
ウェールズや近衛騎士団長も固まって祭壇を仰いだ。中にいる者達は一言も話せなかった。何故なら今まで声が聞こえたなんて聞いたこともなかったからである。
「っ!?なんと!」
ウェールズが絞り出せた声はそれだけだった。
「禍を齎すものが、西の果てよりやってきます。黒の剣により大陸中の民の血が流れるでしょう。」
その言葉を聞き、直ぐさま正気に戻ったウェールズは片膝をつき、祭壇に向かって頭を下げ、問い質した。
「女神よ。私ごときがお尋ねするのは失礼かもしれませんが、お許し下さい。黒い剣とは何なのですか?禍とは?
我が国は今、前国王が引き起こした財政難に苦しみ、民達はアッパード帝国や魔物の侵略に怯えております。」
「国の剣は、ひとの死肉と血によって創られる破壊の剣。
アッパード帝国は既にその刃にかかっています。
結びなさい、大陸中に絆を・・・」
誰もが声を発っせずにいた。
アッパード帝国とは、ウィルヘルム王国の西に面する国である。五大国一の軍事力を誇り、国境を城壁で囲い込み、自国領の町や村にも城壁建てている要塞都市ならぬ要塞国家である。
何分経ったか。最初に正気に戻ったウェールズが大臣と宰相に「会議を行う。重臣達を集めろ」と命令しようとした時だった。
ピカァーーーー
眼も眩むような閃光が神殿内照らした。
皆一斉に腕で眼を隠し、辺りの気配に気を配りながら閃光がおさまるのん待った。
「うわっ!?なんだこれは?」
「くそっ!眼がー」
謎の閃光を直視してしまった者も何人かいるようだ。閃光がおさまっても眼が眩み視界の戻らない者が殆どだった。
徐々に視界が回復し、誰かが祭壇を見て呟いた。
「め、女神・・・」
先程までは祭壇の上に確かにあった女神像が消えて、そのかわりに黒髪の裸の少女が浮いていた。
最初に動いたのは王妃であるエカテリーナと第一王女であるカトリーナと皇太子妃であるルーナだった。
エカテリーナは黒髪の少女容態を確認し、カトリーナは侍女を呼びに、ルーナは男共を神殿からたたき出した。
しばらくして黒髪の少女の容態を確認し終えたエカテリーナが溜息ついた時、カトリーナが侍女を連れて、男共を神殿からたたき出したルーナがやってきた。
「エカテリーナ様、彼女の容態は?」
「大丈夫ですよ、ルーナ。気を失っているだけです。」
「ふぅー。それは良かったですわ。それにしてもお母様、彼女はいったい・・・。」
ルーナにたたき出された男達は、会議の間へ移動中だった。
口々に先ほどの黒髪の少女の正体を推察し話し合っていたが、どれも結論にはいたらなかった。
ウィルヘルム王国皇太子であるフレデリックもその中の一人だった。
「父上。彼女はいったい何者なのですか?それに神殿で聞こえた声も・・・」
「我にもわからん。だが、女神と関係があることは確かだろう」
「黒髪など見たことがありませんからなぁ」
「まぁ全てはあの娘が起きてからだろう。」
「ロザンの言う通りだ。まずは議論せねばならんことがある。キングリー!」
「はっ!」
何処からか黒衣を纏った小柄な男が現れた
「あの娘に害があるとは思えんが神殿に行き王妃達を守れ。何かが起こってからでは遅いからな」
「神殿内に入っても?」
「・・・構わん。王妃達を任せたぞ」
「はっ!」
キングリーと呼ばれた黒衣の男は消えていった
「ウェールズ国王。私達はいかがいたしましょうか。」
「お前達、近衛騎士達は各騎士団に女神の話を伝えろ。あの娘のことはふせておけ。」
「はっ!おいビル、「はっ!」このことを各騎士団に連絡しろ。万が一娘の事を聞かれたら客人だといっておけ」
「はっ!ハンス、ジャック行くぞ。ついてこい」
(やはり父上達でもわからんか。何か不思議な感じの娘だったなぁ。)
会議の間に着き、中へ入ると重臣達がほぼ揃っていた。
(忙しくなりそうだ・・・)
その頃、エカテリーナ達は侍女を連れて客室に来ていた。
ベットを囲むようにして立ち、ベットには、もちろん件の少女が横たわっていた。
「母様。お気づきでしょうか?彼女の髪、普通の平民とは思えないほど艶やかです。先ほど肌も見ましたが滑らかでした。」
「ええ。・・・どこかの貴族の令嬢もしくは王女かも知れませんね。」
「はい。しかし、エカテリーナ様、黒髪の者など見たことがありません。」
「・・・。今は考えても答えは出ないでしょう。リミス」
「はい。」
リミス・ティラミス。この城の侍女長である。
「この者を頼みましたよ。「はい」では、いきましょうか、ルーナ、カトリーナ」
「「はい」」
エカテリーナ達は会議の間に向かっていった。
「では、行きましょうか、ルーナ、カトリーナ」
「「はい」」
エカテリーナ様達はこの部屋から出ていった。
(確かに、この娘平民には見えないわね。何者なのでしょうか。エカテリーナ様達もよくわかっていらっしゃらないような感じでしたし・・・)
リミスはこの少女のことは考えたがわかるはずもなかった。
(考えても仕方がないですね。)
「アリス。「はい、リミスさん」あなたにこの方の世話をお願いします」
「わかりました。お任せ下さい!(やった〜!さぼれる)」
「(意気込んでるのにこんなこと言うのは可哀相ですが・・・)この方は王族の客人です。間違いのないようにお願いしますよ。」
「はい。わかりました」
「(あれ、以外と平静としてますね)では、皆さんいきますよ」
「「はい」」
二人の思考にはズレがあるようだ
ミリスは他の侍女を連れて客室から出ていった。
(頼もしくなりましたね、アリス)
そんな風に思いながら扉を閉めた時・・・
「ふぇっ!?お、王族!?」
と、聞こえ
(前言撤回ですね・・・)と侍女長が思ったそうな。